敗北なんてゴメンだ

 結局、俺はガルドゥナさんのところに入り浸って『鍛冶』をしていた。やってみるとこれがなかなか面白い。めっちゃ暑いけど。


「鍛冶台とか炉ってどこで買えばいいんですか?」

「店を持つ気か?」

「いえ、『異空間』に鍛冶用の部屋作りたくて」

「……」


 とんでもないスキル構成だなとでも言いたげな顔をされてしまった。


「俺が造ってやる。炉は、自分で材料を買ってこい」

「いいんですか?」

「客入りが少ないからな。お前さんに売れば売るだけ収入になる」


 確かにあまり人が来ない。来ても無愛想に対応するだけなので俺が話を聞いたくらいだ。本人は余計なことをするなとでも言いたげだったが。


「一応、餞別でもある。お前さんの力はどこへ行っても引っ張りだこ。引く手数多だ。逆に言えばどこへ行っても厄介事に巻き込まれるということでもある」


 ガルドゥナさんはそう言って少し笑った。初めて見た時は笑うんだこの人と思ったものだが。


「精々苦労しろ。それが力持つ者の責務だ」


 英雄の責務から逃げ出したというのに、結局そうなるのか。そもそもなぜ生産特化の英雄が俺しかいないのか。俺に三十九人分の装備を創ってろとでも言いたいのか。


 『刻印』で無理矢理不眠不休で『鍛冶』していたのでかなり順調にいった。検証も色々できたし、ガルドゥナさんには感謝しかない。

 数日に一回宿屋に戻っているが、先生の方も順調なようだ。アマネは冒険者として単独で活躍しまくっているらしい。【存在希薄】を使っていないので見た目と合わさってこの街で一番有名で凄腕の冒険者に成り上がったらしい。これが戦闘向き英雄の力か。


 全員分の新装備も無事創れた。素材は街で買いたい放題できるから時間さえあれば。先生の分は特に念入りに。ついてきてもらわないといけないのに自分で自分を守れないので装備で補助する必要があった。


 俺が創った『刻印』装備は売り物に出せないので全て俺が持っている。自分達で使う分を抜くと数は少ないが、あったら使えるかもしれない。


 そうして商業都市での日々は過ぎていく。


 そろそろ出発かという時に宿屋へ戻ると、アマネが俺の部屋の前にいた。


「丁度良かったわ。いつ帰ってくるかと思っていたのよ」

「こっちこそだ。とりあえず入るか」

「ええ」


 というわけで二人して部屋の中へ。


「先生は?」

「そろそろ目途が立ちそうよ。明日休んで、明後日には出発できるわ」

「流石」


 頼りになる先生だ。ステータスに囚われない価値がある。チェンさんの『資金眼』もそう読み取っていたようだし。


「そっちはどう? 色々と、やっているみたいだけれど」

「色々って言うか、装備新調してるんだ。アマネには渡しておく」


 というわけでアマネ用に創った装備品を『収納』から取り出して渡していく。


「布の肌触りが違っているわね。またレベルが上がったみたい」

「ああ。『裁縫』の専門家には出会えてないから単純なレベル上げと経験だな」

「この剣……【竜殺し】と書いてあるわね。ドラゴン対策?」

「ドラゴンによく効く剣にしてきた。一番のアタッカーはアマネだからな、アマネ分は創ってる」

「ありがとう。こっちの腕輪は内側に色々彫ってあるのね」


 アマネ用に創った竜殺しの細剣と俊敏の腕輪は力作だ。

 細剣は刃の根元に【竜殺し】と書いてある。柄には【ウルズ】と【アンサズ】と【ソウェイル】と【ティワズ】を刻んで布を巻いて隠している。これでも効果は発揮される。順に力、知識、勝利、戦いを意味するイメージで刻んでいる。

 竜殺しの細剣には『ドラゴン特攻』のスキルが付与され、攻撃力がなにもつけていない時と変わって十%増加する。INTも五%増加。数値基準じゃなくなったので俺達が使えばかなり強い。勝利を引き寄せるから転じて『会心』という攻撃を当てた時確率でダメージが増加するスキルがついた。『戦の旗印』という戦闘時強化効果のかかるスキルもだ。スキルつきの装備なんて滅多に造れないと言っていたが、俺は『刻印』によって任意に創り出せる。

 俊敏の腕輪は見えない内側に速い意味の文字とか言葉を刻んでいる。結果、SPDが二十五%上がる装備と化していた。スキルは付与されなかったがステータス特化型装備だ。


「……ねぇ、一つ試したいことがあるのだけれど」

「ん? あぁ、いいぞ。俺も色々試しながらだったし」


 俺も検証しまくったので、アマネの提案を受け入れる。試していかないとわからないことも多いのだ。できる幅が多いスキルだからこそ理解を深めるための検証は大事だ。


「もしかしたら貴方の創ってくれた装備をダメにしてしまうかもしれないのだけれど」

「それは……腕輪で試してみるか? 今からでももう一つ創れるだろうし」


 竜殺しの細剣をダメにされたらショックを受ける。


「わかったわ。この腕輪に名前はあるの?」

「ああ、俊敏の腕輪っていう名前になってるな」

「貴方がつけたわけじゃないのね?」

「完成したら自動でつくようになってるな」

「そう。なら試してみる価値はありそうね」


 アマネは言って腕輪を手に取った。なにをする気なのかわからないのでじっと待つ。

 彼女は一息入れた後に、


「【の腕輪】」


 『言霊』を使った。俺が伝えた名前とはまた別の響きだ。

 『鑑定』を使う。……名前が変化していた。性能もだ。


「……おいおいマジかよ」


 SPDの増加が二十五から五十に跳ね上がっていた。単純に二倍だ。それとスキルも追加されている。『瞬迅』、一歩目から最高速で走れるというスキルのようだ。


「その様子だと上手くいったようね」

「『言霊』による名づけ、か」

「ええ。貴方の『刻印』で武器の効果や名前が変わるなら、私の『言霊』で武器の名前をつけることで効果が変わるんじゃないかと思ったの」


 俺の『刻印』で性能を底上げした装備を、アマネの『言霊』で補強する。


「最高だな。それなら、全部名づけしてくれ。それだけで装備が数段階強化される」

「ええ、もちろんよ」


 アマネ用の装備だけでなく、俺と先生の装備も強化してもらう。既についた名前を『言霊』でつけ直すだけでも多少強化されるようだ。強化幅は新しい名前より落ちるが。


「ホントに、私と貴方って相性がいいみたいね」

「光栄なこった」


 初めて腹を割って話した時にもそういうやり取りがあった気がする。

 異世界に来て色々あったが、俺の最大の幸運はアマネという協力者を得られたことだな。

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