第31話 勝負後のウニ丼の味
毒が身体を侵食していく中でも美琴はウニードルにフライングヘッドシザーズを仕掛け、そこから腕ひしぎ十字固めへと移行していく。
流れるように完璧な動きでウニードルの腕を極めるが激痛を与えられているにもかかわらず敵は余裕のように思えた。
すると彼のボクシンググローブのような巨大な拳から鋭利な棘が二本伸びて美琴の目に目潰しを与えた。美琴が激痛で技を解除するとウニードルは見せつけるようにゆっくりと立ち上がってくる。
美琴も少し遅れて起き上がるがフラつき足に力が入らない。
動きが鈍っている隙を突いてウニードルが猛攻を仕掛けてくる。胃袋へ膝を見舞って倒したところにセントーンで落下。
「ウニードルセントーン!」
苦悶している彼女を立ち上がらせて背中合わせに担ぎ上げ、四肢を極める。
美琴の背にはウニードルの巨大針は刺さり血が流れてリングを赤く染め上げる。
「ウニードルスペシャル!」
ウニードルは竜巻のように回転して上昇し、上空で技を解いて放り投げ、マットに身体を打ち付け動けなくなっている彼女に必殺のエルボーを首元に叩きこんだ。
「ウニードルエルボー!」
必殺技のフルコースを食らって全身が紫色に染まった美琴は血を吐きだし四肢をマットに投げ出している。
勝利を確信したウニードルだが会場の静かさに違和感を覚えた。
観客のほとんどは美琴の味方であるから嗚咽したり自分に罵声を浴びせたりするというのなら話もわかるのだが、そのどちらもない。決着のゴングも鳴らない。
何かあると思った矢先に美琴に異変が起きた。
彼女が黄金色に光り輝いて亡霊のように立ち上がってきたではないか。白目を剥いた切れ長の瞳から涙を流している。先ほど受けた棘の毒や針は完全に消えている。
嘘のような回復ぶりに彼が目を疑う中、美琴は言った。
「……ウニードルさん……本当に、ごめんなさい……」
「なぜ俺様に謝るんだ?」
疑問符を浮かべた刹那、ウニードルは上空に光のエネルギーで作られた巨大針がいつの間にか迫ってきていることに気付いた。しかもよく見ると巨大針は無数の針の集合体で構成されているではないか。狭いリングで逃げることもできず呆然と硬直することしかできないウニードルに無数の光の針が襲い掛かる。数万という光の針が身体を貫き、棘自慢の拳も破裂し、付きの装甲も耐えられず破壊されていく。
美琴の能力『攻撃反射』は相手の攻撃を数倍にして返す恐るべき力で、ウニードルにとっては自らの針の攻撃力が仇となる形だ。光の針の攻撃が終わったときに残っていたのは細身で柔らかい黄色のボディだけだった。
「よくも、俺様の本体を……」
脆弱な本体を見せてしまったウニードルは美琴を指差し罵ることしかできない。
すると美琴は気を取り戻して微笑む。
「決着つけますね」
「な……!」
目の前から美琴の姿が消えたかと思うとあっという間にバックドロップを極められ、ウニードルは完全に失神していた。
次に目覚めたときには美琴が長い黒髪を揺らしながら微笑んでいるのが見えた。
「俺様は負けたのか」
「ですが、素晴らしい勝負でした」
「……お前ならウニ丼を食う資格があるようだ」
ウニードルは残ったエネルギーを使ってウニ丼を生み出すと黄色い目を細めた。
「存分に味わってくれや……」
美琴は備え付けの箸をとって「いただきます」を口にして醤油をたっぷりかけてからウニ丼を頬張る。大人の濃厚な旨味が口いっぱいに広がり、笑みを深める美琴にウニードルは言った。
「いい笑顔だ。お前と戦えてよかったよ」
その言葉を最期にウニードルは消滅するのだった。
闇野美琴VSウニードル 勝者 闇野美琴
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