第2.5章

第10話 誰にも言えない恋人。じゃれあう和奏と凛。「……失恋早々、何かいいことでもあったか?」

 和奏との初デートも終わり、休日明けの月曜日。

 妹の琥珀と一緒に朝食をとってから、家を出る。

 和奏とのデートからまだ完全に覚めきっていない僕は、若干ぼんやりした気持ちで学校に到着し、昇降口で上履きに履き替える。

 すると、唐突に軽く背中を叩かれた。


「優、はよーーっす」


 航汰が口元に手を当てながら欠伸あくびをしている。


「……おはよう、航汰」


 他クラスの女の子たちが、上履きに履き替える航汰を見て、黄色い声をキャーキャーあげて騒いでいる。

 イケメンってのは凄い。

 ──しかし、僕にだって生まれてはじめて彼女ができたのだ! しかも、誰もが羨む、黒髪清楚美人の亜桜和奏。

 ──女装でデートするという条件付きではあるけれど……。


「ん? なんだか機嫌良さそうだな……失恋早々、何かいいことでもあったか?」

「そ、そんなことあるわけないでしょ……」


 航汰がズボンのポケットに手を入れて歩き出す。僕もそれに合わせて教室へと向かう。


「亜桜に振られた男子、一週間は立ち直れないってもっぱらの噂だからな。優が元気そうでよかったぜ」

「そういう情報は告白する前に教えてよ……」


 嘆息している間に教室へと辿り着く。

 クラスメイトに挨拶しながら和奏の席に視線を向ける。

 すでに授業の準備を済ませたらしい彼女が、凛と話していた。

 ちなみに、和奏からレインで『教室内では話しかけないで!』とお達しが来ていたため、僕のほうから声を掛けることはない。

 和奏と僕の席は割と近いため、自席に座ると自然に会話が聞こえてくる。


「和奏と土曜日遊べなくて寂しかった……」

「……ごめんなさい、凛……ちょっと急用が入ってしまって……」

「……うぅん、わがまま言ってごめん……あたしも日曜は毎週スイミングスクールで忙しいから、お互いさまなのに……」

「……今度埋め合わせするから、待っててね、凛……」


 凛を優しくギュッと抱きしめる和奏。

 女の子同士の親密な密着。


「あら……?」


 和奏が凛から身を離す。

 彼女の僅かに膨らむ胸元へと視線を向ける。

 

「……凛、もしかして、ちょっと大きくなった? ちょっと触ってもいい……?」

「い、いいよ……」

 

 凛の背後へと周り、その膨らみを両手で揉む。


「やっぱり、大きくなってる……」

「う、うん。このあいだ計ってもらったら、ちょっと大きくなってた……ねえ、あたしも触っていい……?」

「もちろんよ……」


 恐れ知らずなのか、凛は正面から和奏の両胸を揉みはじめる。


「うわっ……! ちょっと前に一緒にお風呂入った時より大きくなってない……?! ……あっ……」


 凛が固まったまま顔を真っ赤にさせている。


「……凛どうしたの? 顔真っ赤よ……?」

「な、何でもないからっ……!」


 女子同士ならたまに見かける、そんな一連のスキンシップ。

 顔を赤らめる凛に、ほっこりした感慨を覚えた。


◆◆◆◆


 ホームルーム前にトイレへ行こうと教室を出る。廊下にいた和奏と目が合った。

 周囲をささっと見渡し、誰かに見つからないよう、廊下の陰にふたりで移動する。


「土曜日はありがとう。あんな楽しいデート、はじめてだったわ」

「うん、僕も楽しかったよ」

「また行きましょうね」

「……ねぇ、僕と遊ぶの、日曜にしたほうがいいんじゃないかな?」


 凛が土曜日しか空いてないなら、僕とのデートは日曜でもいいはずだ。 


「日曜はあたしも塾があってね……なかなか時間がとれないのよ。でもね、凛とは平日でも、塾とかスイミングで忙しい時以外は、放課後に遊びへ行ったりしてるから大丈夫よ」

「うーん……」

「……そもそもね、あなたとのデートは、女装があるじゃない? 時間がある時じゃないと難しいのよ……どうしても一日がかりになっちゃうからね」

 

 和奏と話を終え、おたがいトイレへ。

 用を済ませ、教室に戻ると、扉の前に誰かがいた。

 ──クラス委員長の、恩田麻音だ。

 彼女が、胸の前で腕を組み、教室前に立っていた。眼鏡の奥の視線が険しい。


「……殿村くん。あなた、さっきコソコソと、和奏となにか話してたでしょう?」


(──見られていたのか……!?)


「……先生からの伝言を聞いただけだよ」

「廊下の陰で人目を憚って……? 一体どんな話をしてたんだか……」

「恩田には関係ないでしょ……」

「……まあ、いいわ。ただ、彼女に対して、よからぬことは考えないことね」

「よからぬことって、何さ……」

「高校生なんだから、ちょっとは考えなさいよ……他の男子みたいに、和奏にちょっかい出したいだいなら、やめておきなさい。誰かが傷つく前に、ね」


 ──和奏と言葉遣いは似ているものの、噛み付いてくるような雰囲気の恩田。

 物騒な、何かを見透かしたような物言い。

 面倒なことにならなければいいけど……。


 ──ピロン。


 スマホにレインの着信──、和奏からだ。


『今度、おととい買った服着てお出かけしない? ちょっと着ただけですぐ帰っちゃったから、あの服着てまたデートしましょうよ』


 ──僕は、すぐさまOKの返事を送った。

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