16.装飾品の効果(三人称視点)
「あっ、いらっしゃい!」
アウリィ商会の看板娘、サリサは明るい声を出してお客さんを出迎えた。現れたのは冒険者風の男女で、サリサの姿を見ると笑顔を浮かべた。
「よっ、邪魔するな」
「邪魔するなら帰ってー」
「もう、そんな事言わないでよ。今日はちゃんと買い物に来たんだから」
「だったら、居てもいいよ」
お互いに慣れた相手。気兼ねない言葉を交わして、僅かな交流で親交を深めた。だけど、他のメンバーがその二人を急かす。
「必要な物……早く買う」
「そうですね、遊びに来たんじゃありませんから」
「今日も沢山買ってくれてありがとー!」
「まだ、買ってねぇって!」
じゃれ合いつつも、そのパーティーは店に置かれた物を順々に見て回った。商品を一つずつ手に取り、必要な物を選んでいく。
「相変わらず、品揃えがいいわね。ここに来たら、必要な物が何でも揃うから助かるわ」
「ここは穴場ですよね。大店みたいにお客を贔屓しないし、買いやすいです」
「うん……良店」
このアウリィ商会の店は冒険者パーティーにとって、とても居心地の良い店だった。品ぞろえは豊富、品質もいい、大店みたいにお客を贔屓しない。気楽に買い物出来ると、一部の買い物客には好評だった。
買い物を仲間に任せていた大剣を背負った戦士が何気なく棚を見ると、そこには見たこともない牙飾りが飾られていた。
「おっ、なんだこれ。カッコいいな!」
「ちょっと、グレン! あなたもちゃんと見なさ……わっ! 何これ! か、可愛い!」
背の低い僧侶の女性が咎めようとした時、牙飾りの隣に飾られていたウサギの尻尾のアクセサリーを見て目を輝かさせた。二人は気に入った装飾品を手に取ると、品定めをする。
「あっ、牙に模様が入っている! めちゃくちゃカッコいい!」
「わっ、この感触、何!? もちもち、フワフワ! めちゃくちゃ気持ちがいい!」
「……何してる?」
「もう、二人とも。買い物が先ですよ!」
細身の魔導師と長身のエルフが二人を咎める。だけど、二人は装飾品に夢中になって、話を聞かない。
「あっ、お目が高いね。それは最近入荷したものだよ。見た目もいいし、片方は感触が凄くいいし、オススメだよ」
「良い物、入荷してるな! 気に入った、これを買おう!」
「こんなに可愛くて感触がいいなら、買うしかないわ!」
どうやら、戦士と僧侶はその装飾品を気に入ったみたいだ。だけど――。
「それ、能力付与されているから9万フォルね」
「「えっ」」
サリサの言葉に二人は固まった。
「牙飾りには『疲労回復』、ウサギの尻尾には『幸運』がついているよ」
「……貴重な能力」
「レアな能力ついてますから、その値段は納得です。きっと大店で売ると、もう1万フォル高くないですか?」
「ビ、ビックリしたー。貴重な能力が付いていたのか」
「こんなに可愛くて、感触がいい上に能力まで付いちゃっているの!?」
四人は付いている能力を聞くと、落ち着いた様子で事実を受け止めた。利便性の高い能力は貴重で、中々お目にかかれない品物だ。
「見た目と能力の良さに気づいた人達がどんどん買っていっている商品だから、即決しないと売り切れちゃうかもねぇ」
装飾品を見て悩む四人に向かって、サリサは脅かすようなことを言う。すると、四人の表情が真剣に変わった。
「これは買いだ。能力付与なんて、滅多に買えないものだぞ」
「そうよ。それにこんなに可愛いし、感触もいいし、言う事無しだわ」
「……賛成」
「ちょっと高いですが……買えなくはありませんからね。私も賛成です」
意見を言い合うと、思ったよりも反対意見が出なかった。四人は顔を見合わせ強く頷くと、人数分の装飾品を手に取った。
「これをくれ」
「はい、毎度あり―!」
◇
そして、冒険者パーティーは装飾品を身に着けて、いつものように魔物討伐へと赴いた。
大剣を持った戦士が魔物を引き付け、小柄な僧侶が攻撃と防御が上昇するバフを掛ける。足止めさせた魔物を細身の魔導師が魔法で倒し、他の魔物を長身のエルフが弓で狙う。
弓矢の先に魔法を含ませ、しっかりと狙いを定めて放った。空気を切り裂いて飛んだ弓矢は魔物の頭部に突き刺さり、破裂した。
