電気売りのエレン

クレーン謙

episode I Elen

第一話 電気の実

やあ、僕の名前はエレン。

このあいだ10歳になったばかりだ。

そうだね、家族構成も言おうか?

もうすぐで7歳になる妹が一人いて、名前はレーチェルっていう。

あと、お母さんが居る。

お父さんは、亡くなっていて居ない。


僕らはお母さんと三人で、『とどろき山』と言う標高6500フィートある山のふもとの、小さな小さな村に住んでいる。

空気も水も綺麗だし、自然も豊かなので、とても良い所なんだぜ。

──でも、村はあまりにも小さいので、もしかしたら地図にも載っていないんじゃないかな?

ただ、お母さんは胸の病気を患っていて、ほとんど寝たきりだ。

この辺じゃよくある病気で、町の医者に診てもらうには大金がいる。

だから僕が働いている。

妹はまだ幼いから、まだ働けないんだ(まあ、たまには手伝ってくれるけどね)。


……ん? なんの仕事をしているかって?

ここから10マイルほど離れた『城壁の町』まで行って、そこで電気を売っているのさ──僕は町では『電気売りのエレン』って呼ばれている。

とにかく町の人々は、驚くほどたくさん電気を使う。

でもね、町では電気が出来ないだろ?


電気がどこで採れるか、知っているかい?

