第37話「悪魔二世(?)」

「――お、おい、あれを見ろよ……!」

「いったい何がどうなってるんだ……!?」


風麗ふれい様が、男にお姫様抱っこされてる……!?」

「なにあれ、気絶させられているの……!?」

翠玉えめら様も、いつもは先頭を歩かれておられるのに、まるで付き従うように愛真君の後ろを付いて歩いておられる……!?」

「いったい何が起きているというの……!?」


 スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている風麗をお姫様抱っこしながら彼女の教室に向かっていると、廊下ですれ違う生徒たちが声を上げて驚いていた。

 当然だ、昨日までは学校を支配するように偉そうにしていた二人――まぁ、実質一人だが、その二人がまるで別人かのような光景を繰り広げているのだから。


 翠玉はもちろんのこと、風麗も男に自分の体を触らせることなんてなかったからな。


 ただ……気絶はさすがに言いすぎだろ。

 どう見ても、快適そうにかわいらしい寝顔を浮かべているじゃないか、と思った。


 ちなみに、俺のせいで翠玉が別人のように変わってしまったことがいろんな奴らにバレたので、もう翠玉の行動にはツッコまなかった。

 彼女たちほどの影響力を持った人間は、一部の生徒に知られた時点で全校生徒に伝わってしまうのだ。

 今更隠したところで意味はない。


 意味はないのだが――俺の顔をチラチラと見上げながら、頬を赤くしてモジモジはするな!

 変な誤解を生む!


 とだけは思ったし、言いたかった。

 まぁこんな大勢に見られているところで言っても意味はないんだが。


「――さて、これでいいんだな?」


 彼女たちの教室に着き、風麗を彼女の席に下ろした俺は、翠玉に確認を取る。


「え、えぇ、いいわ」


 彼女は頑張って今まで通りを演じようとするが、もう手遅れなんだよな……。

 まぁ、頑張ろうとしているので、その頑張りは尊重するが。


「――翠玉様……」

「愛真君にいったい何をされて……」


 うん、まったく意味はなさそうだが。


「雛、何かあったらすぐ俺に言って来ればいいから――」


 いろいろと片が付いたとはいえ、雛にとっては酷い目に遭わされた翌日だ。

 その元凶たちと同じ教室で過ごすのはしんどいだろうし、安心してくれるように声をかけてみた。


 すると――

「「「「た、大変、申し訳ございませんでした……!」」」」

 ――突然、俺たちに続いて教室に入ってきたうちの四人が、俺に対して土下座をしてきた。


 一瞬何事かと思ったが、顔を真っ青に染めながら俺の顔を見上げてきた彼女たちの顔を見て、合点がいく。


 昨日の放課後、この教室にいなかった奴らであり、雛を追い詰めた実行犯たちだ。

 あえて翠玉と風麗には、昨日俺と遭った出来事は話させず、雛の写真だけ消すようにさせていたが、翠玉が別人のように変わったことで完全に察したのだろう。


 自分たちも人格が変わるほどの酷い目に遭わされるんじゃないか――という恐怖が見て取れる。


 結構誤解ではあるんだが、言っても信じないだろうな……。

 それに、俺が翠玉をこんなふうにしてしまったのは、否定しようのない事実だし……。


 それはそうと、実行犯となると風麗からしたら優先順位が低いけれど、命令したのは翠玉だから、翠玉にとっては息がかかった信頼できるお付きといったところだろうか?

 彼女が目をかけているだけあって、全員顔はいい。


 ただ、性格はクソだ。

 雛ではなく俺に謝ってきた時点で何もわかっていないし、そもそも自分たちの欲のために人を傷つける時点で救いようがない。


 一応、清楚そうな子たちばかりというのもタチが悪いと思った。

 いじめをするなら、ギャルみたいな見た目のやつであれば『やりそうだな』と思うところだが、全員真面目そうでおしとかやな雰囲気を纏っているし、なんならいいところのお嬢様のようにも見える。


