第16話 班決めと藤吉くん

「それじゃこの時間は、教育合宿で同じ部屋になる班を決めてもらいま〜す! 各班四人ずつで、その中で班長も決めてくださいな〜!」


 進学校ゆえについていくのが精一杯な授業たちに耐え、ついに心待ちにしていたLロングHホームRルームがやってきた。といっても決して楽だからという理由ではなく……それもあるにはあるが、メインの理由はそこではない。


 じゃあメインは何かというと、ペア認証を行っていない二人のうち、男子側である例の藤吉ふじよしくんとやらに自然と接触できる機会だということだ。

 咲月さつき高校に入学して一週間以上経ったが、俺は未だ藤吉くんと接点がない。なんなら顔すら知らない。そんな状態でいきなり話しかけたとて、不審に思われるだけだ。


 まあ、どれがその藤吉くんなのか全く分からないのだが……。


「四人集まったら、班長さんはセンセーに報告しに来てね〜」


 ――とはいえ、まずは班決めをしないとだな。女子たちは既にいくつか班が完成しているものの、男子たちは一旦様子見の姿勢をとる。

 それもそのはず。俺含めこんな高校に入学してくるやつらは、基本的にペアコミュ制度を利用して、女子とイチャイチャしたいからに決まっているからな。何が悲しくて野郎とコミュニケーションをとらなきゃいけねぇんだよ、という話だ。


 性格も価値観もロクに知らないやつらと三泊四日、同じ部屋で寝泊まりする。いくら同性とはいえ、精神的なハードルは高い。みんな慎重になるのも無理もないよな。


繋児けいじー、一緒の班になろうぜー!」


 男子たちが静観し続ける中、雅宗まさむねは躊躇なく俺を班に誘う。さすが雅宗、持つべきものは男友達だよな。それにより周囲はかなりざわつき、なぜか何人かの女子までひそひそ話をし始めた。いや、あなたたちには一ミリも関係ないでしょうに。


「おう! これであと二人だな〜!」


 さて、ここから藤吉くんとあと一人を班に入れられれば……しかし、どう班に誘えばよいものか。さすがに『藤吉くんいる〜?』なんて言うわけにもいかないしなぁ。

 そういや、雅宗は一組男子について知ってんのかな? 一応聞いとくか。


「なあ雅宗、藤吉ってやつ知ってる? 班に入れられないかなって」


「まあ、顔と名前くらいはな。でも話したことないんだよなー。えっとな……ほら、あそこでスマホ触ってるやつ。アレが藤吉くん」


 雅宗は教室内をぐるりと見回し、二つの女子班の間を指差す。そこには、浮かない顔をしながらスマホをイジる小柄な男子がいた。いくらLHRとはいえ、一応授業中なんだぞ? となると、またアリサみたいに口頭でしゃべらないパターンか?


「もしかして、藤吉くんはフリーなのか?」


「そういうこと。だから藤吉くんに声かけて、少しでもペア認証に近づければ、って感じだな。男子こっち側からできるのはそれくらいだしな」


「オッケー、そういうことならオレは大歓迎だぜ! せっかく同じクラスなのに、仲良くしないなんてもったいないもんな!」


 俺の無茶なお願いを、雅宗は快く承諾。そうと決まれば、三人目の班員を勧誘しに向かう。班で固まる女子に道を開けてもらい、ついに藤吉くんと対面する。

 彼は俺たちの接近に気づくと、すぐさまスマホを机の中にしまって受け入れの姿勢をとる。どうやらアリサのようなパターンではなさそうだ。


「藤吉くんだよね? よかったら俺たちの班に入ってくれるかな?」


「そうですけど、なんでボクがあなた方の班に? 話すのも初めてですよね……?」 


 できるだけ自然な流れで勧誘しようとしたものの、やはり接点がないため、見事に怪しまれてしまった。さて、どう言い訳するべきか……。


「話すのは初めてだけど、他のやつらとも全然話したことないし、誰と班になっても変わんないかなーって。藤吉くんもさっきまでスマホ触ってたから、そういうの気にしないかと思ってさ……どうかな?」


 俺が言葉につっかえたのを察してか、雅宗が機転を利かせてそれっぽい理由を並べていく。危ねぇ〜、やっぱり持つべきものは男友達だよなぁ〜!

 せっかく雅宗が繋いでくれたんだ、圧をかけない程度にもう一押しするぞ……!


「もし俺たちが嫌じゃないならさ、とりあえず一緒の班になるだけなろうぜ?」


「――ええ、ボクなんかでよければ全然なりますよ。よろしくお願いします」


 藤吉くんは笑顔を浮かべながら、俺たちに一回ずつ頭を下げる。クラスメイト相手に、なにもそこまでかしこまらなくてもいいんじゃない?


「ああ、よろしくな……ごめん、下の名前分かんねぇや。なんていうの?」


秀叶しゅうかっていいます。秀でるに叶うと書いて、秀叶です」


 藤吉くん改め秀叶は、説明しながら机にシャーペンで書いて見せてくれた。読み方こそ珍しいが、字も読みもすげぇかっこいいなこれ。


「へぇ、いい名前じゃん!」


「めっちゃかっこいいなー!」


「はい! 祖父がつけてくれた名前で、ボクも気に入ってます!」


 どうやら本人もお気に入りなようで。さっきよりも笑顔の口角が上向いているし、鼻歌を奏でながら、そのリズムで消しゴムを動かして机の字を消している。

 ほんの一分前まで、暗い顔でスマホをイジっていたとは思えない変わりようだ。


「そういやさ、さっきはスマホで何やってたの?」


「ああ、さっきまで冷室ひむろさんと連絡をとってました。入学初日に連絡先だけ交換してたんですけど、次の日から学校に来なくなっちゃって……。メッセージは返してくれるので、元気だとは思います」


「え、冷室さん!? 連絡とれんの!?」


 やはり男子側からアプローチして正解だった! これで問題解決に一歩前進だ。

 あとは秀叶の方から合宿に来るよう、冷室さんを説得してもらえれば……これで一組生徒の全員ペア認証が完了。晴れて美知瑠みちるさんの悩みの種を取り除けるわけだ!


「じゃあさ、冷室さんに学校に来るようにメッセージを送ってもらえれば……」


「それは待ってください! 冷室さんのペースがあるので、急かすのはやめてあげてください! ボクがなんとかしますので……」


 そう訴える秀叶の目は真剣そのもの。きっと彼にも思うところがあるのだろう。

 それこそ、授業中にも冷室さんと連絡をとっている分、部外者の俺たちより何倍も彼女について知っているわけで。ペア認証をさせたいからと、二人のテリトリーに無理に押し入るわけにもいかないよな……。


「――分かった。じゃあ無理しない程度に、冷室さんのことを頼むな!」


 よし、冷室さんについては一旦秀叶に任せよう。彼女と連絡のとれる味方ができただけでも、俺たちにとっては大きな収穫だからな。

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