バカ兄貴のせいで多額の借金せおった妹は可愛いモフモフお客さまにダンジョンガイドして、ギルドなんか軽〜く見返しちゃいます!
涼森巳王(東堂薫)
一章 ギルドから多額の借金せおっちゃいました!
第1話 とつぜんのギルド解雇
晴れ渡った青空。
花の香りのする心地よい春風。
世界はなんて素敵なんだろう?
なのに……なのに、なんでだー! 嘘だろ? なんで、あたしの身にこんな災難がふりかかってくるんだー!
「う、嘘でしょ? ホバークさん。もう一回、いってみて」
冒険者ギルドマスターのホバークさんは哀れみの目であたしを見てる。
「アニス・ビー・ペッパーランド。何度聞いても同じだぞ? おまえの兄カレンデュラ・オウルはギルドの資金を使いこんだ。よって、本日これより広場にて処刑される」
「ええー! なんで? そんなバカな? ちょっと、兄貴。なんとかいってみなよ? ほんとなの? そんなわけないよね?」
両腕をギルドの傭兵に押さえられた兄は力なく首をふる。街の女の子には(ついでに男どもにも)黒髪長髪の美形とさわがれてるけど、妹のあたしから見たら、てんで頼りない兄だ。なんたって、優柔不断のかたまりみたいな人だから。
「ごめん。アニス。僕はやってないよ! ほんとにやってない。嘘じゃないよ? でも、なんか、そんなふうになってるみたいなんだ」
ああ、きっとまた誰かにだまされて、金庫のお金を持ちだしたとかなんとかだな。だから、こんな人をギルドの会計士なんかにしちゃいけないって思ってたんだ。絶対いつか、こうなるってね。わかってたんだから!
「ホバークさん! きっと兄は誰かにだまされたんです。お願いします! 使いこんだお金は返しますから、処刑だけはやめてください!」
うちはさ。両親いないんだよね。なんか若くして死んじゃったんだとかでさ。じいちゃんに育てられて、兄貴とあたし、三人で肩よせあって今まで生きてきた。
優柔不断で頼りなくて、こんなふうにモメごとばっかりまきこまれる兄貴だけど、妹からしたら、ほっとけない。ほっとけるわけがない。ダメな兄ほど可愛いって、世間じゃいうじゃない?
だから、必死でとりすがったよ。金ですむ問題なら解決しなくちゃね。
この上、兄貴までいなくなったら、近々モウロクするかもしんない、じいちゃんの世話、誰がするんだよ? あたし? あたしなの? あたしはさっさといい男見つけて嫁に行くんだから! まだ見つかってもいないんだけどね。いい男……。
ホバークさんは考えこんでる。おっ? 見込みありか?
「お願いします。必ず全額返済しますからぁ〜」
「ほんとに全額返すのか?」
「もちろんです! はい。ビタ一文欠かさず、きっちり、みっちり、お支払いいたします〜」
ここぞと、もみ手。
「よかろう。では、これが証文だ。十年以内にここに記された額をすべて返済するように。おまえが逃げださないよう、兄はそれまで牢獄に入れておく。また、おまえも兄も冒険者ギルドから除名する。ギルドに犯罪者を置いておけないからな。それでもよいのだな?」
よ、よかった。とりあえず、処刑だけはまぬがれたよ。いくらか知んないけど、金貨百枚? 二百枚? まあ十年もあれば、なんとか稼げるでしょ。チョロいよ。チョロい。
そんなふうに考えつつ、羊皮紙の証文をのぞいたあたしは、頭のてっぺんからつまさきまで、全身の血という血が落ちてくのを感じた。もう、ザーッとね。卒倒死もんよ。
「金貨一千万枚……」
ああ、ダメだ。こんなの、一生かかっても稼げないやつじゃん!
*
絶望してるあたしの前で、兄貴はメソメソ泣きながら連行されていった。
はぁ……やってくれたな、バカ兄貴。金貨一千万枚だと? 金貨二十枚もあれば家が建つってのに? 一千万枚もありゃ、どんだけ豪勢な城が建つってんだよー! 王さま、お妃さまなみの贅沢ざんまいできるじゃねぇかよ! 何をどうやったら、そんな大金を使いこめるってんだ?
とにかく、ゴチャゴチャいってもしょうがない。この多額の借金はもう取り消しようがないんだから。ここは前むきに返す方法でもさぐろうじゃないか。
あ、まわりの人がスゴイ見てるな。思わず、石畳の道端にアグラかいてすわりこんでたぜ。じいちゃん仕込みの盗賊スタイルだから、パンチラの心配はないんだけど、さすがに十五歳の美少女が道端にしゃがんでたら不審者か。
ん? 美少女かそうじゃないかっていえば、ギリギリのラインだって? 兄貴のほうがずっと女の子みたいな美少女顔だった?
気にしてるこというなー!
どうせ、あたしは野生味にあふれてるよ。兄貴はつややかな黒髪だけど、あたしはボサボサの栗毛だしな。って、栗毛って馬の種類じゃんか! あたし、バカじゃないの? バカ、バカ! あたしのバカ!
はぁはぁ……まあいい。
そんなことより、金だ。なんとかして金を稼がないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます