7話 光と、闇と、冒険の始まり。

〜前回までのあらすじ〜

ひきこもりの主人公、コースケ。

ある日夢世界に転移してしまう。

そこで出会ったコーギー犬のナギと過去をやり直す「追憶の書」探しの旅に出る事を決意する。

その時、鍛冶屋の看板娘ミルとナツメが現れ素材探しの依頼をされ、4人旅が決まる。

現実世界に戻ったコースケ、夢世界でハンバーグの口になっていたため、久しぶりに母親と言葉を交わしたのだった…。



引きこもりすぎなのか?

最近旅にでる夢を見る。


夢の内容はほとんど覚えてないけど、怒ったり笑ったりしてた気がする。

そのせいか目覚めが良くてスッキリしている。

引きこもりだけど、コンディションは抜群にいい。


寝起きの俺は、目をこすりながら携帯ゲーム機を手にし電源をつける。


「そういえばこれ、久しぶりにやってみよかな。」

初めてやったRPGのリメイク。

確か攻略本も買ってたよな、と本棚から取り出し広げる。


「どうせなら、使ったことない武器がいいな。」

ベッドの上で武器のページを開いてみた。


あれ?

なんか最近武器のことで悩んだ気がする。

それもかなり真剣に。

なんでだろ?


…他のゲームした時かな。

まぁいいや。


「さ、どんな武器がいいかな。」

攻略本のページに斧の絵が描かれている。


「斧かぁ、さすがに投げるのには重いだろ。」


ん?なんで投げようと思った?

そういえば、いつも剣とか魔法の杖とかのメジャーな武器を装備していたな。

ちょっとそういう武器のほうが面白そうだな。


俺は姿勢を変えて、仰向けに寝転んで本を読んでみた。

何か、これ!っていう武器…。

変わった武器…。投げる武器…。

どんなのがいい…かな…。


バサッ!

本が手を離れ、俺の顔に落ちてきた。

しらない間に俺はうとうとしていたようだ。



ふと思った。

もし俺がこのゲームの世界に行ったらどんな武器使うかな?

どんな仲間と、どんな旅するかな?


もし違う世界なら、俺は失敗せずに誰かを幸せにできたのかな?


