お似合いなあの2人はなんだかヘン
玉木木木
体育倉庫でわかったこと
誰もいないはずの薄暗い倉庫に、人が倒れていた。
渉は瞬間、何かがおかしいと感じ、駆け寄る。
それはかれの小学校からの幼なじみ、桜典がいた
「桜典?生きてるのか?」
声をかけながら、渉はざっと体を揺すり、顔色を確認した。かすかに呼吸がある。
傷だらけの腕や膝を見て、渉は黙って自分の制服を脱ぎ、桜典に掛けた。
「……早く止血した方がいいな」
誰かに見られると面倒なことになるのを知っている渉は、事情を聞くより手当を優先する。桜典は弱々しくヘラヘラと口角を上げて笑うだけだった。
渉は桜典の傷を簡単に手当し終えると、倉庫の出口を指さした。
「もうお前とは学校では関わりたくない、ここから出てけ」
桜典はうなずき、立ち上がる。だが、その直前、彼は渉を見つめて言った。
「ねぇ、ちょっとだけ、最後にこっち向いて」
渉が振り返ると、桜典は真剣な眼差しで一歩近づき、何も言わずに唇を重ねた。
喧嘩直後で鼻血が垂れてる渉の鼻をそのままそっと舐め、血を味わう。
その瞬間、渉は凍りついた。まさか桜典が
そんなことをしてくるなんて。
思わず渉の手が拳に変わり、勢いよく桜典の顔を殴った。
「……っ!」
心臓が跳ねた。桜典は軽くよろめきながらも、ふと笑った。
その日、渉は初めて、桜典に対して自分の胸の奥で何かが動いたことを認めざるを得なかった。怒りなのか、驚きなのか、それともそれ以上の感情なのか。思い出したくない感情が湧き出てくる。
渉の拳が桜典の肩に当たった瞬間、普通なら痛みに顔をしかめるところだろう。しかし、桜典は不思議そうに目を細め、さらに強く口角を上げる。
「それだけ?」
渉は目を丸くして後ずさる。
「馬鹿か、お前は」
拳を振るった自分に驚いたのではない。桜典が、痛みを喜んで受けていることに驚いたのだ。気味が悪い。
桜典は頬をさすりながら、ふわりと笑う。
「嬉しい…かな。なんだか、ドキドキする」
その声にはほんの少しの甘さが混ざっていた。渉の胸に、思わぬ熱が走る。
「……気味が悪いな」
渉は拳を引っ込めながらも、桜典から目を離せなかった。複雑な感情と、桜典への興味がごちゃ混ぜになって、理性が少しずつ揺らぐ。
桜典はそのまま出口には向かわず、渉の前に立ち止まる。
「行かないよ。おれ、ずっと渉のそばにいたかった。」
小さな声で、しかし確信に満ちて言う桜典に、渉は言葉を失った。
まさか桜典がそんな気持ちを自分に抱いているなんて。思いもしなかった。
桜典はじっと渉の目を見つめ、小さく息をついた。
「渉、俺…渉のこと、ずっと……好きだったんだよ」
言葉が出た瞬間、倉庫の空気が一瞬止まった、渉は目を見開いて硬直する。
「……は? な、なんだ……お前、今なんて」
桜典は少し顔を赤らめながらも、勇気を振り絞って続ける。
「……だからね?好きなんだよ、渉の事。ずっと前から」
渉は口を開けたまま言葉が出ず、何度も瞬きを繰り返す。
「……は、桜典、なんなんだ…それ、マジで言ってるのか?」
驚きと動揺で声が裏返る。拳を握った手も少し震えている。
渉の目が一瞬大きく見開かれる。頭の中で一気に記憶がよみがえった
中学の頃、自分が密かに抱いていた想い。なのにどんなにアプローチしたところで桜典は当時まったく気にも止めずに、アイツは無邪気に友達として一緒に過ごしてきたことを思い出す。
倉庫の薄暗い空間で、渉は拳を握りしめ、桜典を真剣に睨んだ。
「桜典…お前、俺の気持ちを踏みにじってるのか……?」
桜典は一瞬、目を見開いた。
「え……なにそれ、どゆこと?渉?」
渉の声は震えず、でも胸の奥は怒りで熱く燃えていた。
「中学の頃からだぞ…俺はな、ずっとお前のことが好きだったのに、お前はそれを無視して…それどころか、俺のことなんて眼中になかっただろ!」
桜典は目を丸くして後ずさる。
「え……無視? そんなつもり全然なかったよ、渉…」
渉は拳を握り直し、低く唸るように続けた。
「……そうか? お前、全然気づいてなかっただけだっていうのか!あれが?」
桜典は小さく頷き、少しヘラヘラしながらも目を逸らす。
「だって、本当に全然気づかなかったんだもん……ごめん、渉」
渉は息を整え、でもまだ怒りの色を残し桜典を見下ろす。
「…なんだよ、お前な、今になって告白して……」
その瞳には、怒りと独占欲が入り混じった光が宿る。
倉庫の薄暗い空間で、桜典は少し照れながら渉の目を見つめた。
「ねえ…あの時はごめんね?でもやっぱり…渉のこと、好きだよ」
渉は一瞬、目を見開き、拳を握り直す。
「……お前、また告白するのか!」
中学時代からの未練も混ざって、怒りと動揺で声が荒くなる。
桜典はへらりと笑い、少し楽しそうに肩をすくめた。
「だって…だって!本当に好きなんだもん」
渉は頭を抱えるようにして、低く唸る。
「桜典…恭弥にはどう説明するんだよ」
桜典はその言葉を、自分への了承だと勘違いして目を輝かせる。
「え、オッケーってこと?」
そう言って喜ぶ桜典に渉の手が桜典の頬にまた拳が飛んでくる。
「調子に乗るな」
渉は勢いよく顔を一発、二発、三発と殴る。
桜典は痛がるどころか、嬉しそうに笑った。
「うわっ、もう三発…でも……やっぱり……嬉しい」
渉は拳を握り直し、まだ怒りの色を残しつつ桜典を見下ろす。
「……お前、本当に俺を試してるのか……!」
薄暗い倉庫の中、怒りと甘さが甘辛く絡み合い二人の関係はさらに深まっていった。
渉は桜典の顔を真剣に見つめ、低く声を落とした。
「桜典…校内でお前の噂はすぐ広まるだろ。
だからこのこと、他で喋ったら…加減無しでボコボコにする。」
桜典は目をキラキラさせてニヤリと笑う。
「へー、そっか。楽しみだなぁ、早速みんなに言っちゃおうかな、渉とのことっ」
渉の目が一気に鋭くなる。
「……お前、今なんて言った!?」
桜典は軽く体を揺らしながら、楽しそうに倉庫の出口へ嬉々として歩き出す。
「だって、嬉しいじゃん。渉クンと付き合えてるって、みんなに自慢したいんだもんっ」
渉は待ったをかける間もなく、咄嗟に桜典に連続で拳をぶつける。
「……もう一度言うぞ、絶対に!喋るな!桜典!」
桜典は痛がるどころか、頭をさすりながら少し声を漏らす。
「もう、なんでそんなに気になるかね…せっかく手当してくれたのにまた逆戻りしたよ〜」
渉は拳を握り直し、息を整えながら桜典をじっと見つめる。
「…分かったらちゃんと返事しろ」
桜典はにやりと笑い、倉庫の出口にはまだ向かわず、黙って渉の反応を楽しんでいるようだった。
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