第23話

【第23話 軸の崩壊、そして決着】


 夜の演習場は、すでに戦場ではなく――渦だった。


 レンとカイ、二人の高速スピンが中心でぶつかり合い、

 衝突のたびに地面が波のように震える。


ガガガガガァァァァンッ!!


 火花が弾け、砂煙が白い稲妻となって空へ走る。


(持つ……持て……!こいつを止められるのは、もう俺しかいない!!)


 レンは、軸を限界まで細く絞る。

 身体の揺れを一切許さず、一本の杭のように大地へ突き刺す。


 まさに“回転そのもの”。


 対するカイは――暴走のピークにあった。


 背中の違法ギアは赤熱し、六枚の増幅フィンがバチバチと火花を散らしている。

 スピン速度は圧倒的だが、その軌道は完全に乱れ始めていた。


「レンッッ! どけっ!俺は止まらねぇ! 止まれねぇんだよ!!」


 絶叫と共に、カイが一気に速度を跳ね上げる。


 視界から完全に消えるほどの超加速――

 次の瞬間、真正面からレンへ突撃してきた。


 地面がえぐれ、空気が破裂する。


「受ける!」


 レンは自らもスピンを最大まで高め、真正面からぶつかった。


 ――ドゴォォォォォン!


 爆音が演習場の外まで響き、衝撃波が砂を吹き飛ばす。


 互いのスピンエネルギーが噛み合い、中心に光の渦が生まれた。

 押し合う。削り合う。擦れ合う。


 だが――


 レンの軸はぶれない。

 対してカイは、足下が大きく揺れた。


(軸が……沈んだ!?)


 ついに違法ギアが制御限界を超えたのだ。


 フィンが一枚、爆ぜる。


「ぐああああああっ!」


 カイはよろめき、体勢を失う。

 高速スピンのまま軸が乱れれば――それは致命傷になる。


(このままだと……カイが自分で自分を壊す!!)


 レンは瞬時に解を出した。


 自分の回転をわずかに逸らし、衝撃を“弾く”。


 ギアの推力を横へ流し、暴走の直撃を防ぐ技。

 トップランカーしか扱えない、熟練者の“ずらし”。


 そして――


「カイ!!止まれぇぇぇぇぇっ!」


 レンのスピンが角度を変え、カイの軌道へ横から噛み込む。


 衝突。火花。衝撃。


 だがそれは“破壊”ではなく、“逸らす”ための一撃。


 カイの体がくるりと半回転し、

 そのまま回転の勢いを失って――


 地面へ転がるようにスピンアウトした。


 違法ギアが悲鳴を上げ、力を失って沈黙する。


 砂が落ち着き、静寂が訪れる。


 レンは最後のスピンを止め、息を切らしながらカイへ歩み寄った。


「はぁ……はぁ……カイ、大丈夫か……!」


 地面に倒れたカイは、苦しげに息をしながらも笑った。


「……バカ、だなお前……。 あんな角度で“ずらし”なんかしたら……お前の軸の方が折れるかもしれなかったのに……」


「折れなかったからいいんだよ。」


 レンが手を差し出す。

 カイはその手を震える指で掴んだ。


「……勝ったな、レン。」


「お前が死ぬよりは……な。」


 カイの違法ギアの残骸が、月光に照らされて静かに散らばっていた。


 夜風が二人の熱を冷まし、演習場にようやく呼吸が戻った。

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