12.納品はどこへ?
「ふふふっ、ふふふっ、ふふふっ」
目の前の机の上には出来上がったばかりの装飾品を並べた。久しぶりに作ったけど、どれも傑作と言っていい仕上がりになっていた。我ながら、良く出来ている!
「……凄いな。見た目も良い物が出来たが、それ以上に能力付与がとんでもない……」
「ただの装飾品じゃ売れませんからね。能力付与は必須です」
「いや……ただの装飾品でも売れたと思うぞ」
クラフトワールド・オンラインでは装飾品には能力付与が必須だった。だから、同じように付けてみたんだけど、シオンさん的には信じられない事らしい。
いやいや、まさかそんな。私の技術はまだまだだから、付加価値がないと売れないと思うんだ。
「じゃあ、次は装飾品を売らないといけないな。どうやって売るつもりなんだ?」
「……その、対面で売るのは緊張するので。お店に卸そうと思います」
「クラフトワールド・オンラインじゃ、店を持っていなかったか?」
「店は持っていましたが、販売はホムンクルスにやっていてもらったんです。だけど、今はホムンクルスもいませんし、お店を構えるのはちょっと……」
クラフトワールド・オンラインでは自前のアトリエは持っていた。そこで、自分が作った商品を売っていたが、あの時はホムンクルスがいて、販売を手伝ってくれていた。
だけど、今回はそれがいない。そこで、商品を売るならお店に卸すのが一番だと思いついた。
「ふむ、それなら自分でお店側に交渉するよりも、商業ギルドを通した方がいいだろう」
「えっ……」
「初対面でお店に直接物を売る時は足元を見られる。だから、しっかりとした紹介が必要だ」
「と、言う事は……またあの地獄に行くって事ですか!?」
そんな、まさか! もう二度といかないと血涙を流して誓ったのに!
「ど、どうにかなりませんか!? あそこに行くのは、嫌です!」
「どうにもならんな。大丈夫だ。キツく言っておいたから、今度は普通に対応してくれる」
シオンさんはそう言うけれど、実際どうなるかは分からない。あぁ、考えただけで体が震えてきた。
すると、黒猫のシオンさんが体を摺り寄せてきた。違和感を覚えると、私の心がスッと落ち着てくる。
「ほら、もう大丈夫だろう?」
「……酷いです。魔法で私の心を操るなんて……」
「本当ならば使いたくないんだがな。でも、こうでもしないと先に進めないだろう?」
「うっ、それはそうですが……」
シオンさんの魔法に助けられているんだけど、シオンさんの思った通りに心が塗り替えられているような気がして自分の気持ちを信じられない。
少しだけふくれっ面をしていると、シオンさんが微かに笑う。
「そんな顔をするな。ほら、やる気になったのなら、すぐに行くぞ」
「やる気になったわけじゃありませんからね」
シオンさんが机の上から飛び降りると、装飾品をアイテムボックスに入れて私も席を立った。
◇
「また……来ちゃった……」
私の目の前にはあの忌まわしき商業ギルドの建物が。その前に立っているだけで、足がガクガクと震えてくる。
「ほら、行くぞ」
「ま、ま、ま、待ってくださいっ……」
シオンさんがすたすたと進んで行ってしまう。その後をよろよろとした足取りで追って行くと、商業ギルドのホールに入っていった。
相変わらず人が大勢いて、とても賑やかだ。うぅ、こんな中を歩かなきゃいけないのは拷問だよ!
