第16話

 「よーし、小鳥遊たかなし。霊力安定したな!」


豪快な声と共に、なぎの隣にいた残夏ざんかの頭を大きな手が掻き混ぜた。

凪と残夏の担任の武田たけだだ。

熱血そうな見た目に反して頭の上は寒々しいが、誰にでも等しい態度で接してくれる頼もしい教師。


 当初いた担任はいつの間にか消えていて、凪達のクラスは武田が担当するようになった。

そのおかげか、最近は残夏に対する陰湿な言葉や嘲笑は表立って現れていない。

武田がそういう行為を嫌って厳しく指導してくれるからだ。


 そんな穏やかな日々の中、残夏は霊力制御のコツを掴んだらしく、以前より授業も楽しそうに受けている。

そして凪もまた残夏の嬉しそうな表情に心が浮き足立っていた。


 だって残夏は友達だ。凪の初めての。

だから残夏が嬉しければなんでも嬉しいし、一緒にいるだけで楽しい。


ーーだけど……。


最近、考えてしまう。

だけど残夏はどうなんだろう。

残夏は凪のことをどう思っているのだろうか。同じ14番隊だから一緒にいるけれど、残夏もそのうち凪とは別の友人ができるはずだ。

そうしたら、その子から残夏は凪の秘密を聞くかもしれない。


その時、残夏は凪のことをどう思うのだろう。


ーーもし、もしも、残夏くんがぼくのことを知ってしまったら。


残夏は凪の事をーー、


「凪?次、凪の番だって。」


遠くに沈んでいきそうだった思考の端で残夏の声が響いた。驚いて顔を上げれば、残夏の不思議そうな顔と武田の呆れた顔が視界に入る。

きっとまた凪の集中力が切れていたと思っているのだろう。そしてそれは事実だ。


「あ、うん!任せて!」


凪は慌てて明るい声をあげ、目の前の葉を結晶に変えた。れいと特訓した霊力制御。

ほんの少しでも間違えるわけにはいかない。


ーー大丈夫。大丈夫だよね、玲ちゃん。


葉が輝いて、コトンと固くなる。

良かった。今回も霊力を暴走させずに上手く行った。


凪は息を吐き出すと残夏を振り返った。綺麗に結晶化された葉に残夏の瞳がキラキラと眩しく輝く。


嬉しい。楽しい。幸せ。


だけど。


 凪は残夏の視線に応えるように笑顔を作りながら、刺すような他の生徒たちの視線は無視をした。

こんなのはいつものこと。

だから、お願い。気がつかないで。

心の中でそっと願う。


ーーねえ、残夏くん。君は、どう思うのかな。


凪は残夏に結晶化した葉を手渡した。嬉しそうな顔に目を細めて、ふと空を見上げる。


分かっている。ちゃんと、残夏に伝えないと。



 残夏はまだ知らない。

残夏に向けられる敵意の視線。


その半分以上が凪に向けられていることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る