第21話

【第21話 違法ギア使いとの対峙(スピン・フィールド)】


 夜の演習場。

 照明魔石が放つ青白い光の下、砂の地面には無数のスピン跡が刻まれていた。


 レンは軸足を固めながら、目の前の男を見つめる。


 男――カイ。

 背中には金属製の“回転補助ギア”が食い込むように固定され、六つの増幅フィンが不気味な光を帯びて震えていた。


 本来、軍でも使用禁止の違法スピンギア。

 使用者の体を削りながら、回転トルク・加速反応・姿勢制御を強制的に引き上げる危険物だ。


 レンは低くつぶやいた。


「……そんなもんに頼るって時点で正気じゃねぇよ。」


 カイは唇を吊り上げた。


「正気じゃ勝てねぇんだよ、レン。 俺は“普通の回転”じゃ、お前には追いつけない。 だから全部壊す――お前も、ルールも、世界もな!」


 ギアが「ギィッ」と開き、圧縮魔力が空気を振動させる。

 砂がふわりと浮き、風が渦を巻き始めた。


 次の瞬間――


 カイの体がスッと消えた。


「……ッ速い!」


 レンは反射的にスピンジャンプで横へ跳ぶ。

 直後、先ほどまで立っていた地面がドンッ!と爆ぜ、砂が吹き飛んだ。


(最低限の軸制御だけで、あんな速度まで……!? 違法ギアが、回転トルクを完全に外から補正してやがる――!)


 カイはすでに第二撃へと移っていた。

 身体ごと高速回転しながら、斜め下から削り込むように突っ込んでくる。


 ――ズガァァン!!


 レンの脇腹に衝撃が走り、視界が白く弾けた。

 体が数メートル吹き飛び、砂を削りながら転がる。


「っ……くそ……!」


 立ち上がるレンを見て、カイは歩きながら笑う。

 その歩みは軽い。だがギアの負荷で背中が微妙に痙攣しているのがわかった。


「正規スピナーは余裕ぶってるのが気に入らねぇ。お前らみたいな“才能持ち”を倒さなきゃ、俺らの場所なんかねぇんだよ!」


 レンは息を整えながら回転軸を調律する。


「場所が欲しいなら……他人を壊すなよ……!そんなギアで自分まで削って……何が残るんだよ!」


「黙れぇッ!!」


 カイのギアが一気に過負荷状態へ。

 六枚のフィンが開ききり、赤熱した魔力が噴出する。


 超高速スピンの残像が左右に揺れ――

 次の瞬間、カイがレンの正面に現れた。


 レンは咄嗟に防御回転に切り替えるが――

 衝突の角度を完全に合わせられず、衝撃が腕から肩へ突き抜けた。


 ぐらりと姿勢が揺れる。


(……でも動きが雑になってきた……!ギアのオーバースピンで、軌道が安定してない!)


 その“乱れ”を見逃すレンではなかった。


「そこだッ!」


 レンが急加速し、身体を“横回転トルネード”へ切り替える。

 カイが動揺し、軸が一瞬だけズレた。


 ――衝突(クラッシュ)。


 鋭い衝撃音とともに、カイの頬に深い摩擦切創が走った。

 血が散り、違法ギアが火花を散らす。


「ぐっ……!」


 後退したカイの呼吸が荒くなる。

 ギアのフィンがバチバチと不安定に震え、暴走寸前の光を帯びていた。


 レンは回転を保ったまま言った。


「カイ……ギアが壊れる前にやめろ。そのままだと、お前の軸が耐えきれず……死ぬぞ!」


 カイは歯ぎしりしながら吐き捨てる。


「……だったら……勝つしかねぇんだよ!!」


 ギアの魔力炉が悲鳴を上げる。

 演習場がまるごと震え、地面に“不吉な渦”が浮かび上がる。


 ――逃げられない。

 この戦いは、避けようとしても始まってしまう。


 レンは軸を固定し、加速姿勢をとる。

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