25.商業ギルドに行く

「……あぁ。また、ここに来てしまった」


 ようやく辿り着いた場所は商業ギルドの扉の前。それを前にして、私は呆然と立ちすくんでいた。


「ほら、勇気を出せ。少しずつ、対面に慣れていくんだろう?」

「そうですが……。やっぱり、怖いものは怖いんです」

「大丈夫だ。今回も補佐はしっかりとしてやるからな」

「うぅ……。いつも、面倒かけますぅ」


 シオンさんがいなければ、私はきっと商業ギルドになんか来れない。というか、町の中で暮していけない。それだけシオンさんには助けられている。


 心の底からの感謝を伝えると、シオンさんが魔法の力でゆっくりと扉を開ける。すると、大きなホールと広がったカウンターが見え、今日も活気のある商業ギルドの様子が良く分かる。


「人がいっぱい……。うぅ、体が重い……」

「軽量化の魔法をかけてやろうか? そしたら、スイスイ歩けるかもしれないぞ」

「ひぃぃ! 無理に歩かせようとしないでくださいぃっ!」


 よぼよぼと商業ギルドの中に入り、一目を避けるために壁際に寄る。キョロキョロと辺りを見渡して、目的の職員を探す。


「ヒナ、いたぞ。あそこのカウンターだ」

「よ、良かった……。じゃ、じゃあ……行きましょう」


 対面の時間だ。緊張でゴクリと喉が鳴ると、力なく歩いていく。人を大げさに避けながらも、時間を掛けて、担当の職員の前までやって来た。


「ようこそ、商業ギルドへ。あっ……あなたは!」

「よ、よ、よろ、よろよろよろしく、お願いしますぅ……」

「お待ちしてましたよ! さ、どうぞ、こちらへ!」


 いつもの小柄な職員さんが、私の姿を見るなり、ぱぁっと花が咲くように表情を明るくした。必死に笑顔を返しながら促された席に腰を下ろすと、緊張で背筋がぴんと張ってしまう。


「ここに来てくださったということは……手紙、読んでいただけたんですよね?」

「シ、シオンさん……」

「その通りだ。ヒナは、協力できることがあれば手を貸すと言っている」


 シオンさんが落ち着いた声で引き継ぐと、職員さんは安心したように胸に手を当てた。


「本当に助かります! いま、人手が足りなくて……ずっと困っていたんです」


 そこからはシオンさんの誘導のお陰で、話が驚くほどスムーズに進んでいく。


「まず、依頼の内容と条件を聞こうか」

「はい。二週間後に、王都騎士団と王都魔導師団による合同の魔物掃討戦が予定されています。規模が大きく、その準備に必要なアイテムの数が全く足りないことが分かりまして」

「たしか、国家錬金術師が総出でも必要数を揃えられない、という話だったな」

「はい、その通りです。そのため、市井にいる錬金術スキル保持者にも協力をお願いしている状況で……ヒナさんも錬金術のスキルをお持ちだと確認できましたので、ぜひと思いまして!」


 職員さんの熱意と焦りが伝わる説明に、少しだけどやる気が満ちてくるのが分かった。人と対面するのは苦手だけど、人の役に立つことは嫌いではない。だから、自分の力が発揮出来て、誰かのためになると聞くと嬉しくなる。


「それで、作って欲しい回復アイテムとはなんだ?」

「はい。こちらの傷を回復させるポーションと魔力を回復させるポーションです。どちらも低級のもので構いません。中級以上は国家錬金術師が用意する話になっています」


 そう言って、二種類のポーションが差し出された。大き目のガラスの瓶に入ったポーションで、薄っすらと緑と赤の色が付いている。これが、この世界のポーション?


「なるほど……。低級のポーションを市井の錬金術師に作らせるということか。ヒナ、出来そうか?」

「……ちょっと、ポーションを見せて頂ても良いですか?」

「はい、どうぞ」


 私はポーションを一本取り上げ、光に透かしながら鑑定スキルを発動させた。淡い光が瓶の中へ染み込み、成分が一つひとつ脳内に浮かび上がる。


 低級ポーションとはいえ、これはちょっと酷い。回復力は本当に最低限。せいぜい深さ一センチ、横十センチ程度の切り傷と、軽い打撲をどうにかできるくらい。


 それに、内部の成分がほとんど水。しかも、その水の質も良くない。井戸水をそのまま使ったのかな。鉄分や微細な砂、混ざっちゃいけないものが普通に残っている。


 薬草の成分もほとんど抽出されていない。本来なら錬金術を使って「有効成分だけを抜き出す」工程が絶対に必要なのに……その形跡がまるでない。


 素材を「分解」して「組み直す」力こそ錬金術なのに、まるでただの薬草汁。これじゃ効果が出ないのも当然だ。


 さらに気になるのはガラス瓶。濁っていて透明度が低いし、光が歪む。薄くて強度も弱そうだ。落としたら……いや、少し強く握っただけでも割れそう。


 もし運搬中に割れたら、中身は全部零れてしまう。せっかくのポーションも無駄になる。


 総合して言えば、正直、作り直した方が早いレベル。


「……ヒナ、どうしたんだ?」

「ヒナさん、どうでしょうか?」


 二人の声が聞こえて、ようやく我に返った。


「このポーション、私なりに作り変えてもいいですか?」


 こんな品質のポーションを見せられて、黙ってなんていられない。私はこのポーションを作り直す。ポーションから瓶まで、全部。

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