もし知らないんだったら、教えてあげよう。

──電気はここら辺りでは、主に高い山とかで採れるんだ。

僕はとどろき山まで登り、そこで『電気の実』を収穫している。


電気の実は、まだ太陽が昇る前の朝早くにしか採れない。

僕は毎朝、太陽が昇る前に、空に星がまだ瞬いているうちに、とどろき山を登り、闇夜に光る果実を見つけ出して、それらを収穫をしているんだ。



どのように収穫しているかと言うと……。

電気の実はツル性の植物で、人目の付かない山奥深くに群生している。

闇夜の中で光る果実を見つけたならば、まずは短剣などの鋭利な刃物を果実のヘタの部分に押し当てて、そして素早くツルから切り離すんだ。

これがなかなか、熟練の技が必要でね。あまりゆっくりやると、切り口から電気が溢れ出してしまう。

もちろん気をつけないと、溢れ出た電気で感電したりする。

実際の所、毎年のように感電死する電気売りが後を絶たないんだ。


収穫が終わるとそしてだね。

僕は『電気の実』を馬車に乗せて、城壁の町へ行き、新鮮な電気の実を人々に売る、それが僕の日々の日課という訳さ。

そう、新鮮でないと、市場でいい値が付かないんだよ。

──こんな毎日を過ごしているので、僕は学校にも行けてないから、残念ながら字の読み書きはできない。

そのかわりに、レーチェルには学校に行ってもらっている。


レーチェルには、僕みたいに収穫者にはなってほくないからね。

果実の収穫は手に火傷もするし、時には感電で死に至るし、決して安全な仕事とは言えない。

勉強をして、大人になったら、いい仕事に就いてほしい──あ、とは言っても、僕はこの仕事にとても誇りを持っている。

僕のお父さんも、腕のいい収穫者だった。村一番の腕前だったんだ。

でも、そんなお父さんが、とどろき山に収穫に行った時に、雷にうたれて死んでしまった。

──僕は今でも、お父さんが雷に当たって死んでしまっただなんて、信じられない。

お父さんは、誰よりも落雷から身を守る術を熟知していた筈なのに……。


──とどろき山は、毎日のように雷が落ちる事で有名だ。

電気の実は、山に落ちる雷を栄養分としている。だから、雷が落ちない所では電気を貯えた実が結ばない。


さて、ここからが本題なんだけど、どうした訳か、この年はとどろき山に、あまり雷が落ちなかった。

この所、もう十日も落雷がない日が続いている。

果実の収穫が減ったので、僕も村人達も困り果てていた。村には僕と同じような収穫者が多く住んでいる。

──僕たちや僕たちのご先祖さまは、この山で採れる電気の実を生活の糧とする生活を送ってきた。

しかし、山の落雷が減った為、果実の収穫量が徐々に徐々に減ってきていた。

電気が採れないので、止む無く町まで出稼ぎに行ってしまう村人も出始めていた。


でも僕は読み書きもできないものだから、多分町に行っても仕事なんか貰えないだろう。

僕は果実を求め、今まで人が分け入らなかった山の奥地へ奥地へと向かうしかなかった。

頑張ってはいるつもりだけど、やはり、それでも日に日に山で収穫できる電気の実が減っているのが明らかだった。

自然の原理には逆らえない、と言う事だ。


──そんなある日、僕は村の爺さんから『電気ウナギ』の話を聞いた。

電気ウナギは、とどろき山に流れる川の川底に住んでいて、雷を食料とする事なく、自らの体内で電気を作る事ができるらしい。

その体の中には電気の実の何倍もの電気が蓄えらえている、と爺さんは言った。

──そういえば、電気ウナギの話は、昔お父さんからも聞いた事がある。


電気ウナギはとても獰猛でしかも知恵が働き、動物だけではなく、時には人間も食べてしまうらしい。

何人もの収穫者が、電気ウナギを捕まえようとしたが、逆に電気ウナギの電気にあてられ、命を落としたという。


日に日に電気の実を見つけるのが難しくなってきたので、無鉄砲だと思いつつ、僕は電気ウナギを捕まえる計画をたてはじめた。

色々と考えた末に、僕は家の納屋で『電気の実』のツルで電気ウナギを捕まえる為の大きな網を編み始めた。これならば、少々強い電気をあてても、破る事ができないだろう、と考えたんだ(愚か、だとか言わないで欲しい。僕はまだ10歳の子供に過ぎないんだから)。


さて、網を作り終え、お母さんには内緒で、電気ウナギを捕まえる為、山へ向かう事にした。

初夏のこの時期、電気ウナギは比較的おとなしい、と村人に聞いたからだ(その情報が正しい事を僕は願った)。


──太陽が昇る三時間前に僕は目を覚まし、お母さんに気がつかれないように寝床から起きだし納屋へと向かい、短剣を取り出して、とどろき山でとれた砥石をあてて、音がしないようにして研ぎ始めた。

あ、この短剣は亡くなったお父さんの自慢の短剣だ。

お父さんが亡くなった後、僕はこの短剣を引き取り、これを使って電気の実を収穫している。

お父さんが「いいかエレン、この短剣はな、電気も切る事ができるんだぞ」と言っていた。


──暗い納屋の中で、汗を垂らしながら短剣を研いでいると、何やら気配がしたので、ん?と思い手を止め、後ろをふと振り返ると寝巻き姿のレーチェルがふてくされた顔をして立っていた……レーチェルは幼いのに、妙にカンが良いところがある。

驚いた僕がレーチェルに何かを言おうとすると、先にレーチェルが口を開き、言った。


「お兄ちゃん、山へ電気ウナギを捕まえに行くんでしょ? あたし村で、お兄ちゃんが電気ウナギの話をしているのを聞いたんだから! あたしも行く!」


「レーチェル、しーっ、しーっ、静かに!……声を出すと、お母さんが起きてしまうだろ? いやいや、ダメだよ。ダメ、ダメ。絶対にダメ。今回の仕事はね、とてもとても危ないんだから」


「イヤ! あたしも手伝うの!あたしもいく! あたしもいくー!」


「分かった分かった。分かったから、もう大きな声を出さないでくれ。……今回は連れて行くけど、でもね、いいかい、僕の言う事を聞かなきゃダメだぞ」


しかたがないので、僕はレーチェルも連れていく事にした。

あ〜あ、あとでお母さんにバレたら、雷のように怒られるだろうな、きっと……。


僕はレーチェルを電気が当たっても大丈夫な服へと着替えさせ、腰袋に研いだ短剣をしまい、お母さんが起きないように、そーっと静かに扉を開け家を出て、電気の実のツルで作った網を背中に担いでとどろき山へと向かった。

いざ、電気ウナギを捕まえに。

 

――――続く

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