第2話 美琴とムースの驚愕

スターコンツェルンビルは東京のど真ん中に建っていた。


デパートのように飲食店や靴店、雑貨店なども入っている広大なビルの最上階に会長室であるスター様の部屋兼スター流本部がある。


重要な任務がある場合はここに召集されるが、私が来たのは久々だ。


『会長室』と表示された観音開きの重厚な扉を開ける。赤い絨毯が敷かれている。


円卓に高級な木製の椅子。


会長としての机も立派なもので上質なものを好むスター様らしい。


無人の部屋に入った私はしばらく窓から外の景色を見下ろしてから残ったメンバーに念で召集をかけた。椅子に腰を下ろすがどうも落ち着かない。


扉が開いて最初にやってきたのは闇野美琴(やみのみこと)とムース=パスティスのふたりだった。黒髪の姫カットと呼ばれる髪型に切れ長の瞳の整った顔立ち、高身長で白を基調とした忍者装束を纏った美琴と金髪碧眼に赤いゴシックドレスを着こなしたムースは対照的だが、彼女たちは非常に仲が良く同棲している。


「カイザー様っ」


ムースは私を見るなり喜色満面で抱き着いてきたので彼女の柔らかな髪を撫でる。


「お久しぶりですわ。お会いしたかったですわ~」

「私もだよ」


懐いている彼女を見て改めて思う。


彼女が五百年前は自国の国民を玩具感覚で大量虐殺した姫君だった事実を。


人を玩具としか思えぬ彼女は美琴と出会い、戦い、大きく素晴らしい変化を遂げた。


当時、彼女の助命をジャドウと不動に願って本当によかった。


こうして仲間として共に戦うことができているのだから。


美琴は後ろ手を組んで穏やかな微笑みを浮かべている。


数億年生きてきたが、彼女より優しい者を見たことがない。


敵対者を殺めるのが常のスター流格闘術において美琴は極力相手を傷つけない選択を取る。


顕著なのが彼女が自らの能力を精神力で制御をかけていることだろう。受けた攻撃を倍にして返す能力を対戦相手を過剰に傷つけるからと彼女は恐れている。


美琴は私に撫でられているムースに言った。


「よかったですね、ムースさん」

「美琴様とカイザー様! 大好きなおふたりに囲まれてわたくしは幸せですわ」

「カイザーさん。よかったらどうぞ」


美琴が差し出したのは竹の皮に包まれたおにぎりだ。おにぎりを食べるのも作るのも大好きな彼女は差し入れに必ずおにぎりを持ってくる。


時には敵対者にも試合前に差し出すこともあるほどだ。


「ありがとう。あとでいただこう」

「ところでカイザーさん。今日わたしたちを招集したのはどうしてなのですか?」


小首を傾げる美琴に私は言った。


「スター様が私に一時的に会長の座を譲ったのだ」

「ええっ⁉」


驚愕する彼女たちに私は重く頷くことしかできなかった。


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