「嘘っ!? またヘッドショットが決まりました! それに魔法がいつもよりも威力が強いです!」
長身のエルフは自分の攻撃に驚きの声を上げた。今回の魔物討伐は上手くいきすぎている。必ずヘッドショットは決まるし、魔法の発動がスムーズでいて威力が高い。
「私もだよ! なんだか、バフが異様に強くなっているっていうか、違う効果が付いているみたい」
いつもとは違う違和感を覚えたのは小柄な僧侶も同じだった。バフがいつもよりも掛かりやすくなっていて威力が増し、いつもはつかない違う効果まで付いている。これは、明らかにおかしい。
「……僕も。魔法連射の疲労が全くない」
異常な状態は細身な魔導師も感じていた。魔法を連射すると体に疲労が溜まるのだが、それが一切ない。負荷のない状態のまま繰り出す魔法はどれも精度が良いままで、クリティカルを出せている。
「うおぉぉっ! 全然、疲れねぇぜ! ひゃっはー!」
一人で前線を維持している大剣持ちの戦士は無双の働きを見せた。止まる事のない剣裁きで、魔物を足止めするどころか、次々と倒していっている。
あっという間に何戦か終わらせて、一休憩に入った。
「休憩なんていらないぜ! すぐにやろうぜ!」
「グレンたちは疲労が感じないけれど、私達は違うのよ。一休みくらいさせて」
「それにしても、この異常……絶対に装飾品の効果ですよ。私は良いことばかり続いてます」
「……異常なほど、疲労を感じない」
「そうなのよ! なんなの、この装飾品! 怖いほど有能なんだけど!」
普通、付与された能力は少しの足しになる程度の効果だ。だけど、この装飾品に付けられた能力は段違いに効果的だった。
「9万フォルは安かったのかもしれませんね……。これだと、20万フォルくらいの価値はあります。いや、それ以上かもしれません」
「とんでもない効果だったもんね。正直言って、疲労回復が付いた牙飾りが欲しくなってきた」
「僕も……幸運の効果がついた、装飾品欲しい」
「そんなに良いことが続くんなら、俺も欲しい!」
こんなに凄い効果があって、9万フォルは安い。四人の気持ちが通じ合うと、同時に立ち上がった。
「こうしてはいられません。すぐに町に帰って、もう一種類買いましょう」
「えぇ、こんな凄い装飾品はすぐに売れきれちゃうわ」
「……賛成」
「まだまだ戦いたいけれど、優先するべきはそっちだな」
戦ってはいられない。今すぐにでも買いに行かなければ。
その考えに駆られ、四人は足早く町へと舞い戻っていった。
◇
町に戻った四人は冒険者ギルドに寄る前に、真っ先にお店へと向かった。お店を開けると、そこには多くのお客でごった返していた。
「うわっ、なんだこれ!? なんか、セールでもやっているのか!?」
大剣使いの戦士が驚いていると、お店にいたお客たちが声を上げる。
「あの装飾品はあるのか!?」
「もう一種類、売ってくれ!」
「お金なら沢山払うわ!」
お店にやってきたお客たちはあの装飾品を欲しがっていた。
「あんな、凄い効果が付いた能力は初めてだ! 他にも欲しい!」
「造形が良くて、凄い能力がついていて、あの値段は安い!」
「他に種類はないのか!?」
誰もがあの装飾品の良さを分かっており、店内にいるお客はリピーターが多かった。
そんなごった返した店内で、サリサは困惑しながらもお客の対応に追われる。
「装飾品はもうありません! 次の入荷の目途は立ってないです!」
そう言うと、店内にいるお客さんは心底ガッカリした声を上げた。
「……だ、だったら! 製作者の次回作は!?」
「製作者の新商品はいつ入荷するの!?」
「製作者に感謝の手紙を渡してくれー!」
装飾品がないと分かると、次の新作を求めた。その声はどんどん広がっていき、店内はお祭り状態になった。
「今は何も分からない状態です! なので、製作者と連絡を取って、次回作を聞いてみます!」
「「「うおぉぉぉぉっ!!」」」
サリサの言葉にお客さんたちは熱狂し、店内には絶叫が木霊した。
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