倦怠感

「おはよー、6時だよ」


カーテンが一気に開けられて、

まぶしい朝の光が部屋に流れ込む。

私は目覚まし時計では起きられないから、毎朝ママが起こしに来てくれる。

「早くしないと遅れるよ」

「…」

乗り気ではない体を起こす。

机の上に、昨夜見つけた小さな木の箱がそのまま置かれていた。


あれは夢じゃない。

なんで得体の知れないもの持って帰ってきちゃったかなぁ、、、、

後悔が大きいが、なぜかあの箱から目が離せない。とっても気になる。

でも、もう気にしてる時間はない。

制服を着て、髪を整えて、ほんのりメイク。

“自分”を作ってから家を出た。


バスの中。

窓の外を流れる街並みをぼんやり見ていると、

車内に流れる会話の声が、妙に遠く感じた。

“今日も同じ朝。

同じバス、同じ友達、同じ景色。”

なのに、どこか全部、白黒に見える。


「おはよー!」

「一華、昨日グループ通話入らなかったでしょ? うちら待ってたんだけど!」

教室に入った瞬間、いつものように友達が寄ってくる。

「ごめん、寝てた」

嘘、寝てない、起きてた

ただ単に、めんどくさくなっただけ


「一華、今日帰りプリ撮ろー!」

「えー、また笑?もう何回目〜?」

「いいじゃん、楽しいし!」

一華は笑いながら答えた。

「……てか、なんか最近、全部だるくない?」

一瞬、空気が止まる。

友達が「何それ〜!」って笑ってくれる。

でもその笑い声の中に、

“え、一華どうしたの?”っていう小さな不安が混ざってた。

「や、冗談だって〜」

そう言ってまた笑う。

だけど笑えば笑うほど、心の奥が冷えていく気がする。

そのとき、ふと視線の先で紗良が本を読んでいる。

前の席。

彼女の背中はいつも通りまっすぐで、

どこか別世界の人みたいに静か。

(俳優の子が同じクラスにいるって、

なんか現実味ないよね……)

紗良は一華の視線に気づいたように顔を上げる。

でも、すぐに目を逸らした。

その一瞬に、一華は“空っぽ”と思った。

笑ってても、


放課後。

バスに乗ってカーテンの隙間から外を見ると、

夕暮れの風が街を撫でていた。


“カラン”——。


カバンの中から響く、小さな音。

なぜか手放せなくて箱を持ってきていた。

まさかね、と思いながら箱を開ける。

中には、白い花びらが一枚。

昨日の夜見たスズランと、同じ色だった。

指先でそっと触れる。

ほんの一瞬、胸の奥が温かくなる。

何が変わったのか、まだわからない。

でも、


昨日までの“いつも通り”には、もう戻らない、そんな気がした。

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