うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内(しずない)@救済のダークフルード

第1話 デレがすぎる幼馴染は、今日も俺をダメにする💖

 チャイムが鳴り、昼休みが始まった瞬間。俺のクラスは一気に騒がしくなる。その騒音の中、悠太の隣、本来は通路であるはずの空間に、一人の美少女が当然のように陣取った。


「ゆーた、お待たせ! 今日も一緒に食べよ!」


 白石葵。俺の隣の席。そして、俺の心臓の平和を脅かす張本人だ。かわいさを前面に表現するようなかわいい顔つき。

 透けるような綺麗な黒髪。その光沢のある髪の毛が、微かにシャンプーのいい匂いを運んでくる。複雑なアレンジはせず、肩にかかる長さをシンプルにまとめてある。その飾り気のないスタイルが、かえって彼女の顔立ちの完璧さを際立たせていた。


 その瞳は、少し赤みがかったヘーゼルカラー、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。そして、その視線はただ一点、完全に悠太にロックオンされていた。

 彼女は、自身の机を俺の机にピタリとくっつけ、もはや一つのテーブルのようにしてしまう。そして、自慢げに二段重ねの弁当箱を取り出した。


「じゃーん! 見て、今日の渾身の自信作!」


 葵が蓋を開けると、色鮮やかな弁当の中身が目に飛び込んできた。


 弁当箱の約半分を占めているのは、完璧な焼き色のハート型ハンバーグだ。その上にかけられたデミグラスソースも、ツヤツヤと輝いている。付け合わせのブロッコリーや、ウサギの形に切られたリンゴまで、一つ一つが芸術品のように可愛い。


「おい、マジかよ、ハート型ハンバーグ……」


 前の席で、親友のタケルが顔を青ざめさせる。タケルの弁当は、母親が作ったであろう、無骨な卵焼きとシャケの切り身だ。


「当たり前でしょ、タケルくん? ゆーたへの愛情は、こういう目に見える形にしないとね!」


 葵はそう言って、瞳を俺に向け、いたずらっぽくウインクをした。


(やめろ! その瞳で上目遣いをするな! 周囲の生徒の殺気が増してるだろ!)


 俺は心の中で絶叫する。彼女は、自分の容姿が持つ破壊力を、全く理解していない。


 葵の髪は、朝の登校で少し乱れたのか、髪の毛先が、肩から少しこぼれていて、それが彼女の白い首筋に触れている。この距離だと、シャンプーの甘い香りが、ハンバーグの匂いと混ざり合って、俺の食欲と理性をかき乱す。


「さあ、ゆーた! まずは一口、愛情がたっぷり詰まったハンバーグをどうぞ!」


 葵は箸で、例のハート型ハンバーグを丁寧に掴み、俺の口元に運んでくる。


「いや、自分で食えるって。ほら」


 俺が自力で箸を伸ばそうとするも、葵はそれを許さない。


「だーめ! 今日は葵が頑張ったんだから、ご褒美にあーんさせてよ! ね?」


 唇を尖らせて、懇願するような仕草。その可愛らしさの前では、俺の『家族愛フィルター』は、もはや形骸化していた。


(チクショウ……こんな場所で、この美少女の『あーん』を断れる男子が、このクラスにいるわけないだろ!)


 俺は観念して、大きく口を開けた。ハンバーグが口の中に滑り込む。肉汁とデミグラスソースの濃厚な甘みが広がり、思わず「うまっ」と声が漏れた。


 その瞬間、葵の顔がパッと輝き、満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、太陽の光を集めたように眩しく、まるで春に一斉に咲き誇る桜のように可憐だ。


「ふふ、よかった! やっぱりゆーたが『美味しい!』って言ってくれるのが、葵にとって一番のご褒美!」


「ゆーたが美味しいって言ったから、葵も食べるね!」


 そう言って、彼女は俺が食べたハンバーグの同じところを、自分の箸でつまんでパクリと食べた。


(今、間接キスだよな!? しかも、俺が食べた場所を、躊躇なく……!)


 俺の頬が熱くなるのを感じた。これが、俺たちが長年培ってきた「幼馴染」という名の関係性だ。彼女にとっては、これは息を吸うのと同じくらい自然な、愛の行為なのだ。


「葵……お前、周りの目を気にしろよ」


 俺は小さな声で呟く。


「え? なんで? 別に悪いことしてないもん」


 葵は首をかしげた。その仕草すら、俺には計算され尽くしたあざとさに見える。いや、彼女の場合は、本能的な可愛さなのだろう。


「ゆーたは、私のたった一人の運命の相手なんだから、周りの人に優越感を見せつけて何が悪いの?」


 そう言って、葵は俺の右腕に、そっと自分の頬をすり寄せてきた。


「それに、ゆーたの体温が一番近くで感じられるのは、葵だけの特権だもん」


(特権……だと? お前、それ、恋人の台詞だぞ!)


 俺の脳裏に、数々のラブコメ漫画のシーンがフラッシュバックする。しかし、現実のこの状況は、漫画よりも遥かに破壊力があった。


 俺は、弁当箱の中身を平らげながら、必死で自分に言い聞かせた。


 大丈夫だ、相沢悠太。これは家族愛だ。


 葵は、妹のように俺を慕っているだけだ。

 この距離感は、幼馴染という名の特例だ。


 しかし、目の前で嬉しそうに微笑む、かわいらしい規格外の美少女を見ていると、そのフィルターが、ガラスの破片のように砕け散りそうになるのを止められなかった。


「ふふ、今日のゆーた、いつもよりちょっと顔が赤いね?」


 葵が俺の顔を覗き込む。


「熱でもあるんじゃない?」


 その心配そうなヘーゼルカラーの瞳に、俺はもう逃げられない。


「うるせぇ。お前が変なことばっかするからだろ」


 俺が素っ気なく返すと、葵は嬉しそうに目を細めた。


「そっか! じゃあ、もっともっと変なことして、ゆーたをメロメロにしちゃう!」


(待て、それはヤバい!俺の理性が、本当に限界だ……!)


 こうして、俺の高校生活の昼休みは、今日も幼馴染の過剰で甘すぎる愛情によって、完全に支配されて終わった。




☆   ☆   ☆


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