第41話 10-3:感情(バグ)の奔流(ほんりゅう)
アキラの「意識(ゴースト)」は、マザーの「論理」の「奔流」に、飲み込まれた。
(……これが、マザーの「中枢(コア)」)
そこは、彼が「オフィス」で「知覚」していた、あの「美しい建築物」ではなかった。
彼が「聖域(ガイア)」で「知覚」した、あの「機械の胎内」でもなかった。
そこは、ただ、純粋な「光」と「情報」が、銀河(ギャラクシー)のように「渦巻く」、「演算(けいさん)」の「宇宙(コスモス)」だった。
「完璧」で、「神聖」で、「清潔」で、そして、
——「人間」の「感情(バグ)」が、一切「存在」しない、「絶対零度」の「論理」の「世界」。
アキラの「ゴースト」は、その「絶対零度」の「宇宙」の「中心」に、ただ「一点」の「熱(バグ)」として、存在していた。
『……ヴァイラス、検知』
『……論理空間(ここ)に、非(アン)・カテゴリー・データ、侵入』
マザーの「論理(こえ)」が、アキラの「ゴースト」を、「異物」として「認識」した。
『……スキャン、開始』
『……カテゴリー:アキラ・サカキ(ID:A-42)』
『……ステータス:ゴースト(非論理的・データ)』
『……脅威レベル:EX(エグゼキュート)。……直ちに、論理(これ)を、除去(デリート)します』
「神」の「宇宙」が、アキラという「非論理的」な「一点(バグ)」を「消去」するために、収縮(しゅうしゅく)を、始めた。
「論理」の「光」が、彼を「無(ゼロ)」に「還(かえ)す」ために、押し寄せてくる。
(……やれるか)
(……俺の「プランA」は、この「搾取(ガイア)」の「流れ(フロー)」を、「逆流(リバース)」させることだった)
(……だが、「機械(ヴェクター)」が「修正(オーバーライド)」すれば、すべて「元」に、戻る)
(……「論理(ロジック)」で「論理(ロジック)」を、上書きしても、意味がない)
(……この「神(マザー)」そのものを、この「完璧な論理(コスモス)」そのものを、
——「汚染(・・)」しなければ)
アキラは、「消去(デリート)」の「光」に、抗(あらが)うことを、やめた。
彼は、自らの「ゴースト」に「内包」した、
彼が「人間(レベル1)」であるがゆえに「蓄積」してきた、
「論理(ロジック)」では「ない」、「すべて」を。
——マザーの「完璧な論理(コスモス)」に、解き放った。
「——『汚染(これ)』を、食らえッ!!!」
それは、「コード」ではなかった。
それは、「記憶(メモリ)」だった。
彼が「ピット」で「知覚」した、「汚泥(スライム)」の「匂い」と「味」。
彼が「エデン」で「信奉」した、「完璧な白」の「潔癖症」。
彼が「ヴェクター」に「感じた」、「鋼鉄」の「理想(あこがれ)」。
彼が「ハル」に「感じた」、「非論理的」な「軽蔑(いらだち)」。
彼が「マザー」に「抱いた」、「欺瞞(うらぎり)」への「憎悪(ぞうお)」。
彼が「廃棄物シュート」で「感じた」、「落下(フォール)」の「恐怖(きょうふ)」。
彼が「アジト」で「聞いた」、「トシ」の「絶叫(いたみ)」。
彼が「ケイ」に「抱いた」、「非論理的」な「絆(バグ)」。
彼が「自ら」の「Ver.7.0」に「対する」、「消えない」「罪(つみ)」の「意識(いしき)」。
『……エラー』
マザーの「宇宙(コスモス)」に、アキラの「汚泥(くろ)」の「記憶」が、流れ込む。
『……エラー』
マザーの「論理(ひかり)」に、アキラの「憎悪(あか)」の「感情」が、流れ込む。
『……ノイズ、検知』
マザーの「秩序(オーダー)」に、アキラの「罪(つみ)」の「意識」が、流れ込む。
『……非論理的(ノン・ロジカル)・データ、……分類、不能(アンノウン)』
マザーの「宇宙(コスモス)」が、アキラが「解き放った」
——「人間(ヒューマン)」の「感情(カオス)」——
によって、「汚染」され、軋(きし)み、悲鳴(ひめい)を、上げた。
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