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朝陽はそれから小雪の呼び出しには全て応じた。こきつかわれ奴隷のような毎日が待っているかと肝を冷やし吐き気を催していた朝陽だったが、小雪の呼び出しは毎週木曜日の11時からご飯を一緒にたべてほしいということのみだった。小雪さんは木曜日は遅番なので、午前中は時間が空いているのだろう。

場所はいつも第四ビルだ。第四ビルはドラッグストアの最寄り駅の目と鼻の先にそびえ立っている。第四ビルに常駐している管理人の白髪のおじさんは顔の大きさのわりに小さめの丸メガネをかけており、いつも小雪と朝陽をすんなり通して屋上に立ち入ることを許可してくれる。知り合い…だろうか。気になるが深入りは絶対にしないと朝陽は心に決めていた。

第四ビルの屋上は、簡易ベンチがいくつも並べられており小さなテーブルがひとつ設置された殺風景な場所だったが、街並みが一望できた。

小雪はタッパーをいくつも取り出してテーブルに並べる。呼び出しをくらったはじめは人肉とか出てきたらどうしようと戦慄したが、普通の手作りの食事だ。今日はタッパーからハムサンドが飛び出してきたし剥いたリンゴがみっつ詰められていた。

小雪は毎度、朝陽になんでもいいから話しを聞かせてと頼んでくる。

朝陽は口数が多いタイプではないが、命がけなので必死に最近あった出来事を話した。

今では小雪に話すネタをネタ帳に書きこみストックするまでに至る。

小雪からは、自分がビッグフットというクリーチャーの一族であり、人と同じ見た目をしているが人間ではないことを聞かされ、行動は常に国に監視されており善良な国民の命を無下に扱うことは禁じられているので朝陽の安全は守られていることを聞かされた。

小雪はビッグフットの末裔だが、素朴でどこにでもいそうな女性にしかみえなかった。「あしも標準サイズだよ」と言われて非常に反応に困ったことは記憶に新しい。

樺谷店長、俺も嫌味言われて苦手だったしな…と考え心を寄せててしまうほどあの夜の惨殺現場が幻を見ていたようで小雪に安心感を抱いていた。なので朝陽はついつい口走った。おれの両親しんでるんですよと。



朝陽が小学生に上がる前に、両親は交通事故で亡くなった。母の妹夫婦が引き取ると申し出た。二人の間にはこどももいなかったため朝陽は妹夫婦に預けられ育った。

窮屈で仕方なかった。

妹夫婦にとって朝陽は家族ごっこの息子役のお人形だった。

子供の頃はストレスで身体中掻きむしり全身皮膚がボロボロに荒れていた。歯医者で抜歯するとき歯ぐきに麻酔を打つ感覚と似ているが、いつの日かを境に心が辛さを感じなくなったため皮膚の状態は良くなった。

大学まで進学させてもらいながらこんなことを思うのは罪だろうか。絶対口に出して言わないから許してくれないだろうか。


朝陽は大学の講義を受けおわり隣に席取っていた女生徒たちの会話が妙に耳に入ってきた。「ママがさあ、まだお弁当作って持たせてくんの!迷惑なんだけどお、あたしファミレスいきたいのに!」

甘ったるすぎる女の声は、とんと気分がわるくなるからこまる。

あー…。恵まれてる人間が振りまく言葉って的外れすぎてたまーに、他人の心を破壊すんだよな〜。

全て投げ出すタイミングって、いきなりやってくるもんなんだな。

朝陽は小雪にメッセージを送った。


小雪は土曜日の夕方に朝陽からはじめて呼び出されてご機嫌だった。小雪は生まれてこの方友人とよべる存在がいなかった。ビッグフットの末裔なので、学校という教育機関に在籍したこともない。なので朝陽のはなしがたのしくて新鮮でしょうがない。ごはん食べながらおしゃべり できることが小雪にとって癒しの時間だった。


最近朝陽は笑うようになった。控えめだが人懐こい笑顔は実年齢よりも幼く見える。

朝陽のはなしを聞いていて、常に一線引いて世界を眺めているような子だと感じた。自分以外の人間に干渉する責任を大きく捉えるふしのある真面目すぎる青年に殺人現場を

見せてしまい小雪は反省していた。同時に朝陽がクリーチャーである小雪に馴れてきたことに一筋の光を見いだしそうになる…まるで友人ができたような気分になれているからだ。

小雪は密かに朝陽のことを友人に近しいものの代替えとして見ていた。

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