第30話 エルフを寝取ったならば
【勇者レオンハルトside】
勇者レオンハルトは焦っていた。
彼に与する女騎士ベリアスと、かつての幼馴染である天才魔法使いロシエル。
彼女たちは明らかに魔王の影響で悪しき力を増している。
(このままでは世界が危ない……!)
レオンハルトは自らの力を高め新たな仲間を得るべく、古の伝承に残る『深紅の森』へと足を踏み入れていた。
目的は森の奥深くに住むというエルフ族との接触。
彼らの持つ弓術と森の智恵は魔王討伐に不可欠な力となるはずだった。
強力な結界に阻まれ、森で野営を繰り返すこと数日。
諦めかけたその時、不意に結界の一部が揺らぎ、道が開かれた。
「……何者だ?」
現れたのは弓を構えたエルフの衛兵たちだった。
エルフは人間を見れば問答無用で矢を射かけると聞いていたレオンハルトはとっさに身構えたが、彼らの様子はどこか違った。
警戒はしているものの、敵意一辺倒ではない。
「俺は勇者レオンハルト! 森の民に助力を請いに来た!」
レオンハルトが高らかに名乗ると衛兵たちは顔を見合わせ、やがて隊長らしきエルフが口を開いた。
「……勇者か。長老様がお会いになるそうだ。ついてこい」
拍子抜けするほどあっさりと里への進入が許された。
案内された里『シルヴァンヴァルト』は、噂に違わぬ美しさだったが、聞き及んだ閉鎖的な雰囲気とは違う微かな変化の兆しが感じられた。
長老との面会も比較的穏やかに進んだ。
「ほう勇者殿か。遠路はるばるよくぞ参られた。……して、我らに何の用かな?」
「エルフの力を借りたい! 世界を脅かす魔王を討伐するために!」
レオンハルトが単刀直入に告げると、長老は「魔王、か……」と遠い目で呟き、静かに首を横に振った。
「我らは森の民。外界の争いに関わることは掟で禁じられておる」
「掟だと⁉ 今まさに世界が危機に瀕しているというのに! あなた方の聖なる樹も魔物に寄生されていたのだろう! それを救ったのも外から来た人間だと聞いているぞ!」
レオンハルトは里へ来る途中で他のエルフから断片的に聞いていた情報を突きつけた。
数週間前、異邦の客人たちが現れ聖なる樹を蝕んでいた魔物を討伐したという話を。
長老はわずかに目を見開いたが、すぐに平静を取り戻した。
「……確かに、あの方々には感謝しておる。あの方々は我らに森の理と変化の大切さを説いてくださった。我らも少しずつではあるが、外の世界との関わりを考えていかねばならぬと……」
「少しずつだと⁉ 甘い! 悪は待ってはくれない! お前たちが古い掟に縛られている間に魔王は力を蓄え、世界を闇に包むだろう! 今すぐそのかびついた考えを改め、俺と共に立ち上がるべきだ!」
レオンハルトの言葉は正論ではあったかもしれない。
だがその口調はあまりにも性急で、エルフたちが長年守ってきた伝統や価値観への敬意を欠いていた。
穏やかだった長老の顔が、みるみるうちに険しくなっていく。
周囲のエルフたちからも非難めいた囁き声が聞こえ始めた。
「勇者殿……あの方々は我らの文化を尊重し、時間をかけて対話をしてくださった。だが、貴殿は……」
「対話など不要! 正しいのは俺だ! お前たちのやり方は間違っている!」
「……もうよい」
長老は深くため息をつくと、冷ややかに言い放った。
「勇者殿。貴殿の正義は我ら森の民とは相容れぬようだ。……早々に立ち去られよ。これ以上、我らの静寂を乱すというならば――森の怒りを知ることになるぞ」
長老の言葉に合わせ、エルフたちが一斉に弓を構える。
「なっ……!? なぜだ! 俺は正しいことを言っているのに! 森の賢者であるエルフがどうして理解できない!?」
「それ以上口を開くな! 長老から審判は下った! 即刻立ち去れ!」
レオンハルトはエルフの衛兵たちに里の外へと追い立てられながら憤慨した。
(なぜ理解しない!? 俺の言葉こそが真実なのに! ……まさかこれも……あの魔王ヴァエルの仕業なのか⁉ あいつがエルフたちに何か吹き込んだのか!?)
