ステータス格差なんてゴメンだ

 違和感や不信感はあるが、俺はこの世界のことをなにも知らない。

 戦闘訓練なんて積んでないし特殊な技能も持っていない。人族である彼らはレベル一状態の俺達よりも弱いという話だが、いくらでも殺しの手段を持っているだろう。

 ここで表立って逆らうのはリスクが高い。先生のように言い包められて終わりだろう。……最悪を想定すると先生と同じ末路を辿る。


「ステータスを開いた時、職業が確認できるだろう。職業に応じた装備品を贈呈したい。一人ずつこちらに来てステータスを見せて欲しい」


 老人が言い出した。ステータスを相手に把握されるのは面倒だが、装備品を獲得する必要はある。一応見られたらマズい情報がないかは確認しておくか。


 ステータスと念じて中身を確認する。


名前:神坂こうさか しん

レベル:1

職業:刻印師

ステータス

MP:600

ATK:127

DEF:143

INT:540

MDF:225

SPD:133

スキル

鍛冶Lv1 錬金Lv1 裁縫Lv1 細工Lv1 鑑定Lv1 気配察知Lv1 収納Lv1  異空間Lv1

特殊スキル

言語翻訳 成長期 刻印


 うっっわ、思いっきり生産職じゃん。……多分ね。


 少なくともスキルを見る限り戦闘より生産向きだ。ただ刻印師なる職業がどんな職業かよくわからないな。創るモノに対して紋章を刻む的な意味合いなのだろうか? 紋章で装備品を強化するとか。


 ステータスの平均は約三百。百から五百と言っていたから真ん中かやや上くらいだろう。他の人のをこっそり盗み見た感じでもそう取れる。


「んじゃ俺からいこっかー」


 クラスの男子上位グループに属しているチャラ男君から前に進み出た。チャラいが気軽に女子に話しかけられるし男子も蔑ろにしないしこういう時に自分から行動できるし。チャラくあれることも美徳だ。


 彼が動いてくれたおかげで他も後ろに並び始めた。俺は真ん中ら辺を狙って並ぶ。

 順にステータスを確認されて職業から人を分けていく。武器戦闘系と魔法系で分けているっぽい感じだ。生産系は……今のところいないな。


 四十人もいるのでちゃっちゃか進めていく。


「閃光ノ勇者……!?」


 老人が目を見開いて驚愕した。

 明らかに特別そうな職業だ。勇者がついていることだしな。

 そんな素晴らしい職業を獲得したのはすめらぎ光輝こうき。スポーツ万能成績優秀な爽やかイケメンで圧倒的女子人気を誇る。中性的で線が細め、人柄もいいと来た。モテないはずがない。

 更には大富豪の御曹司で修学旅行中一人だけ個室を与えられていたり入浴の場所が違っていたりした。全てを兼ね備えている。


「まさか勇者まで現れるとは……! 勇者は特に特別な力を持つ職業だ」


 驚きに、喜ばしいとばかりの嬉しさが混じる。彼らにとっても予想外の逸材というわけか。

 こういう大人数の中で一人だけ特別だとやっかみも生まれそうだが、相手が相手なだけに当然だなという雰囲気になっている。


 ちらっと見た感じ、ステータス平均も五百を優に超えていた。


「宵闇ノ勇者!?」


 彼だけが特別か、と思っていたらもう一人いた。

 あまり喋らずいつも教室で独りだが、顔面が強すぎて女子人気が高い。坂俣さかまた月夜つくよだ。このクラスでは皇と対を為す影のイケメンと言われている。こちらは高身長で細マッチョという感じ。

 皇と坂俣が話しているところはあまり見ないが、一部の女子がどっちが受けかなんて妄想を話しているのを聞いたことがある。


「まさか二人も……」


 流石に予想外だったのか王と姫含めて驚愕していた。

 光と闇と司っていそうな勇者二人の他にも老人が感嘆の声を漏らすようなことがあった。結構珍しい職業だったり優秀な職業だったりするのだろう。


 そして俺の番。


「刻印師……?」


 老人が首を傾げていた。どうやら聞き覚えがないらしい。余程珍しい職業なのだろう。


「スキル構成からして戦闘でなく生産寄りか? ……まぁ良い。三列目に並んでおけ」


 若干の失望が見て取れる。良い装備品を創って貢献できれば軍の装備にも使えるから役立つと思いそうなモノだが。単純な戦力が欲しいだけなのだろうか。


「言霊術師?」


 俺の少し後に並んでいた人の職業でも老人が頭にハテナを浮かべていた。

 錦城きんじょう天音あまね。ロシアだかどこかの外国人とのハーフで銀髪に青い瞳をしている。凛とした佇まいで男女共に人気がある。身長百六十くらいにスタイルも良しと来てモデルのスカウトが絶えないと噂で聞いたことがある。


「聞いたことはないが魔法系統に近いか」


 ただし彼女は俺の方ではなく魔法職の列に並ばされていた。

 言霊という言葉通りに受け取るなら口にした言葉が現実になる術法の使い手と言ったところだろうか。だとしたら魔法よりもかなり幅広く使えるとんでもない職業ということになるのだが。


 そして生徒四十人が一人ずつステータスを見せて列に分けられていく中。


「では最後に……あなたの番だ」


 一人だけその場に残っていた。老人に反論した我らが新垣先生だ。彼は血の気が引いた青白い顔で突っ立っている。少し怯えているようだった。


「どうかしたのか? さぁ、こちらに来てステータスを見せてくれ」


 老人は何気なく告げる。生徒達も先生の方を見ていた。……ただ俺にはわかった。老人の頬が若干ヒクついているのが。まるで笑みを堪えようとしているかのようだ。


 新垣先生は青白い顔で近づくと、大人しくステータスを表示させた。


 レベルは俺達と同じ一。

 職業は元の世界と同じ教師。

 そして。


 ――ステータスの平均値は五だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る