……。

考えても仕方がないことだとわかっている。

でも考えないと反省していないような気がして。


反省しても何も変わらないし、誰も許してくれない。俺も自分を許せない。

誰でもいい。

俺を、今を、過去を、全部変えてくれないかな…。





「ナツメ。武器、何がいい?」

ナツメの店でミルが大きなリュックに荷物を詰めながら言った。


「武器?うちの?」

ミルは首を振った。


「あぁ、コースケのか。」

ミルは頷いた。


旅に出る話をして以来、ミルはずっとコースケの武器について考えていたようだ。


ナツメはじっとミルを見つめた。


「ミル、あんたはうちが頼んだ物をちゃんと作ることができる。鍛冶屋としてはもう充分な技を持ってると思うんよ。」


口角がぐっと上がるミル、そのまま真面目な口調で話を続けるナツメ。


「でもな、ミルにはもう一つ壁を超えてほしいと思ってんのよ。」


ミルは少し首を傾げた。


「それはな、創造力なんよ。相手をじっくり見て知ってそいつにあう最高の武器をイメージして最高の武器を創造する。ミルならできるとうちは思ってる。」


ミルは困惑した表情ですっと俯いた。


「今回あいつらと資材集めに行くもう一つの理由、それはミルが壁を越えるためでもあるんや。」


……。

不安そうなミル。

ナツメはそっとミルの手を握った。

「剣聖でもない、賢者でもないあいつを最強に変えるのは、あんたのこの手かもしれへんな。」


ミルは自分の小さな手をじっと見ている。


ナツメは自分の大きな手のひらをミルにみせた。

その手のひらはゴツゴツしていて傷だらけで肉厚だった。


「ミルにはこの手になってほしくない。ミルはミルなりにミルの手でミルしか作れへん物を作ったらええんや。」


ナツメはその大きな手でミルをそっと抱きしめた。

「あんたは大丈夫や。大丈夫やで。」

ミルはナツメの腕の中で頷いた。


「さぁ、うちはうちの仕事の続き頑張るわ。」

ナツメはミルの頭を撫でて笑顔を見せてから、奥の作業場へいった。


「この手が…。最強を作る…。私が…作る!」

ミルは自分の小さな手をじっと見ていた。



ベッドの上でぼんやりと天井を眺めている俺、コースケ。

コースケの人形を横においてリュックに荷物を入れるナギ。

加工所で何かを作っているナツメ。

倉庫でいろんな武器を手にとって見ているミル。


それぞれが、それぞれなりに今変わろうとしている。


剣聖でもない、

賢者でもない俺らが最強と言われるパーティーに変わっていく、

ーーーそんな不器用な冒険譚がはじまる。



深い深い森の奥、丘の上に静かにそびえ立っている城がみえる。

不気味な雰囲気につつまれており、暗雲が立ち込めている。

その城の一室。

薄暗い部屋で薄暗い部屋に黒いローブの魔道士と、ナギの家に来たゴブリン達、その後ろで豪華な椅子に座った白銀の鎧に赤のマントを羽織った人物がいる。

魔道士の右手にある水晶玉にある風景が写っている。

その水晶玉に”準備をしているナギ”が映っている。


「どこにいるのだ。必中の指輪を装備したものは?」

魔道士がゴブリンたちにきく。


「あれ…。今ここにはおらんようですわ。」

デブゴブリンが少し焦った様子で答えた。


「でも間違いあらへん。そのコースケってやつにわしら痛い目にあわされたんや。うそなんかつきまへん。」

のっぽゴブリンとチビゴブリンが首が千切れそうな勢いで頷いている。


「どうします?」

魔道士は後ろにいる赤マントの男に問いかけた。


…。

全員が赤マントの男の挙動に注目している。


「ふっ。」

突然赤マントの男は鼻で笑った。


「エストよ、確かこの世界は願いや希望が叶う夢世界だと言ったな。」


「そうでございます。」


「もしかしたら、本当に俺の願いは叶うかもしれないな。」

マントの男はそう言うとニヤリと笑った。

それをみてゴブリン達は少し安心したような表情をした。


「じゃ約束の報酬を…。」

緊張がとけたのかチビゴブリンが軽い口調でいった。


「お前ずうずうしいやろ!まぁでもなぁ…。ねぇ?」

デブゴブリンとのっぽゴブリンはチビゴブリンの言葉に驚きつつも便乗しヘラヘラし始めた。


「そうか、そうだな。」

赤マントの男は何かを握っているような手を前に突き出した。


ボォウウウ!!

赤マントの男が手を開くと3つの火の玉が現れゴブリンズめがけて飛び出した!


「ギヤァアアア!」

「なんで、なんでやぁ!」

ゴブリンズは黒い炭になった。

赤いマントの男はその炭を見て、再度鼻で笑った。


「エストよ、その犬っころに見張りのコウモリをつけておけ。」


赤マントの男はそう言うとニヤリと笑った。


「かしこまりました。」

魔道士は左手を握りボソボソと呪文を唱えた。


「…………!!」

ボン!

魔道士が左手を開くと煙とともにモンスターが現れた。

拳サイズの目の玉にコウモリの羽がついた魔物だ。


チチチッ。

魔物は鳴き声をあげて部屋の窓から飛び立っていった。


「可能性ってのは怖いよな。期待させたり裏切ったり心をもてあそぶ。」

マントの男はふと天井を見上げて呟いた。


「はぁ…。」

いきなりの言葉でリアクションに困っている魔道士。


「でもなぁ嫌いじゃないんだ俺は。」

赤マントの男はゆっくり立ち上がる。


「裏切られて絶望に落とされた怒りが、より強い欲望を生み出す。それがまた強さになる。いいじゃないか、絶望さえ許してやる。もうあの頃の俺はいないんだ。」

赤マントの男は確かに笑っている。ただ目は笑ってない。狂気の表情だ。

薄暗い部屋に笑い声だけが響いている。


夕暮れに染まろうとしている空模様。

その中で目玉に羽の生えた魔物がキョロキョロしながら飛んでいる。


「!!」

魔物は何かに気付いた様子。

魔物の視点の先にナギが住む街フェーナが見えてきた。




ナギは家でまだ旅支度の最中だ。


いろいろな荷物を出しては入れ、入れては出してを繰り返している。


その時!

ナギの左手の肉球マークが青く光り始めた。


ボン!

コースケの人形が煙に包まれて、コースケが現れた。


『おかえり、コースケ。』


「た、ただいま。」

そうか、またこの夢世界に戻ってこれたのか。

そうか、”ただいま”と言って貰える場所になったのか。


『おかえりだけど、もうすぐ行くぞ旅に。』


そうだったな。

俺は力強く頷いた、自分の不安を誤魔化すように。


過去をやり直す冒険譚が始まろうとしている。

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