「旧神ヒロインが僕の全行動を求愛と誤解した結果、世界が滅亡の危機に瀕している件」②〜グレート・オールド・ワン絶対殺すウーマン登場〜

NOFKI&NOFU

日常に潜む混沌、そして新たな旅立ち

第13話 冒涜的な日常スタート

・放課後・職員室


夕焼けが校舎の窓を赤く染め、一日の終わりを告げていた。

真上理人は、昼間の「愛と秩序の公開授業」で削られたSAN値を回復するため、机に向かって静かにコーヒーをすする。


しかし、教師の日常に静寂は似合わない。

この休息はせいぜい五秒しかもたない。


理人の視界には、いつものように半透明の警告UIがちらついていた。



>>>【ノア=エル(愛の暴走)】

      抑制率 70%(武具)+ 20%(教師の威厳)

      = 計 90%


>>>【アイオネ(秩序の強制デリート)】

      警戒度 常時MAX(理人への評価中)



「……九割抑えても、

 残り一割で世界が滅ぶのがこのクソゲーの恐ろしいところだな」


深く溜息をついた、その瞬間。

静寂を切り裂くように――職員室のドアが、ノックもなく開いた。


「先生! ちょっとご相談が!」


飛び込んできたのは、常識人枠かつツッコミ担当の神原徹。

その後ろには、無表情な美術教師・赤城圭吾、そしてパーカーのフードを深くかぶった九条響の姿。


理人の非公認『世界滅亡回避パーティ』の初期メンバーが、勢ぞろいしていた。


「神原か。何か問題でも?

 ノア=エルの愛の暴走が校舎三階まで到達したとか?」


「やめてくださいよ! 僕のSAN値まだマイナス圏ですよ!?

 ……そうじゃなくてですね、先生。組織から提供されたこの『拠点』を、もっと有効活用すべきじゃないでしょうか!」


「有効活用?」


「はい、つまり――部活動です!」神原は興奮気味に身を乗り出す。


「僕ら、毎日旧神とか旧支配者と戦って、次元の狭間に行ってるんですよ!? なのに『公式な活動形態』がないなんて、この超常活動にとって不合理すぎます!」


「部活動にすれば予算も出ますし、職員室で堂々と打ち合わせもできますし――何より、先生の貴重な時間を『合法的に』拘束できます!」


「最後の目的が一番醜悪だな、神原」


理人は反射的にツッコミを入れたが、理屈としては間違っていなかった。

彼らは今、「教師と生徒の放課後活動」という名目で、世界を救う超常任務をこなしているのだ。


「確かに。部活動として組織すれば、『教師の指導』という名の大義名分――いや、最強のデバフを得られるな」理人は腕を組んで頷く。


その横で、九条が静かに口を開いた。


「部活動として動けば、ノア=エルやアイオネが介入してきた際……

 『部活動の規律』という拘束力(セーブデータ)で、 彼女たちを縛れます。先生の  

 『教師の威厳』ロールプレイも強化されるはずです」



>>>教師の威厳 Lv.3:

   校則遵守+15% 

   生徒からの信頼+5% 

   ヒロインの暴走抑制+20%



「九条さん……恐ろしいほど合理的だな」理人が苦笑すると、赤城が淡々と続けた。


「それに、『部活動中の事故』という処理枠を得られる。

 校舎の壁を破壊したり、次元の穴を開けたりした事後処理を『部活動中の事故』として報告できる。組織もそれを望むでしょう」


(……ああ、もうこいつら、『世界の終焉』より

 『学園の秩序』を優先してる。完全にバグだ)


理人は頭を抱えた。


神原はその苦悩を、なぜか歓喜と受け取り、さらに食い下がる。


「じゃあ、どんな部がいいでしょう!?」


「僕はやっぱり、『青春ラブコメ部』がいいです!

 先生と可愛いヒロインたちの愛の暴走を、間近で―― 間近で観察したいです!」


「ダメだ。お前のSAN値が完全に崩壊する」理人は即答する。


四人の議論は、真剣なのか悪ノリなのか判別不能なまま、

カオスな熱を帯びていく。


そんな中――職員室の扉が、再び重く開いた。


銀色の髪が、絶対零度の光を帯びて揺れる。

入ってきたのは、「秩序の監視者」――アイオネ。


彼女が一歩踏み出すたびに、室温がマイナス十度に下がる。

その冷たい美貌が、理人たちを見下ろした。


「ふむ。教師殿、楽しそうね。

 秩序を乱さない範囲での談話は、摂理維持に有効。私も混ぜなさい」


理人の背筋に、氷の針が走った。


(来た……秩序の監視者。彼女を部に入れる? いや、『愛の暴走』と『秩序の強制デリート』を同時に抱えるとか、終末コンボだろ!)


アイオネは理人の心を読んだかのように、微笑む。


「教師殿、私を避けるのかしら? あなたの『愛を包含した秩序』は、

 真の秩序たる私を受け入れるべきでは?」


「ノア=エルという『愛のバグ』を放置するより、

 私という『抑制プログラム』を導入した方が、生存確率は上がるはずよ?」


「理屈は正しいが、アイオネ。君の介入は、

 時々デバッグを通り越してデリートになるんだ」


「フフ……それが私の美学よ」


神原は青ざめ、理人の服を必死に掴んだ。

「先生……ヤバいです。ノア=エルさんとアイオネさんが同じ部になったら、僕のSAN値が『愛と秩序の板挟み』で圧死します!」


「だが、神原」理人は冷静に答えた。

「アイオネが部にいれば、ノア=エルを監視して勝手に自動デバフがかかる。世界が救われる可能性もある」


「ちょ、ちょっとそれ……非人道的すぎません!?」


「非人道的な合理主義こそ、

 このクソゲーをクリアするための教師の鉄則だ」


外で雷鳴が一つ。


理人は三秒後に、

それがノア=エルのくしゃみだと気づいた。

……次の瞬間、校舎三階の窓が『愛のエネルギー』で震えた。



【第14話に続く】

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