第3話 元騎士、魔術師に助けられる

<アレク視点>


私は火竜と戦っていた。

魔獣は魔素の塊だ。

あれ一頭でかなりの魔力のもとになる。

我々が前線で足止めしているあいだに、後ろの魔術師が攻撃を当てる。


はずだった。


予想外の攻撃だった。

炎をまとった尻尾が頭越しに魔術師たちを襲う。

混乱したところに鉤爪が振り上げられた。

必死で進行方向を逸らしたが、盾は砕け、私も腹に一撃を食らって吹き飛んだ。


死を覚悟した。


けれど、私は生きている。

信じられない。

近くで誰かの話す声が聞こえていた。



「レイが助けたんじゃろう?」

「トマスさん。この人はもしかしたらぼくと同じところからきたのかもしれません。

 この人の倒れていた周りだけ、空気が違って、なぜか魔術が使えたんです」

「それでは、レイは本当に魔術師なのか?」

「もうあんなふうには使えません」


このレイという魔術師が、私の命をつなぎとめたらしい。

自分を叱咤してまぶたをあげる。

人が好さそうな青年が困ったような笑みを浮かべていた。



「あなたが、助けてくれたのか」


そう声をかけると、びっくりしたように目を見開いた。

琥珀色の瞳が美しかった。



身体の回復は順調だったが、聞かされた話は信じがたいものだった。


「おとぎ話?」

「うん。ここには魔物も魔術師もないんだ」

「私は炎を剣にまとわせて戦ってきたんだぞ」

「あー、たぶん炎はなしかな」

「そんな!ただの剣では通用しない!」

「魔獣もドラゴンもいないから、そんな強いのと戦うことはないみたいだよ」


レイの落ち着きをみて、私は自分を恥じた。

ただの剣でも戦うことはできる。

魔術師だったレイのほうが、こっちでの苦労は多かったろう。


「レイはどこの出身なんだ?」

「ラーマゲートだよ」

「えっ」


あそこはドラゴンの群れに襲われて放棄されたはずだ。

私の言葉にレイはショックをうけていた。


「ドラゴンは、理由もなく殺しちゃいけないって決まってたろ?」

「魔素が減っている今、魔獣を魔素に戻すのは騎士の仕事だろう?」

「なんですかそれ!」


かみ合わない。

何かがおかしい。

私たちは顔を見合わせた。



「すると、私はレイより300年ほど後の人間ということか」


レイのいたころは、魔獣や精霊とも共存していたそうだ。

だがやがて魔素は減り、魔術の利用に支障をきたしだす。

私の時代では、魔素を増やすために魔獣を狩ることが求められていた。


「そうだね。ここはさらに先みたいだけど」


魔素の元になるものさえ狩りつくし、魔術が失われた世界。


ふたりしてしばらく黙り込んでいた。

あまりに遠くに来たものだった。


だけど、ここにレイがいてくれてよかった。

私はそのことだけは運命に感謝した。



「たきぎはもう十分だ、先に戻ってくれ」

「じゃあ、ダンさんに野菜分けてもらってくるよ」


私は村長の離れを出て、レイのあばら家に転がり込んでいた。

季節は冬に向かっている。

隙間だらけのこの家は、かなり補修しなければ寒い思いをすることになる。


「屋根と壁があって暖炉もあるんだから、平気だろ」


レイは意外とおおらかだ。

もっと粗末な小屋で冬を越したこともあるらしい。


「アレク!」


レイが離れるのを待ち構えたように村の娘が駆け寄ってくる。

私は内心舌打ちした。


「一度ぐらいうちに遊びに来てってば。今日の夕食は?」


この手の誘いはあしらいなれている。

一度でも乗れば、両想いだ恋人だ結婚だと騒ぎ立てるつもりだ。


「もう夕食は仕込みも終わっているんだ」


罠で仕留めたウサギでレイがシチューを作ると言っていた。


「じゃあ、私がお邪魔しようかしら」

「遠慮してくれ」


期待されては困ると、はっきり断っているのに。

今日も振り切るのは大変そうだった。

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