第16話 班決めと藤吉くん
「それじゃこの時間は、教育合宿で同じ部屋になる班を決めてもらいま〜す! 各班四人ずつで、その中で班長も決めてくださいな〜!」
進学校ゆえについていくのが精一杯な授業たちに耐え、ついに心待ちにしていた
じゃあメインは何かというと、ペア認証を行っていない二人のうち、男子側である例の
まあ、どれがその藤吉くんなのか全く分からないのだが……。
「四人集まったら、班長さんはセンセーに報告しに来てね〜」
――とはいえ、まずは班決めをしないとだな。女子たちは既にいくつか班が完成しているものの、男子たちは一旦様子見の姿勢をとる。
それもそのはず。俺含めこんな高校に入学してくるやつらは、基本的にペアコミュ制度を利用して、女子とイチャイチャしたいからに決まっているからな。何が悲しくて野郎とコミュニケーションをとらなきゃいけねぇんだよ、という話だ。
性格も価値観もロクに知らないやつらと三泊四日、同じ部屋で寝泊まりする。いくら同性とはいえ、精神的なハードルは高い。みんな慎重になるのも無理もないよな。
「
男子たちが静観し続ける中、
「おう! これであと二人だな〜!」
さて、ここから藤吉くんとあと一人を班に入れられれば……しかし、どう班に誘えばよいものか。さすがに『藤吉くんいる〜?』なんて言うわけにもいかないしなぁ。
そういや、雅宗は一組男子について知ってんのかな? 一応聞いとくか。
「なあ雅宗、藤吉ってやつ知ってる? 班に入れられないかなって」
「まあ、顔と名前くらいはな。でも話したことないんだよなー。えっとな……ほら、あそこでスマホ触ってるやつ。アレが藤吉くん」
雅宗は教室内をぐるりと見回し、二つの女子班の間を指差す。そこには、浮かない顔をしながらスマホをイジる小柄な男子がいた。いくらLHRとはいえ、一応授業中なんだぞ? となると、またアリサみたいに口頭でしゃべらないパターンか?
「もしかして、藤吉くんはフリーなのか?」
「そういうこと。だから藤吉くんに声かけて、少しでもペア認証に近づければ、って感じだな。
「オッケー、そういうことならオレは大歓迎だぜ! せっかく同じクラスなのに、仲良くしないなんてもったいないもんな!」
俺の無茶なお願いを、雅宗は快く承諾。そうと決まれば、三人目の班員を勧誘しに向かう。班で固まる女子に道を開けてもらい、ついに藤吉くんと対面する。
彼は俺たちの接近に気づくと、すぐさまスマホを机の中にしまって受け入れの姿勢をとる。どうやらアリサのようなパターンではなさそうだ。
「藤吉くんだよね? よかったら俺たちの班に入ってくれるかな?」
「そうですけど、なんでボクがあなた方の班に? 話すのも初めてですよね……?」
できるだけ自然な流れで勧誘しようとしたものの、やはり接点がないため、見事に怪しまれてしまった。さて、どう言い訳するべきか……。
「話すのは初めてだけど、他のやつらとも全然話したことないし、誰と班になっても変わんないかなーって。藤吉くんもさっきまでスマホ触ってたから、そういうの気にしないかと思ってさ……どうかな?」
俺が言葉につっかえたのを察してか、雅宗が機転を利かせてそれっぽい理由を並べていく。危ねぇ〜、やっぱり持つべきものは男友達だよなぁ〜!
せっかく雅宗が繋いでくれたんだ、圧をかけない程度にもう一押しするぞ……!
「もし俺たちが嫌じゃないならさ、とりあえず一緒の班になるだけなろうぜ?」
「――ええ、ボクなんかでよければ全然なりますよ。よろしくお願いします」
藤吉くんは笑顔を浮かべながら、俺たちに一回ずつ頭を下げる。クラスメイト相手に、なにもそこまでかしこまらなくてもいいんじゃない?
「ああ、よろしくな……ごめん、下の名前分かんねぇや。なんていうの?」
「
藤吉くん改め秀叶は、説明しながら机にシャーペンで書いて見せてくれた。読み方こそ珍しいが、字も読みもすげぇかっこいいなこれ。
「へぇ、いい名前じゃん!」
「めっちゃかっこいいなー!」
「はい! 祖父がつけてくれた名前で、ボクも気に入ってます!」
どうやら本人もお気に入りなようで。さっきよりも笑顔の口角が上向いているし、鼻歌を奏でながら、そのリズムで消しゴムを動かして机の字を消している。
ほんの一分前まで、暗い顔でスマホをイジっていたとは思えない変わりようだ。
「そういやさ、さっきはスマホで何やってたの?」
「ああ、さっきまで
「え、冷室さん!? 連絡とれんの!?」
やはり男子側からアプローチして正解だった! これで問題解決に一歩前進だ。
あとは秀叶の方から合宿に来るよう、冷室さんを説得してもらえれば……これで一組生徒の全員ペア認証が完了。晴れて
「じゃあさ、冷室さんに学校に来るようにメッセージを送ってもらえれば……」
「それは待ってください! 冷室さんのペースがあるので、急かすのはやめてあげてください! ボクがなんとかしますので……」
そう訴える秀叶の目は真剣そのもの。きっと彼にも思うところがあるのだろう。
それこそ、授業中にも冷室さんと連絡をとっている分、部外者の俺たちより何倍も彼女について知っているわけで。ペア認証をさせたいからと、二人のテリトリーに無理に押し入るわけにもいかないよな……。
「――分かった。じゃあ無理しない程度に、冷室さんのことを頼むな!」
よし、冷室さんについては一旦秀叶に任せよう。彼女と連絡のとれる味方ができただけでも、俺たちにとっては大きな収穫だからな。
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