第三十七話 天文二年、海を越える
小弓公方に里見実堯の内通が露見して逃走すると、幻庵と北条為昌が挙兵した。彼らは八千の兵を率いて次々に城を攻略し、瞬く間に里見義豊を追い詰めてゆく。
強力な主力部隊が敵をすり潰し、逃げる敵兵を第一・第二中隊が高速移動で削り取った。稲村城まであと四キロという地点で、ついに義豊は討ち死にしたのだ。
その頃、俺は小型発電機の成功を受けて、次にダム建築の準備を進めていた。当面のエネルギーとしてそれを使用する。また、温泉地熱を利用した地熱発電も計画しているところだった。近くの山中には研究所を作り、化学と薬品の研究を予定している。
町では病院を建設し、内科と外科も手掛けて、従来の漢方と西洋薬を複合して研究を重ねていた。特に外科は力を入れるべき分野だ。戦のある時代だからこそ、怪我人が多く、その必要性は高かった。
薬としては、痛み止めや化膿止め、抗生物質、そして外科手術用に麻酔なども開発した。間違った民間医療ではなく、安全な医療の知識を広めるために、町薬局と病院が広報も兼ねてリーフレットを配布したり、新聞などに告知を載せている。
ちなみに相模新聞は、最近販売を開始したばかりだが、領内外の出来事を大袈裟にプロパガンダしていた。スポーツ新聞のような構成が受けているらしく、告知した内容が口コミで伝わっているようだった。医療のことも、新店舗情報なども様々だ。
目ざとい商人は「店の宣伝をしてくれ」と、懇願してくる始末で、俺は広告料を高く取るように指示を出していた。
ただ、医師や看護師の人材確保は困難だったものの、十年目にして武士や寺社関係以外からの人材が育ち、北条領の医療は充実を極めていた。中でも一番充実しているのが、軍の医療部隊だった。
最近では、怪我をして治療を受け、特に欠損で義足・義手の必要な者でも、専用の技師を育成してリハビリ病棟で社会復帰を目指している。もう数年で、掴むことができる義手が出来上がるだろうと思う。
第二回北米資源調査隊の葛山氏広が戻ってきた。今回は、カリフォルニア州のトングヴァ族やアリゾナ州のホピ族、ニューメキシコ州のプエブロ族の代表団三十名と会談した。それとは別に、パナマのエンベラ族やノベ・ブグレ族の代表団三十名とも面談を済ませた……。
問題点と今後の提案を提示した。問題点は敵対部族への対応だ。ある意味、文化は違うが、日の本と同じような状況だった。風土病の問題、水や食料の問題、その他諸々。提案としては、水を含む農業関連と資源採掘、労働力の協力、そしてこれから起きるであろう侵略者への対応などだ。
敵対部族に対しては問題なく支援できるし、各部族で軍も編成して対抗していく予定だ。風土病も、今の北条の医療レベルで全て解決できるだろう。
河川工事と農業に関しては問題ない。資源採掘と生産工場経営に関しても、彼らは理解を示してくれた。
互いが合意の書面を交わし、半数はそのまま滞在し、残りの半数は帰路についた。今回、新大陸への定住人員を増やした各部族の定住許可が下り、カリフォルニアに二百名、アリゾナに百名、ニューメキシコに百名が向かうことになった。砦と住居を建設し、数十年後には部族の国が西洋人(スペイン)の植民地支配に対抗するための備えとする。
間もなく接触があるはずだ。一番危険なのは伝染病だろう。奴らは戦わずして病気を広め、今いる人材を滅ぼしていったからな……。
別件のパナマには、スペインが既に接触している。彼らが侵略されないように、バックアップする予定だ。伝染病の予防と治療を施し、「無駄に命を無くさない」と説得し、今回の面談に至ったのだ。軍を駐屯させて防衛に努め、スペイン軍は必ず侵略してくるだろうから、その時は撃退する約束をした。
一方国内では、北条の周囲から移民が大勢やって来るし、領内の人口も爆上がりだった。北米や釧路は実入りが良く、短期間で一財産築けるのが魅力だ。移民や領民の募集をすれば、即座に定員に達する。この分だと、オーストラリアの募集も検討しなければなるまい。
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