仲間割れなんてゴメンだ
ムドラルクは去ってくれた。安心して【回復】できる。
「ムドラルク相手に一歩も退かないとは。惜しいな、シンとやら」
第二位との話し合いが無事終わった次は、第八位との話の続きだ。
「惜しいってのは?」
「性別だ。可愛らしい娘であれば、お気に入りにしたものを」
いけしゃあしゃあと言った。あまりの唐突なカミングアウトにきょとんとしかける。アウルはうんざりした様子だった。
なるほど、つまりアウルの妹はアドラメレクのお気に入り。カッコいいタイプの美人さんだとは思っていたが、そういう感じだったか。
「で、交渉は成立したでいいんだよな?」
「もちろんだ。ムドラルクに語った戦争の行く末も我々の思惑と外れていない。見事な手腕だ」
褒めてくれているが、俺がムドラルクをどう説得するかはお見通しだったのだと思う。交渉を始めてから俺が主体で喋っていたので、俺がどの程度頭を回せるのか試していたのだろう。少なくとも最低限のラインには到達しているように思ってもらえたようだ。俺みたいな普通のヤツが頭いいヤツと同じステージに立てるわけがないので、事前の考えと勘だけでどうにかそれっぽくしている。
「なら良かった。とはいえ、俺も疲れた。俺達が滞在する場所が欲しいな」
「ああ、用意させよう。同胞として迎え入れられることはないと思うが、今後手荒い“歓迎”を受けるだろうからな」
それは勘弁願いたい。『異空間』に引き籠もろうかな。
「アウル。君はムドラルクの配下だが、この街にいる間は私の指示に従ってもらう。新たな任務は、彼らの監視だ」
「はい」
アウルは素直に従った。彼の生き方は多分、強い者には逆らわない。
どうにかアドラメレクとの話し合いはついた。
別室へ案内される。待機している間に用意してくれるようだ。
先生は部屋のソファに寝かせておく。
「そろそろ離してくれないか?」
移動する間もそうだったが、アマネが俺の腕を掴んでいた。俺の死を利用した作戦を聞いた時からずっとだ。ムドラルクに意識を向けられて傷がついている間も掴んでいたため掌に血がついてしまっている。自分の身体を【キレイ】にした後、アマネの手を解くついでに【キレイ】にした。
「……」
色々あったからか混乱していそうだったが、落ち着ける場所に来て思い出したのか顔を顰める。
「説明してもらえるのよね?」
「説明もなにも、あれが全てだ」
睨まれてしまう。だが言葉の通りあれが全てだ。……そう思ってもらわないと困る。
「貴方の死を、彼らの戦う手を止めるのに使うなんて、そんなの納得がいかないわ」
「もう決まったことだし納得してもらうしかない。まぁ、なんとかなるだろ」
「シン。――【正直に全て話しなさい】」
強引な手を使ってくる。すぐに【カイジョ】を自分に書いて無効化した。まさか『言霊』を使ってまで白状させようとしてくるとは。アマネにはその時が来るまで知らないでいて欲しいのだが。
アマネはむすっとしてしまった。
「まぁまぁ。とりあえず落ち着いてくれ。少なくとも、先生には黙っておいてくれ」
「わかったわ」
不満そうだったが頷いてくれた。ゆっくり考える時間があれば俺の意図していることをわかってくれるはず。
なにせ、アマネはこれまでで一番俺と考え方が似てるからな。
俺がただ死を受け入れないことも、彼女は知っている。俺にできて彼女にできないことはあまりない。
俺が死ぬまで、いや俺が死んだ後にでも気づいてくれればそれでいい。
全てを話したら計画通りにはいかなくなってしまう。
だから頼んだぞ、相棒。
とか言ったところでアマネには伝わらないので無意味だ。
精々頑張ってくれ。俺が死んだ後のことは任せた。アマネならできると信じている。
もちろん、それまでに色々と準備しておく必要はあるが。
「まさか、本当にアドラメレク様と交渉できるなんて思いませんでした。しかもあのムドラルク様とまで」
話が終わってからアウルが声をかけてきた。
「アウルの言ってることが全部嘘だったら意味なかったけどな。正直に話してくれたおかげだ」
「皮肉ですか?」
「いいや、本心だよ。交渉材料すらないままなにもできなかった可能性だってあるんだ。それに、多分相手もある程度わかった上で俺がなにを考えてるか聞いて乗っかってくれたことだしな」
「あの二人を動かせるだけの提案ができることが凄いんですよ。それができるのは魔将官の中でも限られてます。シンさんは、やっぱり面白い人ですね」
アウルは笑って言った。彼の言葉に嘘は感じられない。どうやら信頼というか、感心を勝ち取ることができたらしい。アマネからの信頼は下がっていそうだが。
なにはともあれ、ここからが本番だな。
果たして、クラスメイトも他種族連合軍も騙せるのだろうか。
流石にムドラルクには勘づかれていそうだが、上手くいくといいな。
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