第4話
――その日の放課後。
帰宅部である俺は、最速で机の中身を鞄に詰め込んで帰り支度を済ませた。
そして、教室から逃げるように出ていこうとしたところで、雨野に引き止められる。
「神崎、もう帰るの?」
「おう。俺は帰宅部エースとして背番号1を狙ってるからな……」
昼休みのこともあって、俺は一刻も早く教室から出ていきたかった。
別に陰口を言われたわけではない。
むしろ、不自然なくらいに、クラスメイトたちは昼の一件を話題にしなかった。
それが逆に、俺を不安にさせたのだが。
だって普通、あんなことがあったら、笑い話のネタくらいにはなるだろ。
「またおかしなこと言って」
聞き馴染んだ雨野の呆れた口調さえも、今は俺をソワソワさせる。
「そうだな、俺は
彼女は放課後になると、いつも教室に残って暫くクラスメイト達と楽しそうに談笑していたりするのだが、今日に限って何故か俺の帰宅RTAを阻止する。
「まあ、別にそれはいいんだけどさ……あの……あのね……」
そして、彼女は何やら意を決したような顔で、しかし若干もじもじとしながら言った。
「今日さ、一緒に帰ろうよ」
「ん?」
今度こそ、本気で自分の耳を疑った。
一緒に帰る?
俺と雨野が?
なんで?
「なんで?」
突然のことに困惑した俺は思ったままの言葉を口に出す。
雨野からこんなことを言われたのは初めてだった。
「友達と帰るくらい、普通じゃん?」
「そう……だな。いや、そうか?」
確かに健全な学生からすれば友達と一緒に帰るなんてことは日常茶飯事だろう。
しかし、男女がともに帰るというのはまた話が違ってくるのではないか?
こういうのを下校イベントだとか、恋愛フラグだとか思ってしまうのは、オタクの悪い癖なのだろうか?
誰か、教えてくれ。
こういうのもAIに聞いたら、答えてくれるのかな?
でもAIに人間関係の相談をし始めたら、いよいよ自分が惨めに思えてきそうで嫌だ……。
友達がいない究極形態みたいじゃん。
「アタシと一緒に帰るの、そんなに嫌、かな?」
俺が下らない考えごとに耽っている間に、雨野は悲しそうな顔でこちらを見つめていた。
こんな顔は見たことがない。
いったい今日はなんなんだ!?
なんか変だぞ、雨野!
「い、嫌ってことはないんだが、そもそも俺と雨野って帰る方向一緒なのか? 俺、雨野の家とか知らないんだけど」
「大丈夫だよ。神崎の家、
「……へぇ、そうだったのか」
なんで雨野、俺の家とか知ってるんだ?
話したことあったっけ?
あー、雑談の中で近くの店の話とかしてるから、ポロッと家の場所とか話したのかもなぁ。
全然覚えてないけど。
「家が近いなら、まあ。断る理由はない……か?」
いまいち自分で出した結論に納得がいかない。
でも、雨野が気にしてないのに、相手が女子とはいえ、友人と帰ることを変に意識するのも悪いことのように思えた。
「じゃあ、一緒に帰るか」
俺の返事を聞くと、雨野はパァッと花が咲くような笑みを浮かべる。
彼女の瞳が、キラキラと輝いて見えた。
「うん!」
先ほどまでの悲しそうな顔とは打って変わって、雨野は上機嫌そうに頷く。
両頬をほんのり赤く染めてホックホクのニヤケ顔だ。
そそくさと帰り支度を始める雨野。
ちょっと癖のある長い金髪をゆらゆらとさせながら、よくわからない鼻歌とともに身体を左右に揺らしている。
その姿を眺める俺は、内心でそんな雨野を『可愛い』とか思ってしまうのだった。
いや、雨野は大切な友達だから!
変な気を起こすなよ、俺!
こうして、俺は初めて雨野と下校することになった。
教室を2人で出ていくとき、背中にクラスメイトたちからの熱い視線を感じた気がしたが、気のせいだと思いたい。
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