第5話 前世と現世、そして未来

───アステリオン王国の六年後。


『陛下、神聖レクサンド帝国の襲撃でございます』


僕と父上がいる玉座の間に全身傷だらけの騎士グレイが片膝を突いて畏まると、彼の鬼気迫る声が轟いた。


『なんだと⁉ 奴等の主力は国境地点に集まっていたのではないのか⁉』


父上が玉座から立ち上がって、目を見開いた。


『どうやら城内に手引きした者がいるらしく、大量の魔獣と敵兵が続々と入り込んでおります。主力が国境に向かった隙を突いての襲撃、もはや城が攻め落とされるのも時間の問題でしょう』


『おのれ、レクサンドめ。天光衆を国教としてからきな臭さが増していたが、まさかこのような動きをしてくるとはな。してやられたわ』


苦虫を噛みつぶしたように吐き捨てると、父上は真顔でグレイを見やった。


『グレイ、お前はアテムと共に隠し通路を使って城外に出て、レオーラ王国に落ち延びるのだ』


『……⁉ いやです。父上、僕も、いえ私も戦います。父上や母上、妹のアルテナ。そして、国と国民を見捨ててまで生き延びたいとは思いません』


『ならぬ、レクサンドの狙いは三女神と縁の深い者や国だという。奴等の真の目的はわからんが、三女神の次女イナンナ様から剣を賜り、守護を任されたアステリオンの血を絶やしてはならん』


『そ、そんな……⁉ それなら妹のアルテナもそうでございましょう』


『案ずるな、アルテナの傍にはお前達の母ミリーナがおるのだぞ。必ずお前の後を追わせる。今は逃げるのだ』


『し、しかし……⁉』


僕が食い下がると、兵士達の断末魔が廊下から轟いて玉座の間の扉が吹き飛んだ。


『はっはは、やはりここだったか』


高笑いと共に姿を見せたのは二本足で立ち、返り血に染まった全身鎧を身に纏い大きな盾と剣を持った竜人だ。


『異教徒の王オルガ・アステリオン、我らの神ペルグルス様の下に送ってくれようぞ』


『もう時間が無い。アテム、これは王命だ。生きろ、生き延びるのだ』


『父上……。わかりました。ですが、必ず生きて会いましょう』


『あぁ、もちろんだ。必ずまた会おう。しかし、何があっても振り返ってはならんぞ』


父上が力強く発したその時、竜人が大笑いをして怒号を発した。


『馬鹿な畜生共が。この神将アルヴィン・ゴート様を前に逃げられると本気で思っているのか。一息で消し炭にしてくれるわ』


アルヴィンの胸が大きく膨らんだ次の瞬間、彼の口から紅蓮の息吹が放たれる。


目の前に真っ赤な炎が迫るなか、父上は帯剣を抜いて紅蓮の息吹を切り消した。


『ほう、やるではないか。どうやら御輿の王ではないらしい』


息吹を消されたアルヴィンは動じておらず、むしろ不敵に口元を緩めている。


『神将だか何だか知らんが、王に向かって臭い息を吐きつけるとは無礼千万。私自ら、極刑を下してやろう』


『ほざいたな。やれるものならやってみるがいい』


『あぁ、やってみせるとも』


神将アルヴィンと父上は互いに間合いを詰め、凄まじい剣戟を開始する。


玉座の間に鋭い金属音が鳴り響くなか、父上はこちらをちらりと見やった。


『グレイ、息子を任せたぞ』


『父上……⁉』


『行きましょう、アテム様。陛下の覚悟を無下にしてはなりませぬ』


グレイが僕の手を掴んだ瞬間、アルヴィンがにやりと笑って剣を大きく振りかぶった。


『王よ。俺様との戦いでよそ見をするとは、命取りだぞ』


『この程度が命取り、だと。私を甘く見ているのは貴様だ』


父上はアルヴィンが振り下ろした斬撃を真っ正面から受けると、逆に押し返して吹き飛ばした。


『ぬぉおおおおお!』


『俺様が力負け、だと⁉ うぐぉおおおお⁉』


アルヴィンが玉座の間の外に吹き飛ばされたその時、父上の声が轟いた。


『アテム、生きるのだ』


『ぐ……⁉』


僕は断腸の思いで、玉座の間に用意されていた隠し通路を使ってグレイと共に城を脱出した。


だけど、父上や母上。


妹のアルテナとも再会は叶わず、アステリオン王国はその日を以て滅んでしまったのだ。


でも、悲しむ時間はなかった。


追っ手に付け狙われながら、やっとの思いでグレイと共にレオーラ王国に辿り着いた矢先、レクサンドの軍勢がレオーラ王国にも攻め込んできたからだ。


この戦いで僕とレオーラ王国の王女を逃がすため、グレイは囮となって今生の別れとなってしまった。


それから数年後、僕は思いがけない形でアルテナとの再会を果たすことになった。


アステリオン王国を滅ぼした元凶かつ、世界支配を目論む神のペルグルスを伐つため居城に乗り込んだ際、何度もアテム達の行く手を阻んできた敵将『アルテミス』『イッシュ』『ソル』という面々と決着をつけたのだ。


ところが倒してみると『イッシュ』はミリーナ、『ソル』はオルガの亡骸に悪霊を吹き込んだものだった。


『父上、母上⁉ まさかこのような形でお二人に会うことになるなんて……』


アルテミスに至ってはアステリオン王国が滅んだ際、敵兵に拐かされてペルグルスの洗脳を受けたアルテナだったのだ。


激しい戦いの中でアルテミスの洗脳は解け、アルテナは正気を取り戻す。


しかしその直後、隠れていた別の敵将が僕の妻子を狙って魔法を放った。


『油断したな、アテム。ペルグルス様を脅かすその血筋ごと、消えてしまえ』


『……⁉ そんなことさせるものですか』


アルテナは咄嗟に身を投げ出し、自らを盾にして僕の妻子を守ってくれたのだ。


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◇あとがき◇

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