 翠玉たちが飛びぬけてお金持ちなだけで、この学校には結構お金持ちはいるみたいだから、天上院財閥と繋がりがある家なのかもしれない。


 となると、彼女たちに酷いことをするのはめんどそうだが――まぁ、最悪真莉愛さんがどうにでもしてくれるか。


『雛に酷いことをした奴らです』と言えば、問答無用で潰してくれそうだし。


「あの、彼女たちも反省していますので……」


 一応、彼女たちに対しては酷いことをしてほしくないらしく、翠玉が俺をなだめようとしてくる。

 まぁ、家の繋がりがあるとしたら、幼馴染だろうしな。

 風麗以外には興味を示さない奴だったのに、彼女たちの心配をするということは本当に性格は変わったのかもしれない。


 ……変わった原因が原因だけに、素直に喜べないが……。


「雛にしたことを反省で許せると思っているのか?」

「――っ」


 別に威圧をするつもりはなかったので、普通に視線を向けて聞いてみただけなのが、翠玉は言葉を失って俯いてしまった。

 それにより、教室にいた奴らと、廊下から中の様子を窺っていた奴らが畏怖を含んだ目を俺に向けてくる。


 今までは翠玉が恐怖の象徴だったのに、そんな翠玉を一瞬で黙らせたように見える俺は、新たな恐怖の象徴になってしまったようだ。


 昨日までの、平穏だった俺の学校生活が嘘みたいだな……。

 まぁ翠玉みたいに普段から周りを威圧するようなことはしないし、今までの行いがあるから、誤解はすぐ解けると思うが……。


 そんな呑気なことを俺が考えていると――

「あ、あなたが翠玉様に喜んでもらうために、服を剥いで写真を撮ろうって言い出したのですから、ちゃんとそのことをおっしゃってください……!」

「えぇ!? わ、私だけのせいにしないでください……! あなたたちも乗ったではありませんか……!!」

「ですが、翠玉様からのご命令は、少し怖い思いをさせてやりなさい、というものでした……! あそこまでやりなさいとはおっしゃられておられなかったのに、あなたが進んでやりたがったのではありませんか……!」

「そうです……! それに、風麗様からは体を傷つけるのは許さないと言いつけられておりましたのに、明らかにやりすぎでした……!」

 ――まさかの、罪のなすりつけ合いを始めた。


 よほど、俺に仕返しされるのが怖いらしい。

 意外ではあるが、どうやら雛に水をかけたことも、写真を撮ったことも彼女たちの独断だったらしい。

 俺は翠玉が指示したものだと思っていたので、彼女たちはここでそのことを話さなかったほうが幸せだっただろう。


 意図としては、こうして俺にも聞こえるように話すことで、元凶は一人だけで雛を酷い目に遭わせたのはそいつだ、というふうに俺の怒りを一人に集めたかったのだろうが、発案者は一人でもやったのは四人全員だし、翠玉という絶対的支配者の言うことに逆らえずにやったわけでもなかった。


 彼女に更に取り入りたくて、雛を生贄いけにえにしようとしたと、自分たちで言っているようなものだったのだ。


 ましてや、仲間を売るほどのクズ――素直に、容赦はしなくていいと思った。


 権力と金がある中で甘やかされて育ったのかもしれないが、世の中を舐めすぎている。


「女子だから、暴力を振るつもりはないし、正直怖い目に遭わせるのもどうかと思っていたが……」


 俺がそう呟くと、四人の美少女たちがビクッと肩を震わせる。


「え、英斗君……?」


 翠玉も、いったい俺が何を考えているのかと、若干怯え気味に顔を覗き込んできた。


 そんな彼女の顔を見た俺は、いい案が浮かび――

「そうだな、暴力的解決なんて意味がないし、お仕置きってことなら適したものがあったな。明後日は土曜日だし、明日の放課後、翠玉の屋敷を使わせてもらえないか? うちの風呂場だと、狭くて無理だろうし」

 ――ゴミを見るような目で彼女たちを見た後、翠玉に笑顔でお願いをしてみた。


 それを聞いた翠玉は、全てを察したようで――

「英斗君も、十分悪魔です……」

 ――と、顔を赤くしながら身震いしたのだった。

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