第28話 急げ! アラーラ村まで



 ホバークさんが出発の号令を出すとともに、クオームたちの馬車が走りだした。


 ハッ、しまった! 遅れをとった。

 あっちの御者はゾイムだね。グレーのロングストレートヘアの女戦士。戦士なのにムチ使いだ。


「リゲル、急げ!」

「はい!」


 リゲルは自分んちにも馬車があるんだそうだ。すごく小さくてロバがひくやつだけど、街まで野菜を売りに行くときに使ってるんだって。馬車っていうより荷車だね。そういや、裏庭のヤギのとなりにロバ、いたかも。


 というわけで御者を頼んだんだけど。


「はいよー!」


 威勢のいいかけ声。スパンとムチが鳴る。空中を打って、その風を切る音で馬を走らせるのだ。意外とスゴイ。リゲル、いろんな特技を持つやつだ——と思ったら。


 ポクポクポク。


「はいよ〜」


 ポクポクポク。

 ゴロゴロゴロゴロ………。


 のどかな春の早朝。

 心地よいそよ風。

 馬車の車はコロコロとまわる。


「……なんで、こんな遅ェんだよ?」

「いつも、こんな感じですけど? 商品いたまないように、ゆっくり、慎重に」

「おまえはバカかー! 急げっつってんだろ? ここで差をつけられたら、どうすんだよ?」

「す、すいません」


 やっとスピードあがったけど、そのころにはもうクオームたちの馬車は遠く見えなくなっていた。


「ああ……完全にさきこされたよ」


 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっと、じいちゃんが笑う。

 ちなみに、あたしとじいちゃんは荷台に乗ってる。帰りはタヌキンだらけになってるなぁ。この荷台。タヌキンの死体のうえにすわるのかなぁ?


「まあまあ。急がばまわれじゃよ。残りものには福があるともいうしな」


 うん。この諺はよく聞くやつだ。メモ。メモ。おぼえとかないとな。へへへ。あたしって、じいちゃんっ子だ。


 だから、アラーラ村についたときには、クオームたちはすっかり荷台いっぱいのタヌキンをしとめてた。村の入口付近で、今しも馬車を出そうとしてたクオームたちが、こっちを見てニヤニヤ笑う。


「今さらおでましだぜ。ご苦労なこった!」


 あたしたちの馬車と入れかわりに出ていくクオームたちの笑い声が遠くなっていく。


「あいつら、やけに早くない? 遅れたっていったって、十分かそこらでしょ? そんなすぐ集められるもん——うっ!」


 木でできた村のゲートをくぐったとたん、目を疑うような光景が待っていた。タヌキンだ。タヌキンが村じゅうにあふれてる。その数、百や二百じゃない。おそらくだけど、数千匹!


「これは……」

「うーむ」

「数えきれませんね」


 なるほどね。これは、あっというまに捕獲できるはずだ。とにかく、ウジャウジャ。ウジャウジャいる。木の棒てきとうにふりまわしとけば、それだけで数匹は倒せる。


「なんでこんないんの?」

「たまに特定の魔物の当たり年があるからのう。タヌキンたちの生息地で大繁殖があったのかもしれんな。エサが豊富にあったとか、そんな理由だろうて」

「それより倒しましょうよ。馬車いっぱいぶんの差をつけられてますよ!」

「たしかに」


 リゲルにダメ出しされたんで、急いで荷台からとびおりる。そのとたんに足元で「プキューッ」と叫び声があがった。


「あ、タヌキン、ふみつぶした。しかも三匹も」


 とびおりた勢いがついてたから、ワラワラ地面に群れたやつが、着地だけで倒せてしまう。


「プキュー」

「プキュッ」

「プキュキュ…」


 逃げまどうタヌキンたち。追いかける人間。タヌキンじたいがそこまで強くないから、片手でつかんで首をしめれば、二匹ずつ、やれる。モンスターとはいえ皆殺しは残酷だが、ここまで増えすぎちゃ、生態系のバランスを乱しちゃうからな。


「うりゃ!」


 首ねっこつかんでは荷台へなげいれ、また追いかける。このくりかえしで、あっというまに馬車がいっぱいになった。


「なるほど。こういうことか。だから、アイツらもあんなに……」

「アニスや。ここは二手にわかれてはどうじゃ? 誰か一人がギルド前広場までタヌキンを運び、そのあいだ残った者たちが捕獲を続けるんじゃ」

「ギルドまで往復一時間かかるもんね」


 すでに馬車いっぱいぶん、クオームたちに負けてるし、急がないとね。ということは、誰に行ってもらうかは決まってる。あたしが十匹しとめるあいだに、リゲルは一匹だ。じいちゃんは、さらにあたしの十倍。


「リゲル。広場まで運んでくれる?」

「任せてください。全速力で往復してきます」

「広場とここを何往復できるかが勝敗の鍵だね」


 それにしては、クオームのやつら、ちっとも帰ってこないな。さっきからまだ三十分もたってないし、しかたないか。


「じゃ、行ってきます」

「よろしく〜」


 気軽に見送ったけど、もっと用心しとくべきだったね。クオームたち、あそこまで根性まがってたなんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る