その八つ当たりは当たらずとも遠からずのものであった。
魔王への恨みがレオンハルトの思考を蝕む。
彼の心には焦りと、そして魔王への憎悪がさらに深く刻み込まれるのだった。
◇
「これこそ魔王に相応しき空間だ。そうであろう、アザゼル」
「ええ。おっしゃる通りでございます……」
俺は膝の上に侍らすアザゼルの胸を弄びながら満足げに周囲を見渡す。
ウェリネが管理する第九階層の森のおかげで、ロシエルたちの研究室から漏れ出していた異臭問題は完全に解決した。
第十階層に位置する玉座の間には森から運ばれてくる清浄な空気が心地よく吹き込める。
第九階層はエルフであるウェリネの居住区となり、彼女が育て始めた珍しい植物や森から呼び寄せた小動物たちで賑わっているらしい。
もちろん植物型のモンスターや魔獣の類も生態系の一部として組み込まれており、防衛機構としても役立っている。
(快適な環境、可愛い女の子たちとのハーレム生活……。最高じゃないか!)
まさに俺が望んだ魔王ライフ。
――なのだが。
「……しかし陛下。最近、侵入してくる冒険者の質が、明らかに上がってきておりますわ」
アザゼルが、少し憂いを含んだ声で報告する。
「うむ。俺も気づいている」
ダンジョンの環境改善は、皮肉なことにより強力な冒険者たちを引き寄せる結果にも繋がっていた。
ダンジョンが難攻不落であるという噂が広まり、我こそはと腕に覚えのある高レベルパーティが挑戦してくるようになったのだ。
ロシエルが開発したアンデッド軍団やゴーレム部隊は依然として強力だが、連携の取れた上級パーティ相手には突破される場面も出始めていた。
「ベリアスがよくやってくれているが……」
俺は遠視の水鏡で、ダンジョンの中層で奮闘するベリアスの姿を映し出す。
彼女はアンデット騎士団の団長として的確に部下を指揮し、自らも最前線で剣を振るっている。
その剣技は、俺の魔力による強化と日々の鍛錬により、以前とは比べ物にならないほど鋭さを増していた。
今日もベテランの戦士と思われる侵入者と互角以上に渡り合い、見事に撃退していた。
「まったく、頼りになる我が『剣』だ。だが、いつまでも彼女一人に負担をかけるわけにもいくまい」
現状は持ちこたえているが、今後勇者がさらに力をつけ、ダンジョンの存在に気が付き攻略に乗り出してきた時のことを考えると不安が残る。
それにロシエルの研究所を八階層へ移動したため、一階層から七階層で確実に侵入者を阻むようダンジョン全体の防衛力をさらに底上げする必要がある。
(それにベリアスが戦闘に出っぱなしだと彼女を抱けないじゃないか!)
ダンジョンに不可欠なトラップや、アンデット軍団の装備の刷新、ゴーレムの器の質改善……。
これらを一挙に解決できる最高の技術者が必要だ。
(ゲーム知識によれば……。一人、いたな)
俺の脳裏に新たな寝取りのターゲットの姿が浮かんだ。
革新的な才能を秘めた伝説の鍛冶師の末裔。無双の『技』を持つドワーフの女職人。
「よし」
俺は玉座から立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。
「アザゼル。我が『大義』のため、次へ駒を進める!」
「陛下の深謀遠慮、感服いたします。――しかし、ウェリネの歓迎会がまだでしたよ……?」
アザゼルは妖艶な笑みを浮かべ俺を誘う。
久方ぶりのロシエルの身体や、初めての複数人プレイを前に顔を赤くするウェリネの姿に想いを馳せる。
それは俺の理性を鈍らせるのに十分であった。
「……いいだろう。今夜は一晩中、我が寝室でウェリネの歓迎会としようではないか!」
快適なダンジョンライフを守るため、そしてさらなるハーレム拡大のため。
俺の「全ヒロイン寝取り計画」はまだまだ終わらない。
―――――― 第三章 完 ――――――
あとがき
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。
ウェリネ編はいかがでしたでしょうか?
とても励みになりますので、ぜひ率直なご感想・評価をお寄せいただけますと幸いです。
次章もよろしくお願いします!
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