第7話
マルコニーが、精力的に活動しているらしい。急がないとね。
特許制度の欠点でもある。
技術を公開しないといけない。パクリもしくは、バージョンアップを考えられたら、資金力がモノを言う。
数百人の技術者が集まったりしたら、開発スピードで勝てる訳がない。
「……先に大陸間通信を成功させて、マルコニーを失脚させる必要があるな」
いや、失脚させなくてもいい。
先に成功した実績を上げる。それだけで、俺のパトロンが増えるんだ。
俺は既に100キロメートルの無線通信には成功している。
それを、約3,400キロメートルに伸ばせばいいだけだ。
「もう、資金難からの孤独死は回避できそうだけど、大陸間通信だけは成功させたいな」
本来のテスラは、鉄塔を建てようとして、資金が尽きた。
一方マルコニーは、凧だ。簡易的で、経済的だ。
今だから分かる。
「うん。段階的に成功を収めないといけないよね。成功を積み上げ行くのが正しい。年単位で使える設備を作るのは、後年にするべきだよね」
いきなり一歩も二歩も先の技術を実現しようとしても、ハードルが高くなるだけだ。
「小さい成功を見せ続けて、周囲に理解させる……。自制して、鉄塔の作成は延期しよう」
ウォーデンクリフ・タワー計画は、一時凍結だ。
まず、高い所からの発信が必要だ。
凧は、気象条件に影響を受けるから、俺は別な方法を取りたい。高度的に、気球がいいかな~。
それと、電波の周波数だな。短波の方が有利なんだ。マルコニーの失敗として知られている。
地球は丸いことが知られていて、長距離通信には限界距離があると思われているけど、実際は『電離層の電波の反射』があり、可能なんだ。
短波を使い気球をアンテナにすれば、短期間と格安で通信装置が作れるだろう。
最後に、場所の選定だな~。
「発電所をヨーロッパに作れるかが、最大の問題になりそうだ」
ちょっと世界情勢も怪しいしね。
軍事転用可能な技術は、民間では敬遠される時代だ。
◇
イングランドに建設した発電所に、無線通信の送受信機を置かせてくれる契約を交わした。
ちょっと値が張ったけど、今の俺には問題ない。
ボラれているのかもしれないけど、それに見合う功績になることを知っているんだし。
時差があるので、タイミングを合わせないとね。
ロングアイランド島に作った発電所から、電線で繋がった気球が浮かび上がる。無人でいいんだし、飛ばされない様に、ワイヤーも付いている。最高高度は、10キロメートル前後までらしいけど、そこまでは必要ないんだよな。
「今日は、風もあるし3000~4000メートルにしようか~」
イングランド側の気象条件も分からない。時間だけしか相談してないんだ。
「テスラ氏……。もうちょっと気象条件のいい時期でもいいんじゃないかな?」
ジョン・ヘイズ・ハモンド氏から言われた。俺のパトロンの一人だ。
でも気象条件ね~。
マルコニーは、気象条件の安定する時期を狙っていると思う。
正直、今しかないんだよね。
「私の設計では、これくらいの気象条件ならば、問題ありません。言い換えれば、この程度の気象条件で通信できなければ、実用性はないと思います」
「流石、テスラ氏。頼もしいですな」
納得してくれたようだ。
「そんじゃ、送受信実験開始ね~」
時間が来たから、実験を開始する。
実験には、モールス信号を扱える記者や軍人に協力してもらう。
事前打ち合わせのない、一文を送ってもらうんだ。送信文は、俺も知らない。
──ト・ツー……
「返信が返って来ました。こちらの質問に、的確な答えです。それと、相手側の質問にも返信しておきました」
「「「おおお!」」」
記者が騒ぎ出す。
軍関係者も、お偉いさんが検討しているみたいだ。
後日、船を使い送受信した内容の記録が運ばれてきた。検証が行われ、不正のないことが立証される。
マルコニーが成功するのは、数カ月後だろう。
「ふぅ~。後は鉄塔を建てれば終わりだ。資金も十分にあるし、軍も後押ししてくれる。つうか、完成後は、接収されそうだけど、高額で買い取ってもらおう」
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