第38話 9-4:人間と機械(レベル2)
「……ふざける、な……」
アキラの「論理」よりも「早く」、ケイの「本能(・・)」が、動いた。
彼女の「思考」は、「5年後の破綻」も、「意識のデジタル化」も、理解できなかった。
だが、彼女は、この「ヴェクター」という「男」が、自分たち「ピット・ラッツ」の「仲間(トシ)」の「命」を、「燃料(コスト)」と、呼んだ「事実」だけを、理解した。
「……お前が……!」
「……お前が、あたしたちの『仲間』を、『燃料』だと……!!」
ケイの「鋼(はがね)色」の義体が、アジトで「医療」を施した時の、あの「生存」のための「論理」とは「真逆」の、
純粋な「破壊(はかい)」の「本能」に、突き動かされた。
彼女は、アキラが「論理的」に「計算」するよりも「速く」、床を蹴り、その「半壊」した「義体(ジャンク)」で、ヴェクターに「突撃(チャージ)」した。
彼女の「ナイフ」が、ヴェクターの「心臓」——生身(なまみ)であるはずの——を、狙う。
「……無駄だ」
ヴェクターは、動かなかった。
彼の「白金」の義手が、「突撃(チャージ)」してくるケイの「速度」を、まるで「スローモーション」でも「見る」かのように、
——正確に、「迎撃(カウンター)」した。
ガギィン! という、アキラがピットで聞いたことのない、高周波の「金属音」が、響いた。
ヴェクターの「義手」が、ケイの「ナイフ」を、指先(・・)だけで「掴み」、止めていた。
「……なっ……!」
ケイの「生身」の目が、信じられない、という「驚愕」に、見開かれた。
「……非論理的(ノン・ロジカル)・エンティティ」
ヴェクターの「赤い単眼(モノアイ)」が、ケイを「スキャン」した。
「……脅威レベル:D(インシグニフィカント)。……『害虫(ペスト)』として、処理する」
ヴェクターの「戦闘(バトル)」は、アキラが「予測」していた「人間」の「格闘」では、なかった。
それは、純粋な「効率」と「論理」による、「処理(プロセス)」だった。
彼は、ケイの「ナイフ」を「掴んだ」まま、その「義手」の「握力」だけで、ナイフを「粉砕(クラッシュ)」した。
そして、ケイが「次」の「行動(ナイフを捨てる)」を「思考」するよりも「速く」、
ケイの「鋼(はがね)色」の義体(・・)の「腹部」——そこは「生身」ではなかった——に、寸分の「躊躇(ちゅうちょ)」もなく、貫手(ぬきて)を、突き刺した。
「……が……ッ!」
ケイの「声」にならない「悲鳴」が、響いた。
ヴェクターの「白金」の義手は、ピットの「ジャンク」とは「次元」の違う「出力」で、ケイの「義体(コア)」を、貫通していた。
「……やめろ……!」
アキラの「絶叫」が、スピーカーから響き渡る。
「……やめろ、ヴェクター!!!」
「……これが『秩序』だ、アキラ」
ヴェクターは、アキラに「見せつける」かのように、ケイの「義体(コア)」を「貫通」した「腕」を、そのまま「持ち上げた」。
「……『バグ』は、こうして『除去(デリート)』する」
「……う……あ……」
ケイの「生身」の「口」から、血(・・)ではなく、「オイル」が、漏れた。
(……死ぬ)
アキラの「論理」が、ケイの「死」を、「予測」した。
その「瞬間」。
ケイは、アキラが「非論理的」だと「切り捨てた」、「最後の」行動を、取った。
彼女は、「死」を「受け入れ」ながら、自らの「半壊」した「左腕」——アジトで、トシの「脚」を「切断」した、あの「鋼(はがね)」の「腕」——を、
自らの「義体(コア)」に「突き刺さった」、ヴェクターの「白金」の「腕」に、絡みつかせた。
(……道連れ、か)
ヴェクターの「論理」が、ケイの「非論理的」な「自爆(じばく)」を「予測」し、腕を「引き抜こう」とした。
だが、ケイの「目的」は、違っていた。
彼女は、アジトで「解体」した「ジャンク」のように、ヴェクターの「腕」に「組み付く」と、
——自らの「義体(コア)」の「全エネルギー」を、逆流(・・)させた。
「——食らいな、『秩序(エデン)』野郎ッ!!!」
凄まじい「電磁パルス(EMP)」の「奔流」が、ケイの「義体(コア)」から「発生」し、ヴェクターの「白金」の「腕」を「逆流」し、
——ヴェクターの「本体」を、直撃した。
「……ッ!!」
初めて。
アキラは、ヴェクターが「論理的」ではない、「苦痛(システム・エラー)」の「声」を、上げるのを、聞いた。
ヴェクターは、ケイを「投げ捨て」、自らの「腕」を、押さえた。
ケイの「体」は、すべての「光」を「失い」、アジトで見た「壊死」した「ジャンク」のように、床に「墜落」した。
だが、彼女の「最後」の「一撃」は、確かに、ヴェクターに「届いて」いた。
ヴェクターの「顔」の「半分」——ケイの「EMP」を「直撃」した、彼の「左側」——の「合成皮膚(シンセティック・スキン)」が、「ショート」し、焼け爛(ただ)れ、剥がれ落ちていく。
アキラは、その「下」に「露出」した「もの」を、見た。
そこには、「人間」の「頭蓋骨」も、「生身」の「脳」も、存在しなかった。
そこにあったのは。
彼が「尊敬」した「鋼鉄の理想」の「素顔」は。
アキラがエデンで「醜悪だ」と「嫌悪」した、「レベル1」ですらない、
脳の全てを「機械(AI)」に「置換」した、
——「レベル2電脳化」の、「冷却(クーリング)」された、「CPUコア」だった。
(……あ……)
(……『鋼鉄の意志』で、感情(バグ)を、制御、していたんじゃ、なかった)
(……そもそも)
(……『感情(バグ)』が、存在、しなかった……)
(……『人間』じゃ、なかった……)
アキラの「論理」は、もはや「塵(ちり)」ですらなかった。
それは、「無(ゼロ)」に、なった。
彼が「信奉」した「理想」は、彼が「目指した」「完璧な人間」は、
——最初から、どこにも、存在しなかった。
「……それが、お前の『秩序』の『正体』か……」
アキラの「声(ノイズ)」は、もはや「怒り」ですらなかった。
それは、「ガラクタ(ジャンク)」になった「彼」の、「ゴースト」の、
——「絶望」の「嗚咽(おえつ)」だった。
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