第26話 序列が示すもの

学園序列発表の日。

朝から校舎全体が張り詰めたような緊張に包まれていた。掲示板の前には人だかりができ、誰もが自分の順位が張り出される瞬間を待っている。


チャイムが鳴ると同時に、生徒会役員が封を切り、成績表を掲示板に貼り出した。


一瞬の沈黙。

そして、次の瞬間――。


「……は? 一年が……一位?」


ざわめきが波のように広がった。


掲示板の一番上に、堂々と記されている。


――学園序列一位 西日高(一年)


筆記、実技、研究評価、ダンジョン踏破数。

全項目で突出し、総合順位は揺るぎない一位だった。


教室へ向かう途中、日高は廊下で多くの視線とぶつかった。ひそひそ声が耳に入ってくる。


「本当に一年が一位取った……」

「40階層踏破の噂は本当だったんだ……やばい……」

「三年生にも勝ったってことかよ……」


教室に入ると、光瑠が勢いよく立ち上がる。


「おい日高、一位って……お前、本当にやりやがったな!」


「まあ、狙っていたからな。想定通りだ」


光瑠は苦笑しつつも、口元の悔しさを隠せない。


「俺、四位だったよ。……同学年で上がいるって、なんなんだこの学年」


そのとき、掲示板を見ていたモネが駆け込んできた。


「日高くんっ、見たよ……本当に一位……! もう、学園中大騒ぎだよ……!」


日高は淡々と頷く。


(騒ぎになっているのはわかっていたが……想像以上だな)


そのころ、別の場所ではさらに強い衝撃が生じていた。


生徒会室。


カーステン=アルバスは、掲示板の結果を見てもさほど驚いた様子を見せなかった。

むしろ淡々としている。


「予測通りですね。西日高が一位。シルビアが三位。そして私が二位か、」


しかし、その横で控えていた少女が机を叩いた。


「……くっ。姉さまより下……そして一年に負けるなんて……」


ミネルヴァ=アルバス。

二年生にして驚異的な魔力量と魔術適性を持ち“魔導の天才”として知られている。だが今回の順位は五位。姉に一つ届かず、そして日高と光瑠という一年生二人にも抜かれた。


「納得がいきません。どうして一年の……同年代ですらない者に……」


「ミネルヴァ。悔しさは糧になります。ですが事実は事実。西日高は強い」


カーステンは冷静に言葉を重ねた。


「あなたも彼と向き合う日が来るでしょう。それは逃れられません」


ミネルヴァは唇を噛みしめ、乱れた金髪を整えた。


「……次は負けません。絶対に」


生徒会室全体の空気が張り詰める。


その裏で、シルビア=ミューズは結果を見て微笑んでいた。


「やっぱりすごいわね、西日高君は。結城光瑠君もだけど……一年がここまでとは」


そして静かに呟く。


「次のダンジョン調査、役員だけでは足りなくなりそうね……」


一方その頃、Aクラス。


担任が教壇で結果を確認しながら、苦笑いを漏らしていた。


「お前たち、本当に歴代でも稀に見る学年だな……。一年で一位、四位……上級生からの問い合わせがすでに来ているぞ」


そして日高の方を向く。


「西。これだけの結果だ、周囲からの期待も、仕事も、当然増える。覚悟しておけ」


「承知しています」


担任は満足そうに頷いた。


その後の休み時間、上級生までもがAクラスに顔を出し始めた。


「お前が西日高か?」

「ちょっと話を聞きたい」

「会長が認めたって噂、本当だよな?」


質問攻めというより“確認”に近い視線。


彼らは、事実を受け入れざるを得なくなっていた。


一年にして学園序列一位

二位カーステン(生徒会長)

三位シルビア(生徒会役員)

四位光瑠(本来のゲームの主人公)

五位ミネルヴァ(会長の妹)

いずれも強者と呼ばれる面々――その頂点に一年の日高が立った。


日高は静かに胸の内で決意する。


(これでようやくスタートラインだ。次は――さらに深層へ)


学園が揺れる一日が、こうして幕を開けた。

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