30.素材集め

「えーっと、私が納品するのは――初級の傷回復ポーションと、初級の魔力回復ポーションを百個、ですね」


 ポーションを詰めるガラス瓶を作り終えると、私は次の工程である素材集めへと移った。黒ヒョウへと姿を変えたシオンさんの背に軽やかに跨り、森へと駆ける。


「では、必要な素材は二百個ということか?」

「いえ、二百個では足りません」


 私の答えに、シオンさんの耳がぴくりと動く。


「既存のポーションは、薬草一つにつき一本。でも、あれじゃ効力が全く足りないんです」

「確かに、ヒナは作り直すと言っていたな」


 小さく頷き、私は森の奥を見つめる。


「はい。素材の力をきちんと引き出したいんです。だから、ただ混ぜて煮るだけの普通のやり方じゃダメ。そのぶん、多めに採取して、新しい配合で作り直します」


 既存のポーションを思い返す。色は薄く、香りも弱く、薬草本来の生命力がほとんど残っていなかった。


 あれは、正直言って不良品だ。


 納品するからこそ、そんなものは作りたくない。だからこそ、私は新しい方法を考えた。


「つまり、改良型を作るのだな。しかし……時間はあまり残っていない。間に合うのか?」

「大丈夫です。もう作り方は頭の中にあります。後は実際にやってみるだけです」


 きっぱりと言うと、シオンさんは愉快そうに目を細めた。


「ヒナがどんなポーションを作るのか、楽しみにしているぞ。くれぐれも、暴走しないようにな」

「だ、大丈夫です! 暴走なんてしませんから!」


 そう言いながらも、胸の奥で小さく燃える。最高の初級ポーションを作ってみせるという、ワクワクとした決意が。


「まずは薬草の場所を特定しましょう。探索魔法!」


 探索魔法を発動させると、周辺の情報が頭に入って来る。その情報を一つずつ整理して、目的の物を探していく。


「えーっと、ありました! シオンさん、あっちの方向に行ってください!」

「了解した」


 目的のものが見つかると、シオンさんに指示を出す。すると、シオンさんは風のような速さで森を駆け抜けていった。


 ◇


「これで百個目ですね」


 私は手にした薬草をアイテムボックスにしまいながらそう告げた。


「は、早くないか!? まだ二時間しか経っていないんだぞ!?」


 黒ヒョウ姿のシオンさんが驚愕の声を上げる。耳がぴんと立ち、尻尾までわずかに震えている。


「シオンさんが速く走ってくれるお陰ですよ。移動の時間が短い分、採取に集中できますから」

「いやいや! それだけじゃないだろう!? 探索魔法の精度が異常に高い! 一か所に着くたびに二つも三つも見つけているじゃないか!」


 確かに、森へ入ってからの流れは異様に良かった。魔力で周囲の薬草の反応を探れば、まるで光でも灯っているかのように位置が分かり、シオンさんがその場所まで一気に駆けてくれる。


 その繰り返しだけで――。


「二時間で予定の半分……すごいペースですよね」


 あらためて数字にすると、自分でも驚くほどだった。でも、これは私だけの力じゃない。


「シオンさんが運んでくれるからですよ。ほんと、助かってます」


 そう言うと、シオンさんは少し嬉しそうに目を細めた。


「まぁ、ヒナの力になれてよかったよ。だが、ヒナの力も十分に凄いからな」

「ありがとうございます」


 その声音はいつもよりわずかに弾んでいて、なんだか可愛かった。


「さてと、次は向こうですね。シオンさん、お願いします」

「任せろ」


 再びシオンさんに跨ると、颯爽と森を駆け抜けていく。駆け出して数分、シオンさんが口を開いた。


「むっ、行く方向に誰かいるようだぞ」

「えっ? ……あっ、本当だ。目的の薬草の近くに誰かいるようですね」

「とりあえず、向かおう」


 探索魔法を発動させると、確かに薬草の近くに人がいるようだった。シオンさんがスピードを上げてその場所へと向かった。


「いたな」


 すると、前方に人の姿を見つけた。男女で四人、パーティーのようだ。その人たちは地面を見つめている。その視線の先にはいくつかの薬草が生えていた。


「あっ……」

「どうやら、一足遅かったみたいだな。どうする?」

「えっと……先にいたのはあの人たちなので、邪魔はしません」

「そうか。まぁ、それが懸命だろうな」


 もしかしたら、私が先に見つけたかもしれないけれど、現場に先に到着したのはあの人たちだ。間に入って、それは私のものだという勇気はもとからない。


 だから、ここは諦めよう。そう思った時、大剣を背負った戦士が乱暴に薬草を握り、引きちぎろうとした。


 あっ!


「そんなことをしたらダメです!」


 カッとなり、私は無我夢中でそのパーティーに駆け寄った。


「な、なんだ、なんだ!?」

「素材をそんな風に扱わないでください! 正しい採取法をしないと、薬草事態ダメになりますし、次が生えてきません!」


 私が声を上げると、その戦士は薬草から手を離した。


「こうして、地面からまっすぐに生えている草の場合の採取方法は根元をナイフで切り取るんです。この方が素材の痛みは最小限です。それに大事な根が痛むこともありません。大体、こういう薬草は根を残してあげると、ちゃんと次が生えてくるんです。だから、乱暴に引き抜いたらダメです。素材も根も悪くなります!」

「お、おう……」

「それとですね、隣の薬草の採取の仕方ですが……葉っぱが一枚ずつありますよね。これは茎が伸びていって、その枝から新しい葉っぱが生えてくる。薬草だからと言って、全部を取ってはいけません。若葉は絶対に残しておいてくださいね。若葉はまだ成長途中で薬効も不十分な場合があります。しっかりと、薬効のある葉っぱを見極めて採取してください!」

「あ、ありが、とう?」


 素材をちゃんと扱わないのは許せない。これで今後はちゃんとしてくれると……ん? 私、見ず知らずの人になんていうことを!?


「あわわわわわわわっ! ご、ご、ご、ごめ、ごめん、なななさいぃぃっ!」


 私はなんていうことをしてしまったんだ! 本当に申し訳ない、本当に申し訳ない!


 気づいたらジャンピング土下座をしていた。

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