第22話 巨人ケガレの意外な弱点

 魔法少女達が巨人ケガレに対して反撃を挑もうとしていたその時、彼女達を物陰からこっそり見守る人影があった。気配を消して物音ひとつ立てず、しっかりこの状況を目に焼き付けていたその人物は、ここでゴクリと息を飲み込む。


「すごいピンチでしたが、持ち直したようで良かったですわ……。ここから反撃ですわね……」


 一方、棍棒を力の限り振り下ろし続けていた巨人ケガレは、どれだけ叩いても一向に壊れない結界に苛立ちを覚え始めていた。


「硬すぎるど! 何で壊れないんだど! もう飽きてきたど!」


 そう、彼は体力が尽きてきたのではない。やろうと思ったら1日中棍棒を振り続ける事だって可能だ。結界が壊れるまで叩き続けたってまだ力に余裕が残っているだろう。しかし、それがいつになるかは分からない。

 人は単純な作業を続けていると飽きが来るもの。それはこの巨人ケガレも同様だったようだ。


「こうなったらこうだど!」


 巨人ケガレは棍棒を両手で握り、剣道の面の要領で思いっきり振り下ろす。最大限の力を込めて本気で結界を壊す作戦に出たのだ。流石のラアサの結界でも、これでは何度も防げはしないだろう。


「おらあああだどおお!」


 その渾身の一撃で、結界はパリンと言う軽い音を立てて粉々に砕け散った。達成感を覚えた巨人ケガレはその勢いのまま地面を叩き付ける。この時に発生した衝撃で、半径50メートル程のクレーターが出来た。

 大きくえぐれた地面の中心にいた彼は、この時発生した土埃の中で顔をキョロキョロと動かす。


「手応えなかったど? あいつらは……」

「ここよ!」


 まだ視界が不明瞭な中、弓月の銃弾が巨人ケガレの右手に命中。やはり一撃では大したダメージがなかったのか、右手は棍棒を握りしめたまま。それも想定内だと彼女は銃を撃ちまくる。


「なんだ? そこにいたのかど? そんな攻撃痒いだけだど」

「やっぱり威力が足りない……」


 ダメージが小さいとは言え、その攻撃は有効なようだ。ずっと撃ち続けられる事に怒りを覚えた巨人ケガレは、その元凶を排除しようと右手を大きく振りかぶった。


「お前、うざいどおおお!」

「ちょ~ぜーつ……マジカル昇竜アッパァァァ!」


 このタイミングを狙っての鈴奈の攻撃! 魔力ブーストがかかった超スピードでジャンプしながらのアッパーは、まるで竜が天に駆けるかのようなの軌跡を生み出した。魔力の竜は巨人ケガレの右拳を貫き、その手を弾かせる事に成功する。発生した衝撃によって、巨人ケガレの持っていた棍棒は空の彼方に飛んでいった。

 彼は飛んでいく棍棒を目で追いながら、その目に涙を溜める。


「あああああ~っ! オデの相棒~っ!」


 棍棒を手放したケガレはその身体に異変を起こさせた。徐々に縮んでいったのだ。その変化が終わった時、ケガレの身長は2メートル近くになっていた。それでも大男には違いなかったものの、巨人だった頃の圧倒的なオーラすら失っている。そう、静流の読みは当たっていたのだ。

 このタイミングで魔法少女剣士が一気に間合いを詰め、低く構えると一気に抜刀。


「神速神閃、滅!」

「ギャハッ!」


 静流の一閃で上半身と下半身がサヨナラしたケガレはそのまま消滅。この長いバトルに終止符が打たれた。あまりに呆気ない幕切れに鈴奈は現実感を持てない。


「終わったの?」

「ああ、僕達の勝利だ」


 静流の達成感に満ちた笑顔を見て、鈴奈も徐々に勝利を実感出来てきた。感極まった彼女は、このバトルの一番の功労者のもとに駆け寄る。弓月もまた同じ行動を取っていた。

 全員が集まった所で自然に手が伸びて3人でハイタッチ。亜空間に軽快な音が響く。


「「「いえーい!」」」

「みんなお疲れ様! 今回は激戦だったわね!」


 ラアサの労いの言葉から何となくの流れで始まる反省会。3人はそれぞれ仲間の功績を褒め称えつつ、自身の不甲斐なさを自虐的に告白した。それを他の仲間やラアサが慰めると言うパターンで、少しずつ親睦を深めていく。

 物陰からその様子をずっと見ていた人影は、3人の無事を確認してそっとその場から立ち去るのだった。


「いいものを見させてもらいまいしたわ。やはり友情は素晴らしいですわね……」


 反省会も終わり、ラアサは亜空間を閉じる。その時、微かに違和感を覚えた白黒ハチワレ猫はキョロキョロと周りを見回した。

 そのいつもと違う行為を目にした鈴奈は首を傾げ、ラアサをヒョイと抱き上げる。


「どうしたの? 何かあった?」

「いえ、気の所為ね。何でもないわ」

「そか」


 西の空が染まり夕日も落ちてきたので、3人はここで解散。みんなで手を振り合ってそれぞれ帰宅する。

 今回の戦いで自分の力の限界を感じた鈴奈は、もっと腕を磨いて技を極めようと心に誓うのだった。


「ラアサ、帰ったらまた亜空間お願いね」

「今日くらい休めばいいのに。無茶はしないでね」

「分かってる。しんどかったら止めるよ」


 そう言いながら、鈴奈はこの日も2時間きっちり鍛錬。ボロボロに疲れ切った彼女は泥のようにぐっすりと眠る。

 連日そのルーティーンなので、ラアサはいつか限界が来るのではないかと心配そうに見つめていた。


 翌日、今度は未来に呼びかけられる事もなく、何事もなく時間は過ぎていく。鈴奈はそれとなく彼女を目で追っていたものの、近付いてくる事もなく、何かを知っている風な素振りも見せなかった。


「どうしたんだい?」

「あ、いや。未来ちゃんが気になって」

「彼女の疑問は解消したんだ。もう僕達に話しかける用もないんじゃないかな」

「だよね」


 静流はもう気にする事はないと言うものの、未来がいつも視界に入る位置にいる事が鈴奈は気になっていた。特に視線が合うと言う事はないものの、会話を盗み聞きされているんじゃないかと言う不安が常に付きまとう。

 静流も弓月も気にしていない風だったので、鈴奈も顔をブンブンと振って余計な疑念を払拭した。


「今日のケガレは楽な相手だといいな」

「そこだよ。ケガレは日々どんどん強くなっている。油断は出来ない」

「せめて足手まといにならないよう、鍛錬はしてるけどね」

「流石だね。僕も負けてられないな」

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