「さて、どの窓口に行く? 前回とは違う人がいいか?」
「新しい人の方が緊張しちゃうので、同じ人でお願いします……」
「そうなのか? 分かった」
新しい人と話すのはハードルが高い。だったら、前に話した人の方が良い。……大丈夫だよね。
不安な気持ちを押し殺し、先に歩くシオンさんの後をついていく。すると、窓口に到着した。
「商業ギルドへようそこ! また、来てくださったんですね。ありがとうございます。どうぞ、席に座ってください」
先日と同じ人だ。普通に話をしてくれて、ホッと一安心だ。ちらりとシオンさんを見ると、大丈夫だろう? と、目で訴えかけてきた。うん、これなら大丈夫そうだ。
「今日はどのようなご用件ですか?」
「売りたい商品を作ってきた。お店に卸す形で売りたいんだが、売り先を紹介してくれ」
「分かりました。では、まず商品を見せてくれますか?」
「は、は、はい……」
思ったよりも穏やかに話が進んでくれる。私はおどおどとしながら、アイテムボックスから二つの装飾品を出した。
「これは……装飾品ですね。少し、手に取って見てもいいですか?」
「は、はい……どうぞ……」
職員の人はまず牙飾りを確認した。
「これはキラーラビットの牙ですね。こんな風に首飾りにすると、カッコいいですね。男性向けでしょうか?」
「そ、そ、そう、です……はい……」
「あっ! 牙に溝が掘ってますね! こんな細かい溝を……ふむふむ。光の加減で模様が浮き出るのがおしゃれポイントですね。これは素晴らしい装飾品です!」
「えっ、あっ、あっ、ありがとう、ございます……」
牙飾りを確認した職員さんは驚いたように見てくれた。ちゃんと意図を読み取ってくれて、思わず嬉しくなってしまう。よ、良かった……ちゃんと作れたって事だよね。
「次は……ウサギの尻尾、でしょうか? 可愛いですね、これは女性向けですね。……わっ、何この感触! もちもちしていてとても良いです! それに毛の肌触りもいいですね!」
職員さんが玉を手に取ると、嬉しそうにその感触を確かめた。その反応を見て、やっぱり嬉しい気持ちになってしまう。
「これは、私が欲しいくらいです! それにしても、ヒナ様の技術は素晴らしいですね。どれも、一級品の仕上がりになってますよ」
「そ、そう、ですか? ……ありがとう、ございます」
よ、良かった……ダメ出しされなくて。やっぱり、自分が作った物を褒められるのは嬉しい。
「でだ、その装飾品には能力も付与されている」
「そうだったのですね! 今でも十分に売れると思いますが、能力付与がされているとすれば人気になるでしょう。ちなみにどんな能力が付与されているんですか?」
「あの……牙飾りの方は『疲労回復』で、ウサギの尻尾の方は『幸運』、です……」
おずおずと付与した能力を話すと――。
「えっ」
「ひぃっ!」
職員さんがまたあの時みたいに低い声を出して、真顔になった。こ、こ、怖い!
「キ、キ、キ、キラーラビットの低級の中の低級の魔物の素材に……そ、そ、そんな凄い能力ががが……」
固まった笑顔を浮かべて、壊れた機械のように話す職員さん。こ、ここはちゃんと説明しないと!
「だだ、大丈夫、です! 魔力が、その、含まれていたので……ちゃんと、付与出来ましたからっ」
「い、いや……いやいやいや。ふ、普通ならこんな低級の中の低級の素材に能力付与なんて出来ませんからねっ」
「いや、その、でも……能力がないと、売れない、と思って……」
「いえいえいえ! この装飾品だけでも売れますよ! それぐらい、良い物ですから! そんな良い物に能力を付けるだなんて! しかも、利便性の高の高の高な能力を!」
「ひぃぃっ、ご、ご、ごめんなさいぃっ!」
職員さんの圧が強い! 思わず体を縮こませて謝ると、シオンさんが間に割って入ってきた。
「気持ちは分かるが……これ以上圧を強めないでくれ」
「し、失礼しました。とんでもない、話だったので取り乱してしまいました。コホン。とにかく、これが凄い商品なのかは分かりました。では、これに相応しい良いお店を紹介しますね」
「……いや、ちょっと待て。このままだと有名店を紹介されそうだな。ヒナが大丈夫なこじんまりとしたお店を紹介してくれ」
「……そうですね。有名店を紹介しましたら、ヒナ様に多大な重圧がかかってしまいます。ここは将来有望な小さなお店を紹介させていただきます」
ゆ、有名店を紹介される予定だったのか。それはちょっと私には荷が重かったので、シオンさんの進言は助かった。
でも、これでようやく商品を卸せるお店が見つかるね。次はお店に持ち込まないといけないのか……。はぁ、新しい人と出会うのは気が重い……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます