第22話 可愛いミラベルのため

<モブ視点>


『騎士様とお話したかっただけなのに、一緒にいる男がいつも邪魔をしたの』

しょんぼりと話すミラベルは可愛らしい。

騎士様なんかと会わせなくてよかった。


だけど。


『ミラベルを悲しませるような奴はオレが許さねェ』

男ならそういうしかないだろ。


『うれしい、私のために怒ってくれるのね』

でかい胸の前で細い指を組んで微笑む天使、いや女神。

そいつらが向かったというバーニアはオレの雇主の行商人のルートだ。

うまくやって、土産話をきかせてやればキスぐらいできるんじゃないか。


そんな、軽い気持ちだった。



「なあ、あそこにいるふたりが噂の騎士様と魔術師らしいぜ」

「ミラベルを泣かすなんざぁ許せねぇな」


いつもの酒場で用心棒仲間がニヤニヤと指さした。

みれば、ムカつく美形と、小洒落た優男だ。

見せつけるようにいちゃついている。


「ちょっと遊んでやろうぜ」

多少飲んだが、ふらつくほどじゃない。


「おいおい、林檎酒なら飲めるとか、どんな可愛い小娘かと思えば」


優男がびくっと顔をあげた。

悪くないツラだが、男だ。

胸はない。

天使みたいなミラベルに張り合おうなんて生意気なやつだ。


「ミラベルに聞いたぜ、いい年して年下の男にたかってるって?」


傷ついた顔で黙り込む男に、興が乗る。

皆の前でこんなふうにやり込めたといえば、ミラベルは喜ぶだろう。

女を買う金もないオレのまえで恋人に世話焼かれてるのもムカついた。


「調子にのってんじゃねェよ。淫売が」


なんの殺気もなく、一撃を食らってオレは沈んだ。

倒れる途中にオマケのようにみぞおちに拳が叩き込まれる。


オレは床を転げまわった。


鞘でなければ、即死だったろう。


いっしょについてきた二人も、やられた。


信じられねェ。

いっぱしの用心棒三人だぞ。


「オレの恋人を侮辱して骨の一本で済んだのは幸運だな」


芝居がかった仕草で、両腕を広げて若い男が声を張る。


「レイは優しくて賢い、ミラベルとかいうクソ女の嫌がらせにも耐えた」


わざとらしくミラベルの名を出して、オレの顔を覗き込んでくる。

余裕を感じさせる言動とはうらはらに、殺意に満ちた怒りが死の恐怖をあおる。

ベタ惚れっていうのは本当のようだ。


オレはただ、必死で何度も頷いた。


「振られた腹いせに妙な噂を流したようだが、レイと手軽に遊ぼうなんておもうな。もちろん、本気でもだめだ。オレたちの邪魔をしたら。……殺すぞ」


よくわかった。


嫉妬してたのはミラベルのほうだった。

いやがらせに利用されたオレはとんだ道化だったってわけだ。


無様に転がったオレたちを無視して、酒場はやんやと盛り上がっていた。

少々の喧嘩は酒の肴だ。

道連れにしちまった仲間の恨みがましい視線をうけながら、オレは這うようにその場を離れた。


「ああ、いてェ」


なんとか帰り着いた安い宿屋の一室で、オレは呻いた。

きっとあばらが折れている。

腹に決まった一発のせいで、水をのんでも吐いちまう。


「バケモンかよ」


あんなクソ強いのがついてると知ってたら、ちょっかいなんかかけなかった。


明後日には行商人はこの街を出る。

それまで引きこもってあのブチ切れ騎士に会わないようにしよう。

いや、それ以前に仕事ができるまでに体を戻せるだろうか。

あばらは固定すれば動けるが、戦えるかといえば無理だ。

バレれば用心棒は首になっちまう。


いまさら痛みが強くなってきた。

脂汗を滲ませて、ベッドに横たわる。


「もう、マデル村にはいかねェ」


ミラベルの甘えた上目遣いを思い出しても、びっくりするほど心は動かなかった。

言い返しもせずに堪えていた優男のほうがきれいだったような気がする。


頭がぼーっとしてきた。

熱が上がるんだろう。


「謝らねェとな」


自分でもなにを言ったのかわからないまま、オレは意識を手放した。


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