異世界調味料転送 ~チート特典が醤油だった件~

本を書く社畜

第1話 女神のミスと俺の徳の高さ 死ぬなんて、予想外だった。

 死ぬなんて、予想外だった。 

 いや、正確に言うと、トラックに轢かれるのは予想外じゃなかった。だって、俺みたいな冴えないサラリーマンが、毎朝の通勤ラッシュでスマホをいじりながら横断歩道を渡るなんて、自殺行為みたいなもんだ。問題は、その直後だ。

 目が覚めると、そこは真っ白な空間。雲海みたいな柔らかい光が広がってて、中央に浮かぶ玉座に座ってるのは、銀髪の美女。透き通った青い瞳に、完璧なプロポーション。まるでゲームの女神キャラそのものだ。

「ようこそ、勇者よ。私はこの世界の女神、エルフィリア。あなたは神々の都合で巻き込まれた被害者……つまり、異世界転生の特典を授けましょう。望みの能力を申せ」  


 女神の声は鈴みたいに澄んでて、俺の心臓をドキドキさせた。異世界転生? マジかよ。ネット小説で散々読んだやつだ。チート能力でハーレム作って、魔王ぶっ倒して、王女と結婚……夢みたいなシナリオが頭をよぎる。  


 女神は少し困ったように微笑んで、言葉を続けた。「最近、この世界アステリアには、あなたの故郷・日本という国から、多くの魂が転生してきているの。交通事故や病、時には自ら命を絶つ者たち……彼らはそれぞれに能力を与えられ、冒険者や王族の側近、果ては奴隷として散らばっているわ。あなたもその一人。でも、特別な願いを叶えてあげる」


 他の日本人か。そりゃそうだよな。俺の知り合いだけでも、SNSで「異世界行きの予感」みたいなジョーク飛ばしてた奴らがいっぱいいる。きっと今頃、奴隷市場で「日本語話せる人、助けて!」って叫んでるんだろう。  

 チート能力でハーレムや俺つえー系じゃなく、もっと大事なことがある。金持ちの冒険者になるより、俺の同胞たちが、あの異世界でどんな目に遭ってるか想像してみろよ。きっと、異世界のクソみたいな味付けの飯で、毎日悶絶してるはずだ。醤油も味噌もない世界で、ステーキに塩胡椒オンリーとか、地獄だろ。米すらまともにないんだから、日本食の基盤すら崩壊だ。

  「同じく異世界転生・転移させられた同胞の元に、米と調味料全般を転送する能力をください」


 女神の目が見開かれた。玉座から身を乗り出して、耳を疑うような顔。「は???」  

 

 その反応、予想通り。俺はニヤリと笑った。徳が高いんだよ、俺の。他の日本人たちが剣や魔法のチートで暴れ回る中、俺は食の救世主になる。米を基盤に、醤油、味噌、みりん、鰹節、マヨネーズからわさびまで、調味料全般を無限供給。異世界飯の救済だ。


 女神はしばらく固まってたが、やがてため息をついて手を振った。光の粒子が俺の体に染み込んでいく。「ふ、ふざけた能力ね……まあ、願いは叶えるわ。異世界アステリアへ転生よ。さあ、行ってらっしゃい! 他の日本人転生者たちに、伝えておいてあげるわ。あなたみたいな変わり者がいるって」  視界が渦を巻いて、俺は闇に落ちた。  ――この能力、本当にチートなのか? それとも、ただのジョーク? (つづく)

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