第18話 巨大ムカデケガレ

 その後も会話は続き、静流がリードして鈴奈と美咲はその都度適当に相槌を打つばかり。弓月は基本そのやり取りを黙って見守ると言うポジションだった。


「じゃあ、私は部活があるから」


 放課後、美咲は元気よく手を振って音楽室に向かって歩いていく。最近コーラス部に入ったのだとか。部員が辞めてヘルプで参加したらハマったらしい。そんな訳で、放課後ソロになってケガレ退治に勤しむようになった鈴奈を訝しむ人は誰もいない。

 鈴奈達が靴を履き替えて校舎を出たところで、静流が並んで歩く2人に向けてウィンクする。


「じゃあ、僕らも街を守る部活に行こっか」

「今日もケガレは出るとは……」

「ほら、お迎えが来てるじゃないか」


 静流の指さした先にラアサがちょこんと待機していた。今日もケガレ退治が始まる。


「行くよ! みんな!」


 静流の声に、鈴奈達も駆け出した。ラアサはケガレを結界に閉じ込めているはずだから別に急ぐ事はないはずなのに、体育会系のノリ逆らえなかったのだ。


「ラアサ、今日のケガレも複数なのかい?」

「違うわ。でもすごく大きいの! パワーも桁違いだから協力して倒して欲しいの」

「任せてくれ。僕らが揃えば大丈夫さ」


 静流は変身前でも体力オバケで1人で先行する。鈴菜と弓月は同じくらいのペースで彼女を追っていた。


「静流ちゃん、流石修行をしていたって言うだけあるね」

「前からフィジカルお化けだったよ」

「弓月ちゃんは以前からの知り合いだっけ?」


 この質問に、弓月は静流との出会いの話を軽く語る。最初の出会いは、初めてのケガレ戦で全く銃が当たらなかったピンチ時の時だったのだとか。


「その時、静流が一瞬でケガレを倒したの。私、見とれちゃった」

「私と弓月ちゃんの最初の出会いみたいだね」

「そうね。同じ事を繰り返しちゃってるかも」


 ここで2人は微笑み合う。和やかな雰囲気が作られる中、鈴奈達も亜空間結界に突入。ラアサの言う巨大ケガレが見えてきた。2人の視線の先では、既に静流が魔法少女に変身して刀を振るっている。

 そんな彼女の相手は、全長が10メートルはあろうかと言う大ムカデだった。


「「キッモーイ!」」


 ムカデは大きいだけでなく、その造形も実にリアル。実在する生き物をそのまま大きくしただけなのに、クリーチャー感がエグかった。普段そこまでムカデをリアルに見つめる事のない少女2人は失神しそうになる。

 特に、お化け系が苦手な弓月は強烈な拒否反応を起こした。


「む、ムリムリムリムリー!」

「お、来たね。2人も早く変身して。コイツすっごい硬いんだ」


 怖すぎて逃げようとした弓月の退路に静流が着地する。逃げ場を失って焦る弓月の目に映る静流の爽やかスマイル。頼りにされている事を自覚した弓月は勢い良く振り返り、まだムカデケガレを受け入れきれていない鈴奈に檄を飛ばす。


「鈴奈、変身よ!」

「は、はいっ!」


 こうして2人も変身して迫りくる巨大ムカデケガレに向き合った。ベースがムカデなのもあってその動きは俊敏。一瞬で距離を詰められたのもあって、3人はそれぞれバラバラに回避する。

 高く跳躍した鈴奈は、一番戦闘経験が豊富そうな静流の方に顔を向けた。


「作戦は?」

「ないよ! それぞれ攻撃してみて! それから考えよう!」


 その答えを聞いた鈴奈はノープランな事に軽く失望する。しかしそれも当然の話。静流はまだ鈴奈の戦い方を知らないのだから。指示がないならと、鈴奈は自分でバトルプランを考える。そこで、誰かが攻撃をした隙に別方向から攻撃すると言う作戦を思いついた。物理攻撃がメインの彼女ならではの、リスク回避を重視したスタイルだ。

 一方、初撃が不発に終わったムカデケガレは戦うべき相手が3人に増えた事で最初に潰す相手を見極めている。しかし所詮は節足動物。自分に一番近い相手に狙いを定めた。


 それは、今にも斬りかかろうとしていた静流だ。このバトルで積極的に動いているのは彼女だけ。メイン武器が刀と言うのも接近せざるを得ない理由のひとつだろう。

 静流は、ムカデケガレが自分を標的にする事を承知の上で刀を振りかぶった。


「自己流剣技、破魔一閃!」


 彼女は刀を斬り上げる。魔力を纏った刀身がケガレに体の接触して仰け反らせた。攻撃をキャンセルこそさせたものの、その硬質な体は無傷なままだ。


「あれで通らないか」


 この時、仰け反った事でムカデの腹の部分が正面に現れる。そのタイミングを狙って、弓月が引き金を引いた。一撃では倒せないと踏んで、撃てる限りの連射だ。短時間で何度も発射された魔法の銃弾は正確にムカデケガレの腹部にヒットした。


「これでおしまいよっ!」

「やった!」


 一連の流れを見ていた鈴奈は弓月の攻撃で倒せたと思い、構えも取らずに傍観者になる。しかし、十数発の攻撃を受けてなお、ムカデケガレは健在。怒り狂ったムカデケガレは弓月を攻撃対象に選び、噛みつこうと頭部を伸ばしてきた。

 ものすごい速さで凶悪なムカデの頭部が迫る。気が動転した弓月は体を硬直させた。


「きゃーっ!」


 ムカデアタックによって激しい衝突音が轟き、地面が大きく抉られる。最悪を想定した鈴奈は思わず顔を手で覆った。その時発生した土埃が消え去った時、そこに犠牲者の姿はなかった。


「えっ?」

(鈴奈、僕達は無事だ)


 心の声が聞こえてその方向に視線を向けると、結月をお姫様抱っこした静流が離れたビルの上に着地しているのが見えた。

 無事が確認出来たところで、鈴奈は今度は自分の番だと覚悟を決める。


「ハァーッ……」


 彼女は波動拳を打つ要領で氣を溜める。しかし、それは放つためではない。体中に氣……と言うか魔力を充満させ、肉体の潜在力を極限にまで高めているのだ。

 完全に充填したところで、鈴奈は一気に間合いを詰める。そうして、素早くムカデケガレの真下に滑り込むと、右拳に魔力を一点集中させて打ち出した。


「超絶マジカルアッパーッ!」


 その一撃を受けたムカデケガレの体は上空100メートルほどにまで吹っ飛ぶ。流石にいつものケガレのように一撃でこのエリアから吹き飛ばすほどの威力はなかったものの、全長10メートル級の大質量をここまで飛ばせると言うのはとんでもない破壊力だ。

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