ノアズ・スカイ海賊と魔女サチ

さくら猫

第1話:カップ麺が出来ました!

「カップ麺、出来ましたよ。姉御!」


「カップ麺?」

 その会話を、わたしはホウキに乗って空から見下ろしていた。

 夜の空を飛ぶ海賊船ノアズ・スカイ

 下では、船員のカイ・ジャレドが器を差し出し、船長アン・ボニーが首をかしげている。


「あれ? サチが言ってましたよ。お湯を入れて三分待てば、できあがるって」

「そんな都合のいい食い物があるかい」

 呆れながらも、アンはカップを受け取った。


「サチが、姉御のためにせっかく作ってくれたんですし、食べましょうよ。冷めたらおいしくなくなるって言ってました」

「あいつが珍しいな。……せっかくだし、食べてみようじゃないか」


 蓋を開けた瞬間——

「ぼふっ!」

 湯気とともに音が鳴り、アンは驚いてカップを落としそうになった。

 中に入っていたのは、麺ではなく——カラフルなアメ玉の山。


「……サチーーーーッ!!」

 甲板に怒号が響く。

 カイは苦笑いしながら器を覗きこみ、「またですか」とため息をついた。


 わたしは帆の上で、どっきり成功にけらけらと笑っていた。

 中身は、魔法で固めたアメ玉とただのお湯。

 蓋と容器だけが本物の“カップ麺”。

 ――もちろん、アンへのいたずらだ。


「見つけたぞ、サチ!」

 旗ざおにまたがったアンが、怒りの形相でこちらを睨んでいる。

「今日という日は、成敗してやる!」

「ごめんなさい~~~っ!」


 次の瞬間、わたしは縄でくくられ、甲板にずるずると引きずられていた。

 ローブは泥だらけ、ホウキも傷だらけ。

「許すかどうかは、甲板の掃除次第だ。終わるまで飯抜き!」

「そ、そんなぁ! 掃除道具なんて持ってないよ!」

「そのホウキを使いな!」


 仕方なく、魔法で棒を掃除道具に変え、甲板を磨く。

 だって、これは大事なホウキ。汚したくないもん。


 そこへ、ふんわりした声が聞こえた。

「アン、お疲れさま。わたしも手伝うよ」

 お姫さまのような服の少女――ソフィアが微笑んでいた。

 その肩には、ちいさな妖精・すもも。


「ソフィア! すもも!」

 わたしは思わず抱きついた。

「よしよし、暴れないでね。おにぎり落ちちゃう」

「はーい……って、二つしかないじゃん!」

「だって、待ちきれなかったんだもん!」

「すももって、ほんと食いしん坊!」


 三人でおにぎりを分け合いながら、笑い合う。

 塩の味がしっかりしてて、美味しい。

 シャケをさばいたお米にぴったりだ。

 すももの料理は、どんなものでも最高。


 おにぎりを頬張りながら、わたしはふと思い出す。

 あの日のことを。

 ――わたしが、この船に乗ることになった日のことを。

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