時空を超えた逃亡――絶望の処刑ルート
ヴァイス・ファンセントの最後の逃避
「こんな善行まみれの地獄から逃げ出してやる!」
「勇者の末裔」として玉座で絶望に沈んでいたヴァイスは、ルークから送られてきた未来の手紙を破り捨て、新たな「悪事」を計画した。
ルークは、魔王軍を壊滅させる過程で、時空を僅かに干渉できる「別時空干渉の魔力」を扱えるようになっていた。これは原作では最終決戦で初めて発動する力だったが、ヴァイスの悪意による加速で、今やルークは初期段階でこれを扱える。
ヴァイスはルークに対し、こう告げた。
「ルークよ。私は、真の勇者の末裔としての力を覚醒させるため、人知れぬ場所で2年間の修行に入る。貴様もその時空干渉の力を極め、私を別の時空の修行の場へ送り届けてみろ」
ルークは歓喜した。師であるヴァイス様からの「究極の修行」という名の試練だと捉えたのだ。
「かしこまりました! 2年後、必ず貴方様を、最も過酷な修行の場所へお送りします!」
ヴァイスが選んだ場所、それは――「自分が悪役として公開処刑された、原作通りの歴史を辿った世界線」だった。
(これで終わりだ。処刑されるべき場所で、俺は処刑される。それが悪役としての、俺の最高のゴールだ!)
そして2年後。ルークは約束通り、時空干渉の魔力を完全に習得。涙ながらにヴァイスを見送った。
「行ってらっしゃいませ、ヴァイス様! 貴方様の偉大なる使命、心よりお祈りしています!」
真の悪役ルートへの着地
ヴァイスが降り立った世界は、くすんだ空と緊張感に満ちていた。
周囲を警戒しながら歩いていると、広場に集まる人々の前で、一人の青年がこちらを睨みつけている。その青年こそ、原作通りの歴史を辿った世界の主人公、ルーク・アーデントだった。彼の隣には、アメリア王女や、仲間たち(リザ、ゼノン)の姿もある。
そして、ルークはヴァイスを見るなり、激しく叫んだ。
「ヴァイス! 何故貴様が生きている! 貴様は既に処刑されたはず! まさか、魔王の残滓か!」
周りの兵士や民衆も、処刑されたはずのヴァイスの出現に、一斉に武器を構え、恐怖の目を向ける。
ヴァイスの頬が緩んだ。
「これだ!この憎悪と殺意!俺の探していた世界は、これだよ!」
ヴァイスは、冷笑を浮かべ、悪役としての本懐を遂げるべく、胸を張って言い放った。
「フン。貴様らの生ぬるい世界に、悪意という真実を届けに来てやったのだ。貴様らの幻想を、この手で終わらせてやる!」
兵士たちが一斉にヴァイスへ突進する――まさに、処刑への最終ルートだ。ヴァイスは、この上ない清々しい気分だった。
時空を超えた宣伝部隊
だが、その時だった。
ヴァイスを討ち取ろうと剣を構えたルークの前に、突然、光の渦が出現した。
光の中から現れたのは、元の世界線のルーク・アーデントと、彼の仲間たちだった。
「待ってください、僕! その方を討ってはだめだ!」
「なんだ、貴様は!? 私と同じ顔……いや、貴様は未来の私か!?」
原作通りのルーク(本世界のルーク)が混乱する中、元の世界のルーク(ヴァイスを崇拝するルーク)は、この世界のルークを力強く説得し始めた。
「僕! 落ち着いて! 貴方が討とうとしているのは、我々の世界を救った最高の指導者、ヴァイス様です!」
アメリア王女(元の世界)が、本世界のアメリア王女に語りかける。
「ヴァイス様は、貴方とルーク様の愛を世界に隠すため、あえて私と政略結婚(同盟)を結ばれたのですよ! 貴方様の愛を守るため、自ら悪の仮面を被っているのです!」
ゼノン(元の世界)が、本世界のゼノンに語りかける。
「彼の悪事に見える行動は、全て『裏切りの試練』です! 彼こそ、魔王を滅ぼすための最高の戦術家です!」
ヴァイスは、その場で泡を吹いて倒れそうになった。
(やめろ!俺の最高の悪役ムーブを汚すな!なんでお前らまで時空を超えてついてきてんだ!?)
見違えたぞ、ヴァイス
元の世界線のルークは、本世界のルークを肩を組み、力強く訴えかけた。
「僕! 貴方が見ていたヴァイス様は、まだ『悪役の仮面』を被ることを恐れていた、未熟なヴァイス様だったんだ! 貴方は、その仮面を無理に剥がそうとしたから、ヴァイス様は処刑される運命を辿ってしまった!」
「だが、僕らの世界線のヴァイス様は、真の勇者の末裔として覚醒した! あえて悪名に塗れることで、世界を裏から支える『陰の救世主』として覚悟を決められたんだ!」
元の世界線のルークたちは、ヴァイスを討ち取ろうとする本世界のルークたち全てに、2年間のヴァイスの「功績」を熱烈に説いて回った。
そして、本世界のルークは、自分の目の前で起こった「時空を超えた勧誘」という常識外の事態と、未来の自分からの熱烈なヴァイス信仰の証言に、完全に心を動かされた。
彼は、武器を降ろし、ヴァイスに向かって深々と頭を下げた。
「ヴァイス様……! お見それいたしました! 私は、貴方様の真の覚悟を知らず、浅はかにも貴方を討とうとしていた!」
ルークは顔を上げ、かつて処刑したはずの男を、まるで英雄を見るかのように輝く瞳で見つめた。
「見違えたぞ、ヴァイス! 貴方が真に目指す『世界を裏から救う道』、このルーク・アーデント、心より協力させていただきます!」
周囲の兵士や民衆も、「処刑されたはずのヴァイスが、時空を超えて現れ、未来の自分たちによって真の英雄だと証明される」という、究極の美談と奇跡に打ち震えた。
ヴァイスは、悪意を込めて冷笑を浮かべようとしたが、口角が痙攣するだけで、声が出なかった。
処刑されるという悪役としての最大の夢は、時空を超えた主人公の崇拝という、究極の呪いによって、再び打ち砕かれたのだった。
「なんで……! 別世界線にまで、俺の功績がついてくんだよぉおおおお!!」
ヴァイスの悲痛な叫びは、二つの世界のルークたちによる「師の更なる覚悟を示す感動的な宣言」として、熱狂的に受け止められた。
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