第10話 光の下の影

 舞踏会場――王宮の大広間。

 磨き抜かれた大理石の床は光を映し、幾重にも垂れ下がる絹のカーテンが窓辺を飾る。

 壁には金箔を施したモールディング、彫像や鏡が並び、無数の燭台とガス灯が一斉に輝き、夜を昼のように照らしていた。

 天井の漆喰には、神話の一場面を描いた大きなフレスコ画。そこから吊るされた巨大なクリスタルのシャンデリアが、星のように光を散らしている。


 礼儀として、はじめのダンスを共にする。

 音楽、笑い声、衣擦れのざわめき。会場は眩しいほどに華やいでいた。


 けれど、エドワードの掌は妙に熱かった。

 ――花びらは、いつの間にか消えていたはずなのに。


 曲が終わり、夫人を休憩席へと案内したときだった。

 ふわり、と視界を横切る白。


 一枚の花びらが、天井から舞い落ちてきた。


 気づいたのはエドワードだけだ。

 笑い声も音楽も止まらず続くなか、花びらはゆっくりと落ち――そして、消えた。

 まるで最初から存在しなかったかのように。


 その瞬間。

 天井から鈍い音。

 会場の中央で、巨大なシャンデリアがきしんだ。


 そして、轟音とともに落下した。


 悲鳴が響き、舞踏会は混乱に包まれる。


 落下したシャンデリアは幸いにも人を直撃せず、軽傷者が出た程度で済んだ。

 すぐさま騎士団が駆けつけ、舞踏会は一時中断となる。


「老朽化だそうです」

 後日、調査の報告はそれだけだった。


 けれどエドワードの目には、あの白薔薇の花びらが焼き付いて離れない。

 ――老朽化で、花びらが落ちるものか。


 人知れず、彼の胸に不安が根を広げていった。

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