あくまで開くまで、あくまで悪魔です。

大石とんぼ

1:あくまで

 ゴゴゴゴゴゴゴッと、魔界へのゲートが悪魔アーク・マクアの目の前で閉じた。


「待ってくれ! 俺はまだここだ、置いて行かないでくれ!!」

 

 数十年ぶりに開いたというのに、何度も叩いてもビクともしない鉄の門。

 貯めた負のエネルギーによって、魔界と現世を繋いだ門の隙間からはエネルギーの残滓が赤いもやとなり、漏れていた。

 うなだれるアークをつけてきた熊の獣人が一人。物陰から現れ……。


「クックックックッくま! ついに、見つけたクマ。さぁ、悪魔様っ! 私めを『悪魔』にするくま!!!」


 …………。


「冗談ならよそでやってくれ」

「冗談じゃないのです! アクーは本気なのです! この日のために、いっぱい悪い事をして来たのです!」


「ほぉ、例えば?」


「ふっふ~ん。悪魔様も聞いて驚くのです! アクーは腰を悪くした近所のおじさんの畑を勝手に耕してやったのです、それで去年盗んだとうもろこしの事は許して貰いました。それに、ドケチで有名なサチコ婆さんの落とした財布を届けて、庭の柿を三つも巻き上げたりもしました。そしてついに先日、嫌いなグリンピースを残さず食べれるようになったのです!」


「……なるほど」


 関わらない方が良い獣人なのは火を見るよりも明らか。

 誰が聞いても悪魔を他の何かと誤解している獣人の娘っ子に、アークは上手く言葉を返すことが出来ずにいた。


「おーい、他に誰かそこに居るのかー?」


「その声は魔王様! イエッ、誰もおりませぬ。アーク・マクア、一人でございます」


 声のした鉄の門へ、急いでひざまずくアーク。


「悪魔様、嘘を言ったらダメなのです! アクーも一緒に居るのです。魔王様ぁー、アクーは悪魔になりたいのです! 入れて欲しいのです」


 アークをよそに、アクーはここぞとばかりに魔王へ直訴した。


「お前は黙ってろ、獣人」


「おぉ、入界希望者とは珍しい。まあいい。開門を早めるには、飽くまで悪魔として振る舞う事と聞く。せっかくだアーク、そこの獣人と共に人々に苦痛を与え、負のエネルギーを集めるのじゃ!」


「はッ! 仰せのままに」


 そして、門の隙間から溢れていた残滓は消えるのだった。


「あくまで門が開くまでだからなクマ子」

「アクーにかかれば、負のエネルギーを集めるなんて鬼に金棒、一寸法師にまち針、花咲か爺さんに打ち出の小槌クマ」

「いや、打ち出の小槌は一寸法師だろ。それだと花咲か爺さんに取られてんじゃねぇか。あと、語尾を『くま』か『です』のどちらかにしろ。焦ってることがもろバレだぞ」

「アーク様は小さいことを気にし過ぎくま。だから眷属けんぞくの一人も居ないのです。まッ、アクーが眷属になってあげても…………。ちょっと置いて行かないでくださいアーク様――――ッ!」


 足早に門を後にするアークを彼女は追いかけた。

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