第44話「素直じゃない子」

『こ、氷ちゃんまで、お兄ちゃんの服を……!? はぅ……! お兄ちゃんが、お家の中でハーレムを築いてるぅ……!』


「ん……?」


 白雪さんの思わぬ登場に動揺していると、何やらガチャッと音が聞こえてきた。

 視線を戻してみると、雛の部屋のドアが完全に閉まっている。

 どうやら、新たな誤解を生んでしまったようだ。


 ……誤解かどうかは、怪しいが……。


「喜んでるくせに……」


 そして、目の前では目の前で、何やら翠玉えめらが不服そうに唇を尖らせながら、目を細めて白雪さんを見据えていた。


 それに対し、白雪さんは――

「よ、喜んでなどおりません……! 巻き込まれて、酷い目に遭ったのですから……!」

 ――赤く染まった顔のまま、若干動揺しているようにも見える、焦りを抱いた態度で否定をした。


 まぁ、うん……動画で聞こえていた感じ、俺と風麗ふれいの二人がかりでとんでもなく追い詰められていたようだしな……。

 本来監視と撮影役で終わっていたはずの彼女からすれば、思いもよらぬ災難だっただろう。


 全ては風麗が悪いので、俺に責任を問われても困ることではあるが。


「素直じゃない子」


 しかし、翠玉は白雪さんの言葉を言葉通りに受け止めていないようだ。

 態度も前の冷たい感じに少し近付いており……意外にも、あの性格が全て消えたわけではないようだ。


 そういえば昨日俺が離れてからは、一応今まで通りの学校の女王様として君臨はしていたようだし、俺と関わらない状況になれば元の感じになるのだろうか?


 う~ん、それは実際どうなんだ……?

 俺にとっては害がないが、周りからしたら厄介な女王様が居続けるってことだしなぁ。


 いや、逆に俺と同じで、翠玉の急変に戸惑ってはいたはずだから、むしろ前の態度のほうがしっくりくるのだろうか?

 その辺は、学校の奴らでなければわからなさそうだ。

 少なくとも、翠玉のお付きたちは前の彼女のほうがいいだろうし。


「わ、私は、翠玉様のようなドMではありませんので……!」


 翠玉の返しが気に入らなかったらしい白雪さんは、相手が主なのにもかかわらず、とんでもない言葉をぶつけた。


 やっぱりこの子、真莉愛さんや風麗に比べて、翠玉のことを舐めてるよな?

 絶対あの二人が相手だったら、こんなこと口が裂けても言えないだろ?


「失礼ね、私に冷たくしていいのは英斗君だけよ。風麗はまぁ……時と場合によるけど、冷たくされたら私はショックを受けるわ」


 うん、翠玉さん?

 それはいったい全体なんのカミングアウトですか?

 俺もこの場にいるってわかってる?


 思わずそう言いたくなるくらいには、翠玉の本音は頭が痛いものだった。


 時と場合によるというのは、多分――はきつい目に遭わされてもいいけど、普段から冷たくされたら溺愛している妹だけに悲しい、みたいな意味合いだろう。

 でも、いくら家の中とはいえ、そんなことぶっちゃけるなと思うが……。


「それに、本当に嫌だったのなら、どうして英斗君の服を着ているの?」


 翠玉は腕を組み、見下すように白雪さんを再度見据える。

 目を細めている姿は機嫌が悪そうで――うん、なんか怒っているのか……?


 そういえば、先程お昼寝に関しても白雪さんのことは除け者にしていたし……やっぱり、仲は悪いのかもしれない。

 学校では自慢げにしていたが、自分の意思に逆らってきた従者ではあるしなぁ……。


「こ、これは、私の服が着られる状態じゃなくなっていたので、代わりに体を隠すのにちょうどいい大きさだったからです……!」

「――という理由を付ければ着られると思って、わざわざタンスから引っ張りだしたのよね?」


「違います……! と言いますか、翠玉様だって英斗様の服を着ておられるではありませんか……!」

「私は許嫁なんだからいいのよ」


 が悪いと思ったのか、話を逸らすように翠玉の服装を指摘した白雪さんだったが、翠玉はドヤ顔でふんぞり返る。


 いや、うん……全然良くないんだけどな?

 許嫁がなんでもかんでも免罪符になると思うなよ?


 ――と思ったが、バチバチとしている二人の間に入るのはめんどくさそうなので、俺は黙って翠玉の首根っこを掴むのだった。

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