第12話 下町慕情。カラフルなミニ餅と駄菓子屋のおばあちゃん。「あら、それ懐かしいわね……」

 駅に到着した僕と和奏。

 本日は、下町を散策したいという彼女の希望により、電車をいくつか乗りつぎ、前回のデート場所よりすこし遠い場所にある町へと移動する。


「下町って言ってたけど、どこに行くの? 浅草とか?」

 

 電車内で並んで腰かけ、和奏に訊ねた。

 結局、行き先は一任してしまった上に、具体的な場所は聞いていなかった。

 下町とひとくくりに言っても、浅草のような観光地や、住宅地など、さまざまだろう。


「……今日行く所は、観光というより、古くからの住宅地的な場所よ。人が多い所より、いいと落ち着いてていいと思わない?」

 

 ──もしかして、女装で人混みを避けるために気を遣ってくれたのだろうか……?

 雑談を交わしつつ、随時、電車を乗り換える。都心と異なり、電車を待つ時間も長く感じる。

 ──やがて目的地に到着。ホームへと降り立ち、改札を抜ける。


「着いたわね……」


 駅前に立つ僕と和奏。

 人や車は居るので閑散としているわけではないが、どことなく物静かな雰囲気だ。


「下町情緒って言うのかしら……」


 和奏が呟きを漏らす。

 商店街には昔ながらの八百屋、魚屋、豆腐屋、クリーニング店にスナックなどが立ち並んでおり、落ち着いた雰囲気がある。地元の人々のそばへと寄り添う、そんな街の姿。

 路面電車も行き交い、不思議と懐かしい気持ちに包まれる。

 その中に立つと、ブラウスにフレアスカートという僕の出で立ちは、すごくアンバランスに感じられた。

 駅前から離れ、細い通りへと足を踏み入れると、現実から切り離されたような静けさ。

 小さな駄菓子屋さんがあり、中を覗いてみる。


「いらっしゃいな……若いおふたりさん」


 座布団に座ったおばあちゃんがシワだらけの顔に、柔和な笑みを浮かべる。


「ふたりとも、ベッピンさんやねぇ……」


 華やかな服装と雰囲気の僕たちを見たおばあちゃん。

 僕が男だって気付いてないのだろうか……。


「あったかいお茶、飲んでくかい……? 外から来て寒かろう……」


 和奏と顔を見合わせる。


「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただいてもいいかしら?」

 

 ありがたくも、おばあちゃんに温かいお茶を淹れてもらう。

 店内を見回すと、小さな空間の中にびっしりと色々なお菓子やおもちゃが並んでいる。

 昔からやっているアニメキャラのお面や、僕の知らないアイドルのブロマイド、小さなお菓子の数々……。


「あ、これ……」


 薄いプラスチックケースの中に入った、グミやゼリーのような小さな正方形のカラフルなミニ餅。昔、よく食べたその駄菓子。


「あら、それ懐かしいわね……」

「……和奏でも食べたことあるの?」


(てっきり、お金持ちのお嬢様かと思っていたけど……)


「あたしをなんだと思ってるのよ……?」


 ふたりそれぞれ、チェリー味とサイダー味を購入。

 ちょっとずつ分け合い、おばあちゃんの入れてくれたお茶を飲む。

 ——至福のひととき。

 しばしのまったりタイムを過ごす僕たち。

 二十分ほどおばあちゃんとお話して、長居も悪いだろうと、暇乞いをする。


「お茶おいしかったわ……おばあちゃん、ありがとう」

「おばあちゃん、ありがとうございました」

「またおいで」

 

 小さく手を振ってくれるおばあちゃん。

 また来よう……次もまた、和奏とふたりで。

 ──決意を胸に、駄菓子屋をあとにする。

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