第28話 打ち上げ

序列試験の翌日。

学園都市の中央街区は、試験明けの学生たちで穏やかな賑わいを見せていた。


日高が噴水広場に向けて歩いていると、背中に軽い衝撃がぶつかってきた。


「日高君っ!」


振り返れば、髪を揺らしたネモが明るい笑みを浮かべていた。

女の子らしい柔らかい口調だが、喜びが全身に溢れている。


「もう……歩くの早いよ。それより一位おめでとう!本当にすごかったよ」


「ありがとう。まあ、やることをやっただけだ」


「それを普通に言えるのが日高君のすごいところなんだからね?」


軽く頬を膨らませるネモ。その表情に、日高は苦笑しつつも安心する。


そこへ、静かな足音が近づいた。



結城光瑠だった。男子生徒で、日高ともよく行動を共にするクラスメイトだ。


「二人とも、おはよう。遅れて悪い」


「全然だよ、光瑠くん。ね? 日高君」


「ああ、問題ない」


光瑠はわずかに息を吐き、真っ直ぐ日高に視線を向けた。


「昨日の試験。お疲れ。それと日高一位、ほんとにすごい」


「光瑠もよくやったと思うぞ」


「ああ」


ネモが手を叩くようにして声を弾ませた。


「じゃあ、今日は三人で遊ぼう。打ち上げだよっ!」


三人は街の人気レストランへ。

試験期間が終わった直後のせいか、店内は適度に騒がしく、どこか解放感がある。


席につくと、ネモが嬉しそうにメニューを広げた。


「このステーキ絶対おいしいよ。光瑠くんは?」


光瑠は少し迷った後、指を動かした。


「カルボナーラ。好きなんだ」


「似合うね。落ち着いてる感じで」


「そうか?」


「うんっ」


ネモは続いて日高に目を向ける。


「日高君はやっぱりお肉?」


「そうだな。ステーキにしておく」


「じゃあ私も同じのにするね」


料理が届くと、空気が自然と和む。

ネモが切り分けながら話し始めた。


「二人とも本当にすごかったよ。

 一位と四位なんて、同じ一年とは思えないって皆言ってたもん」


光瑠は少しだけ視線を下げた。


「いや……俺はまだまだだ。

 でも、二人と一緒に頑張れたのはよかったと思ってる」


「光瑠くんは十分すごいよ? 本気で」


ネモは自然と優しい声を出し、光瑠は照れくさそうに肩をすくめた。


日高も口を開く。


「ネモも伸びてる。俺たちが油断してたらすぐ追いつかれる」


「え、えへへ……そんな言われたら照れるよ」


ネモは顔を赤くし、両手で頬を押さえた。


その後、三人は次の話題へ移った。


光瑠が日高に視線を向ける。


「そういえば……生徒会、正式に入るんだって?」


「ああ。昨日、承認された」


光瑠は少し間を置き、落ち着いた声で言う。


「無理はするなよ。

 お前、意外と自分の限界を無視するところがある」


ネモも深く頷く。


「ほんとそれ。日高君、すぐ突っ走っちゃうんだから。

 私と光瑠くんが見てなかったら、絶対どこかで倒れてるよ?」


「そこまでか?」


「そこまでだよ」


光瑠とネモは声を揃えた。


日高は肩をすくめ、微かに笑う。


食事が終わると、三人は街を巡った。

露店でアクセサリーを見たり、甘味店でパフェを分けたり、試験で張り詰めていた時間が嘘のように過ぎていく。


夕暮れの噴水前。

光瑠が口を開いた。


「今日、楽しかった。また来よう」


「もちろんだ。また来るぞ」


ネモも満面の笑みを見せた。


「次は、私が行き先決めちゃうからね。

 二人とも絶対喜ぶところ、探しておくんだから」


三人は自然と歩調を揃えて帰路についた。

試験の疲労がようやく抜け、穏やかな空気が心地よい。


――こういう日も悪くない。


日高は静かにそう思った。

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