訓練なんてゴメンだ

 食事の最中、流石に新垣先生の分もないのはマズいだろと思いパンを食べるフリをして口の中に収納の入り口を開いて格納する。向かいの席からも見えなかったはずだ。


「異世界メシも結構美味いのなー」


 隣の席に座った男子が雑談を振ってくる。

 幸原ゆきはら悠己ゆうき。茶髪に染めて黒染めしたからか焦げ茶ぐらいの髪色をしている。なんだかんだ休み時間に話すことも多いヤツだ。

 ステータス平均は三百、職業は射手。職業らしく弓を武器に選んでいる。


「こっちの世界の人には無害でも俺達には有害な毒があるかも、とか思ったけどないしな。存分に食え」

「お前な……。あー、そういや『鑑定』ってスキル持ってたな。ってかお前結構便利系多かったくね?」

「戦闘があんまりだからじゃね?」

「俺は『収納』が羨ましいぜ……。弓使いっつったら矢を消耗すんだろ? 手持ちできる数にも限りあるし、使ったら補充しなきゃなんねーし」

「燃費悪いな。魔力でどうこうできるように頑張れ」

「他人事だと思って適当言いやがって。ん? ってかそう考えると俺らって相性最高じゃね?」

「ド素人の弓使いと組まされるなんて最悪の間違いだろ」

「おいこら」


 悠己に肘で脇腹を小突かれてしまった。

 軽口を叩き合いながら腹を満たす。おかわりもあったので先生の分もちゃんと確保できたのは良かった。悠己は軽くて適当な感じだが弓使いの欠点をちゃんと考えている通り冷静に頭が回るヤツだ。スキル相性も言う通り悪くない。


 ただ悪いが、離脱予定なので頑張ってくれとしか言えなかった。


 食事の後、建物の横にある土剥き出しの広場に案内される。ここが所謂訓練場なのだろう。


 訓練場には先客がいた。お揃いの金属甲冑を着た人達と、お揃いのローブを着た人達だ。老人と姫もいる。


「騎士団と魔術師団の者達だ。諸君の戦闘訓練の指導をする。武器は騎士団に、魔法は魔術師団に教わるといい」


 老人が仕切るようで、俺達全員に告げた。各々どちらがメインかで騎士団か魔術師団の方へ分かれていった。


 さて、俺はどうしようか。


「あの、すみません」


 俺はある程度分かれ始めてから老人に声をかける。


「戦闘訓練より生産の知識増やした方が貢献できると思うので、できればそういった蔵書が保管されている場所に行きたいんですけど……」


 困った風な笑みを浮かべてお伺いを立ててみた。明らかに嫌そうな顔をされる。


「英雄の諸君は我々の財産でもある。勝手な行動は許可できん」

「それなら関連する書物を持ってきていただくことはできませんか? ほら、昨日装備品を魔法で移動させてましたよね? あんな感じで……」


 俺が食い下がると、大きなため息の後渋々という顔で地面を杖で二回叩いてくれた。

 すると老人の空いた手の上に三冊の本が現れる。

 鍛冶の基礎と書かれた本が一番上にある。きちんとスキルに合った書物を用意してくれたようだ。


「貸し出しはするが、訓練中は戦闘訓練を受けるように。暇な時にでも読むがいい」


 それが条件ということか。やっぱり前線に立つ戦力が欲しいようだ。図書室とか書庫とかに案内しないのは余計な知識をつけさせないためか。


「ありがとうございます」


 笑顔でお礼を言って三冊の本を『収納』でしまう。

 改めて魔術師団の方へ向かった。


「あれ? 真クンってこっちなの? あっちじゃなくて?」


 甘栗色のショートボブに童顔の女子。みなみ八重やえだ。

 小柄でやや幼く見られがちだが男女年齢問わず誰とでもフランクに接する。俺みたいなごく普通男子だと話す回数が多い女子は彼女になる。


「単純に魔法に興味があるってのが一つ。あっちの世界にはなかったからさ」


 スキルに魔法がないから疑問に思ったのだろう。


「わかるー。魔法って聞くだけでワクワクするってゆうか、ファンタジーのロマンって感じだよね」


 昨日こそ不安も見えたが、今日はいつもの八重に戻っている。


 彼女は風雷ノ魔術師という職業で俺とは違い完全な魔法職だ。二属性特化は非常に珍しいらしく、老人の顔も綻んでいた。


「集まったようですので魔法について説明しましょう」


 黒髪パッツンロングストレートの美青年が代表して口を開く。騎士団も魔術師団も揃いも揃って美形ばかりと来た。異世界だからか? 顔面偏差値の高さを感じる。


「初めまして、理由の皆さん。私はシング・アルバート。魔術師団の副団長を務めております」


 彼は恭しく一礼した。団長ではないらしい。流石にトップは忙しいか。


「まず魔法とはなにか説明しましょうか。魔法とは魔力を用いて様々な現象を引き起こす術法のことです。魔法を発動するのに必要なのは魔力と詠唱です。ステータスのMPが魔力。魔力がなければ魔法は発動できません。詠唱とは、魔法の名称を唱えること。唱えることで魔法を発動するのに必要な魔力を消費し、魔方陣が描かれ、魔法が発動します。……言葉で説明するより見せた方が早いですね」


 彼はまず言葉で魔法を説明する。仕組み自体は昨日試した『刻印』とそう変わりないようだ。


「【ファイア】」


 唱えると彼の前に赤い円状の幾何学模様が描かれる。そこから炎が上がった。

 この魔方陣、教室に出たモノと同系統だ。老人の魔法によって転移させられたと考えていいだろう。


「使用可能な魔法の名称はステータスからスキルの詳細を見ることで確認できます。試しに使ってみましょう。あぁ、人に向けてはいけませんよ。あちらに的があるので整列して試してください」


 シング副団長の指示に従って魔法の訓練を開始する。

 俺もそれらを横目に八重の隣に並んだ。


「【ウインドエッジ】」


 八重が手を前に出して魔法を唱える。黄緑色の魔方陣から風の刃が放たれて的に当たり切り裂いた。確か『風魔法』だったか。


 俺は『雷魔法』も試していく彼女を尻目に魔力を指先に宿す。書いた文字は【風刃】。これで【ウインドエッジ】と同じ現象が引き起こせるはずだ。


 魔力で書かれた文字が溶けて風の刃となり的に向かって飛んでいく。


「え、なにそれ!? 魔法とは違うんだよね? 不思議な力」


 八重が驚いて言う。魔法とは違うので若干魔術師団の注目を集めてしまったが、魔法の使い方を覚えて戦えるようになるための初歩が今の訓練内容だ。俺なりではあるが同じことをしているつもりだ。

 ただ文字を書く都合上詠唱より発動が遅いか? 老人は装備品や本の転移をなにも唱えずに行っていた。魔法は過程を省略できるかもしれないが、刻印はできない。いや、待てよ? 昨日検証した時同じ文字でもイメージによって現象が置き換わっていた。


 今度は【カゼ】と指を走らせる。漢字よりひらがなよりカタカナの方が書くのが早い。イメージは【風刃】と同じ。すると同じように風の刃が飛んでいった。……なるほど、『刻印』の強みはこういう感じね。


 その後も八重の協力を借りつつ『刻印』の検証を進めていった。

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