ドラゴン退治なんてゴメンだ

 全ての準備を整えて、いざドラゴン退治へ。


 と行く前に一人でガルドゥナさんの下に来ていた。出発の日取りが決まったので伝えたら、当日来いと言われたのだ。


「餞別だ。と言っても依頼料から材料費まできっちりいただくがな」


 彼が用意してくれたのは、鍛冶道具一式だ。予備含めて二つずつ。鍛冶台は俺がよく割っていたからか三つもある。最近は壊さなくなったので二つで大丈夫だと思うのだが。


「こいつが炉だ。お前さんの力ならどうやってでも使えるだろう」

「ありがとうございます」


 そして念願の炉をゲット。これで本格的な鍛冶がいつでもどこでもやりたい放題。持てる形なのでやや小さめかもしれないが、充分な大きさだ。早速『異空間』に運び込む。

 『異空間』は今や一部屋がかなりの広さになっていた。一軒家のリビングどころの話ではない。あとベッドは買うという名目で宿屋のモノを貰ってきていた。高級ベッドにもいつでもダイブできると。入ってすぐの部屋の左横に扉があって、その先にはなにも置いていない。レベル三十を超えた時に追加された部屋だ。メインの部屋よりは小さめだが充分な広さがある。ここを鍛冶部屋にするつもりだった。


 鍛冶道具も全て鍛冶部屋に運び込んだ。


「なにからなにまでありがとうございます」


 今一度頭を下げる。


「いや、いい。達者で過ごせよ。どうせ、お前さんの噂はどこからか聞こえてくるだろうからな」

「一応情報規制お願いしてるんで、これからもこっそり生きてこうかなと思ってますけど」

「無理だな」


 人の口を完全に閉ざすことはできない、ということで。是非もなし。


「ありがとうございました。また機会があれば」

「ああ」


 挨拶は簡潔だった。基本無愛想なところは変わっていない。


 他の二人と合流してチェンさんの邸宅へ。

 新垣先生が心血を注いで完成させた『新約:異世界知識』みたいな紙をチェンさんに渡しておく。


「これは、そこそこですな」


 なんでも『資金眼』で価値を計ろうとするな。


「でしょうね。次にここを訪れる英雄の集団には、弓使いの男がいるはずです。そいつに渡してください」

「ご友人ですかな?」

「そんなところです」


 深く突っ込まれても答えようがない。


「ではこれで」

「はい。気が向いたらこの都市でお店でもどうぞ。アナタでしたら、大通りに店を構える価値があります。ワタシ共はいつでも、来訪をお待ちしておりますよ」


 チェンさんはいつもの温和な笑顔で見送ってくれた。

 新調した装備達のことを言っているのだろう。彼には俺達が金目のモノを身に纏った成金に見えているのだろうか。


 最後に買っていきませんかと声をかけてくる商魂逞しい商人達を適度にあしらいつつ、商業都市を発った。結構長い間いたと思うが、悠己達はまだ来ていない。大変だろうが頑張ってくれ。


「ずっと私達のことを金額で見て、本当に居心地が悪かったわ」


 街を出て早々にアマネが言った。


「まぁまぁ。スキルは生まれた時から持ち合わせるらしいから、人格形成に大きな影響を与えるんだろうね。金銭価値でしか人やモノを見れないんだよ」


 新垣先生が早速蓄えた知識を披露してくれる。


「俺は嫌いじゃないけどな。利益を提示すれば悪い関係にはならないからある意味扱いやすいし」

「それは貴方だからよ」


 アマネはチェンさんが苦手らしい。失礼な話だが、見た目が凄くいいので値踏みするような視線には慣れているのかと思っていた。いや、慣れているからこそこっちの世界でも晒されたくないのだろうか。


「それで、二人共。ドラゴンについてはなにか作戦があるの?」


 先生が話題を変える。知識をつけてから自信を取り戻したのか、表情が明るくなった気がする。


「倒さなきゃいけないならアマネを中心に力尽くでボコします。倒さなくていいならアマネがボコして撃退させて橋から退かします」

「作戦なの、それって……」

「向こうの出方が見えないとなんとも。相手に合わせるのは得意な方ですけど、先手取られがちなんで」


 後手に回ることが多い気がする。後手に回ってどうにかやり過ごすのが基本だ。


「任せて。戦ってばかりいた私がなんとかするわ」

「頼もしいな。是非、頼むわ」

「ええ」


 というわけで戦闘はアマネに任せるとしよう。俺も戦えるが先生のカバーとアマネの援護をする感じにしようと話していた。


 充分な休息を摂ってから橋へ。


 とんでもなく大きな白銀の橋だった。道幅が五十メートルはある。こんな大きな橋を造れる技術があるのか。巨大な川を跨ぐ橋の反対側は見えなかったが、問題のヤツは見えた。


 漆黒の図体を持つ翼が生えた蜥蜴のような化け物。ドラゴンに間違いない。橋に陣取って構えていた。通せんぼできる大きさだ。近づくとわかるが、全長四十メートル近くある。漆黒の鱗を持つ紫色の目をしたドラゴンだ。目は一色なので白目を剥いているような風にも見えるが、ドラゴンはこういう感じなのだろうか。爬虫類っぽい瞳孔が縦の目とかではなかった。


 百メートルくらいまで近づく。この辺で新垣先生には待機してもらおうと思ったが。


 仁王立ちするドラゴンが動いた。


 身体を前に倒して両手を突き、大きく口を開ける。開いた口の前に黒紫色の光が集まり始めた。盛大に嫌な予感がする。


 俺は【エワズ】を右手で描く。移動を意味するルーン文字で、今回は速く駆けるイメージを持った。移動速度を上げてぽかんと口を開けている新垣先生に駆け寄り腰に手を回して回収する。


「わっ!」

「舌噛まないように口閉じて!」


 先生を抱えながら全力で橋の端に寄り、ジャンプする。高いステータスを活かして橋の脇に立つ柱の頂点に着地した。アマネはアマネで避けている、どころか柱を経由して近づこうとしていた。


 一際強い光が放たれたかと思うと、ドラゴンの口から膨大なエネルギーが放出される。当たりそうだったので柱の上から更にジャンプして避けた。黒紫色のエネルギー波が橋の上を通り抜ける。直径二十メートル近い範囲の攻撃だ。しかも距離は百五十メートルくらい。とんでもない攻撃だな。俺達もあれを喰らったらひとたまりもないぞ。


「先生、あれの範囲外に移動させますね。近づきすぎないように」

「う、うん。頑張って」


 俺はブレスが過ぎ去った後の橋を通ってブレス範囲以上離れたところに先生を置いていく。


 その間に接近していたアマネが竜殺しの細剣改めドラゴンキラーを持って斬りかかった。


 戦闘開始だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る