第7話 彼女との距離

学校に着くと、すぐに自分の席に向かって座りました。

そうすると隣の席に座っている美月が話しかけてくるのです。

「おはよう莉桜花」

その言葉を聞いて咄嵯に返事をしますが、どうしても顔が見れません。

先ほどのことを思い出してしまいそうで怖かったのです。

そんな私を見透かしたかのようにクスリと笑われてしまいました。

「どうしたの?」

その言葉にビクッと反応してしまいました。

(なんで分かるの!?)

そんなことを考えているうちに放課後になっていました。

部活の練習があるということで、体育館に向かう途中でまた呼び止められてしまうのでした。

「ねぇ莉桜花」

突然名前を呼ばれて振り返ると、そこにはいつの間にか美月が立っていたのです。

「今日も一緒に帰ろうね」

そう言うと微笑んで去って行きました。

そんな彼女を見送った後に私も準備をするために歩き始めました。

(あれ? 何か忘れているような気がするけどまあいっか)

そう思い直して体育館に向かいました。

(そう言えば、部活終わりに会いたいって言われてたんだったっけ……でも何の用だろう?)

そんな疑問を持ちながらも練習に励んでいたのですが、なかなか集中することが出来ませんでした。

そして、練習が終わる時間が近づいてきたところで事件は起こったのでした。

(あれ? 何か忘れてる気がするけどまあいいや)

そう思って着替えをしている時に、突然背後から抱きつかれました。

驚いて振り返ろうとすると耳元で囁かれたのです。

「捕まえたぁ〜」

その声を聴いた瞬間血の気が引くような感覚に襲われました。

(えっ嘘でしょ? まさか……)

恐る恐る視線を移動させると、そこには笑顔で微笑んでいる美月の姿があったのでした。

「やっと見つけたぁ〜」

そんな言葉と共に拘束されてしまいます。

振り解こうとしても、強い力で抑え込まれているため身動きが取れません。

そんな状況に恐怖を感じ始めた、その時でした。

突然耳元で囁かれるのです。

「キスしたいなぁ」

その言葉を聞いて、全身が凍りつきそうになりました。

どうすれば良いのか、分からず混乱してしまいます。

(どうしようどうしようどうしよう)

頭の中が真っ白になり、何も考えることが出来なくなっていた時、不意に名前を呼ばれたのです。

「莉桜花って呼んでみてほしいなぁ」

(え? 何で知ってるの!?)

驚きのあまり固まっていると再び声が聞こえてきました。

「教えてあげるよ」

その言葉に聞き覚えがありました。

(これって夢と同じだ)

そう思った瞬間、全てを悟った気がしたのです。

このままではいけないと本能的に感じました。

そこで、逃げようと試みるのですが、うまく体が動かせません。

その隙を突かれて床の上に押し倒されてしまうのでした。

「ほらぁ、キスするけど、いいよね?」

そう言うと彼女はゆっくりと顔を近づけてきます。

「まって!!」

反射的に叫ぶと、ピタリと動きが止まりました。

「どうして?」

不思議そうに首を傾げる彼女に対して、私は必死に訴えかけるのです。

「だって、美月が好きなのは私じゃないもん、だからダメなんだよ……」

その言葉を聞いて悲しげな表情を浮かべる美月を見て胸が締め付けられるような痛みを感じました。

それでも、ここで折れる訳にはいきません。

(例え、嘘をついてでも守らなければならないことがあるはずだから)

そう自分に言い聞かせて覚悟を決めたのですが……次の瞬間、予想外の出来事が起こるのでした。

何故か涙ぐんでいたからです。

(あれ? 私何か間違えた?)

慌てて宥めようとしたのですが、どうやら逆効果だったようです。

ますます泣き出してしまいました。

「やっぱりそうだよね……私が悪いんだ」

そう呟くと俯いてしまうのでした。

(やっちゃった)

そんな事を考えていた時、不意に名前を呼ばれたのです。

「莉桜花って呼んでみてほしいなぁ」

その言葉に心臓が大きく跳ね上がるのを感じました。

(ダメだよこんなの耐えられないよ)

そう思った時でした、不意に名前を呼ばれてハッとなったのです。

「莉桜花?」

その呼び掛けによって正気に戻ることができました。

(あぁ……やってしまった)

罪悪感に苛まれながらも平静を装って答えました。

「何でも無いよ」

そう言うと立ち上がって出口に向かって歩き出すのです。

(大丈夫だよね?)

不安になりながらもドアノブに手をかけた時でした、再び声を掛けられるのです。

「待って」

振り向くとそこには真剣な眼差しで見つめてくる美月の姿がありました。

「少しお話しよう」

そういうと彼女は椅子に座るように促してくるのです。

そして向かい合う形で腰掛けると、ゆっくりと語り始めるのでした。

「私、やっぱり莉桜花のことが好き」

そう告げられた瞬間、世界が停止したような錯覚に陥りました。

頭の中は真っ白になり、何も考えられない状態になったのです。

(え? 今なんて言ったの?)

そう聞き返すこともできずに呆然としていると再び話し始めたのです。

「本当は、伝えようかどうか迷ってたけどやっぱり我慢できなかったみたい」

その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れ出してきました。

止まらなくなって嗚咽混じりになりながらも懸命に堪えようとするのですが、なかなか上手くいかず辛い思いをすることになりました。

そんな様子を見て心配になったのか、背中を擦ってくれる彼女に対して感謝の念を抱くとともに申し訳ない気持ちにもなってしまうのでした。

それから暫くして落ち着いた後、改めて向き合う形になりました。

そうすると今度は私から話しかけることにしたのです。

「ありがとう、聞いてくれて嬉しかったよ」

そう言うと彼女は微笑みかけてくれました。

その笑顔を見た瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われるのですが、同時に安心感を得ることができるようになったのでした。

それはきっと、今まで以上に信頼関係を築けてきた証拠だと思います。

そう確信できたことがとても嬉しかったのです。

(もう迷わないでちゃんと向き合っていこう)

そう決意した瞬間、身体中から力が湧き上がってくるような感覚に襲われました。

それで自信を持つ事ができるようになりました。

その勢いに乗って思い切って誘ってみることにします。

(大丈夫、きっとうまくいくはず)

そんな期待を抱きながら口を開きました。

「ねぇ美月?」

そう呼ぶと彼女はこちらを見てくれました。

その瞳からは、期待と不安が入り混じった感情が読み取ることができるのでした。

そんな彼女に対して私は精一杯の勇気を振り絞って言うことにしました。

「これからも一緒に居てくれる?」

その言葉に、目を輝かせながら何度も頷いてくれます。

それを見た私は、ホッと安堵すると共に喜びを感じることができたのでした。

「こちらこそよろしくね」

そう言って握手を求めると、両手で握り返してくれたのでした。

それがとても嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまいます。

それから暫くの間見つめ合っていたのですが、不意に視線を外されて顔を赤く染め始める彼女の姿が見えました。

どうしたのかと思っていると急に立ち上がり

「用事を思い出した」

と言って走り去ってしまったのです。

それを呆然と見送ることしかできません。

(一体どうしたんだろう)

気にはなるものの、追いかけることもできずに立ち尽くすことになってしまいます。

しかし、不意に携帯電話のバイブレーション機能が作動し始めたので確認してみるとメールが届いていたようで開いてみると相手は美月でした。

『先に帰っててください』

簡潔な文章ではありましたが、状況から察するに何かあったのかもしれないと思い急いで家路につくことにしたのです。

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