第27話 私だけの魔術師2

<アレク視点>


魔術師として生きることが、レイにとって大切なのだとわかっている。

私はレイだけの騎士であれば、いやレイに愛されるなら騎士でなくとも平気だ。

けれど、レイは違う。

私だけの魔術師では、だめなんだろう。

いっそのことまったく魔素のない世界であれば、ともおもう。

けれど、諦めてしまったレイをみるのはきっと悲しい。


「レイの力を否定するつもりはない。なにかあったらきっと守る。けれど、この国の仕組みもわからない状況で人目に付くのは危険だ。それは、わかってくれ」


『あなたのためだから』


かつてさんざん聞かされて、虫唾が走るほど嫌いなセリフ。

それと、同じようなことを口にしている。

親切めいた言葉で、自分の都合を押し付けている。

レイは気づかないだろうと。

多少、不誠実だとしても、レイを大事におもう気持ちは本当だから、と。


「わかった。ちゃんと考えてみる」


私の言葉をまっすぐに受け止めて、レイは落ち込んでしまったようだ。


すまない。

レイの描く未来が、私とともにあることを願っているだけなんだ。


私はレイに宿からでないよう声をかけて、街に出た。

当座の金はあるが、実入りのいい仕事を探そう。

幸い、レイはあまり社交的でない。

静かなところに、レイと住む家を手に入れたい。

そこでだれにも邪魔されず魔術の研究をすればいい。


「ほんとうは、私だけの魔術師でいてほしい」


いつか、言えるだろうか。

これが生涯の誓いの言葉だと、気付いてくれるだろうか。

うけいれて、くれるだろうか。



「なあ、アレク、酒場に寄っていこうぜ」

馴れ馴れしい大男に内心ちょっとうんざりしつつ、

借りもできたことだしと、一杯だけ付き合うことにする。


男は、ゆうべの常連のひとりだった。

あのとき、かなり酔っぱらっていたのに、私に仕事を紹介すると言ったことを覚えていたらしい。

口入屋に向かう途中で出くわすと、あちこちに引き合わせてくれた。

一見無頼漢だが、意外と、この街の有力者からの信頼も厚いようだ。


『恋人と離れたくないので、何カ月もかかる行商の用心棒はできない』

そんな条件をつけたにもかかわらず、男のおかげでいい話を受けることができた。

主な仕事は、領主一族の外出時の護衛だ。

もちろん、近くには子飼いの騎士が付くが、狩りや大規模な視察では人員が足らないらしい。

そういったときのために、腕利きの傭兵が登録されている。

当然、本来なら新顔の私に入る余地はない。

男の推薦のおかげだった。


酒場へ向かいながら、私は気になっていたことを尋ねた。

「世話になっておいて聞くのもなんだが、なぜオレを推薦したんだ?」

酔っ払いを数人倒したぐらいでは、実力は測れない。


「そりゃ、たんに人手がたりねェからだ。腕が立つのはいても、問題を起こさなさそうなのはすくねェ」

「へえ、オレの何がわかるというんだ?」

「そうだな、アレクはあの大人しそうなにいちゃんに惚れてるから、どこぞの嫁を口説いたりしないだろ」

「あたりまえだ」

「ふたりで暮らす家が欲しいし、遠出はしたくないってことは、いっときの金に目がくらんで持ち逃げとかしねェだろ」

「ああ。なるほど、理解した」


自惚れていたわけではないが、見込まれた理由のくだらなさに衝撃を受ける。

裏を返せば、ここの連中は見境なく口説くし、大金をみたら持って逃げるってことか。

ろくでもないな。

やはり、魔術が廃れて街同士の連携も取れなくなっているのだろう。

なにかしでかしても、その場を離れれば逃げ切れてしまう。

私たちにとっては好都合な面でもあるが。


レイを宿で待たせておいてよかった。

夕食は先に食べただろうか。

はやく一杯つきあって、帰りたい。

つらつらとそんなことを考えていると、ふと見覚えのある後ろ姿が見えた。


「レイ?」


酒場の裏口にいるのは、宿にいるはずのレイだった。


「こんなところで、なにしてるんだ?」

酒も酒場も好きじゃないはずだ。


レイは一瞬、しまった、という顔をした。

見つかるとおもっていなかったのだろう。

レイが私に隠し事をしようとしていた。

その事実は私を打ちのめした。


「仕事を探しにきたんだ、ぼくも」

開き直ったようなレイの言葉が追い打ちをかける。


仕事?

よりによって酒場で?

酔っ払い相手に?

レイは、魔術師なのに?


マデル村で慣れない半端仕事に苦労しているレイをみたときの憤りが甦る。

レイはもっと尊重されるべきだし、ふさわしい生き方があるのだ、と。

そのために、ここに来たのに。


「こんなところで?バカじゃないのか!」

気づいたときには、レイの腕を掴んで、怒鳴りつけていた。


「離せよ。仕事探すってそんなに怒るようなことじゃないだろ」

レイは冷たく言い放った。

突き放された気がした。

いま手を離したら、レイは。


私はその腕を掴んだまま奥歯を噛みしめた。

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