第16話
【第十六話 止まらない軸(ネバー・エンド・スピン)】
試合が終わっても、歓声は鳴り止まなかった。
世界大会――ヘリオス・ドーム。
赤と青のライトが交差し、リングの上に立つレンの影を照らす。
優勝者として名が呼ばれた瞬間、
レンはただ、息を吐いた。
(……勝った、のか)
燃え尽きた実感の方が強い。
指先には、まだ火花の余熱が残っている。
「レン!」
スズハがリングを駆け上がってきた。
負けたはずなのに、笑っている。
涙をこらえるような、複雑な笑顔で。
「おめでとう。……ほんと、すごかったよ」
「お前もな。あんな速さ、誰も真似できねぇよ」
二人は互いのコマを掲げ、ぶつけ合う。
カン――
音はもう、試合のものではなかった。
戦った者だけが分かる“共鳴”の音。
表彰式が終わり、控室。
スタッフが去った後、レンは一人でリングを見下ろしていた。
誰もいない観客席。
そこに残る歓声の残響。
「……スズハ」
振り返ると、彼女がドアの影に立っていた。
「さっきさ、思ったんだ」
「ん?」
「“勝ち負け”よりも、“回り続ける理由”の方が大事なんだって」
「……お前がそれ言うか」
「だって、止まったら終わりでしょ? でもさ、止まることが悪いんじゃなくて、
止まってもまた回せるかどうか、なんだと思う」
スズハは《ヴェント・リリィ》を掌に乗せた。
光を反射して、淡く輝く。
「風は止まっても、また吹く。
あんたの炎だって、いつか消える。でも――」
「……また燃やせばいい、ってか」
「そう。回すのは、自分の意志だよ」
二人の笑い声が、控室に静かに響いた。
数時間後、夜。
レンはホテルの屋上に出て、夜風を浴びた。
ロサンゼルスの夜景が、星のように瞬いている。
(……ここまで来たんだな)
ふとポケットから、小さなパーツを取り出す。
スズハが渡してくれた、ヴェント・リリィの軸の欠片。
赤いブレイザー・ギアの中心に、その欠片をはめ込む。
炎と風――
異なる軸が、ひとつになる瞬間。
「……これでいい」
レンはリングを置き、ゆっくりと回した。
コマは静かに、夜風を切りながら回り続ける。
誰に見せるでもなく。
ただ、止まらない軸のように――。
夜空の彼方。
ヘリオス・ドームの照明が、ひときわ強く輝いた。
その中心で、小さな火と風が交わる。
――世界はまだ、回り続けている。
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