第33話 辻斬りの正体



 王都の広場で地盤沈下が起こり、僕とベルチカ、メイドールとクリスティーナは奈落の底に落ちちゃった。


 で、地上への帰還を目指してダンジョンに入ったらなんか中に剣聖がいた。



「クハハハハハ!! よォ、また会ったなァ!!」


「……なぜ貴殿がここに?」


「オレ様もよく分からん!! 辻斬りを追いかけて水路に突入したら変な穴に吸い込まれて気付いたらここにいたんだ!!」



 えー。



「ということは、辻斬りはこのダンジョンにいるのかね?」


「おう!! つーかそこに転がってるソレが辻斬りの正体だった!! ぶっ壊すのに苦労したぜェ!!」



 剣聖が指差したのは通路のど真ん中に転がっていたゴーレムだった。


 あ、このゴーレム壊したの君なのね。

 

 いや、ちょい待ち。辻斬りの正体がダンジョンを守っているゴーレムだって?



「なるほど、合点がいきましたわ」



 と、そこでベルチカと一緒にゴーレムの残骸を見ていたメイドールが何かに納得して頷いた。


 何か分かったのかな。



「こちらのゴーレムには侵入者を迎撃する魔法式が組み込まれているようです。ただ、行動範囲の指定に異常が見つかりましたわ」


「行動範囲の指定?」


「ええ、近くにいる武装した敵を認識して襲いかかるようですわ。おそらくガムラン様が通ってきた穴から王都に迷い出て人を襲っていたのかと」



 そういえば、ガルが辻斬りは冒険者や兵士、騎士ばかり狙っているから一般人に被害はないって言ってたっけ。


 冒険者や兵士、騎士……。


 いずれも常に武器を持ち歩いている人たちだし、辻褄は合うね。


 あれ? でもおかしいな。



「待て。仮にそうだとして、何故最近になって辻斬り被害が出るようになったんだ?」



 もしメイドールの話が正しいなら、辻斬りの被害はもっと前から出ているはず。


 その時だった。



「多分、ボクのせいかもしれないです……」



 とても言いにくそうに、ベルチカがおずおずと手を挙げた。


 え、どゆこと?



「このゴーレム、ボクの聖剣が宿す魔力に反応して起動しちゃったみたいです……」


「……辻斬りが活動を始めたのは勇者学院から留学生がやってきた時期と一致する、と私の友人が言っていたが……」


「な、なんかすみません!!」


「いや、謝罪は必要はないだろう」



 別にわざとやったわけじゃなさそうだしね。


 辻斬りに遭った被害者は全員僕が辻ヒールして治療したし、ベルチカに非はない。


 ……それにしても。



「メイドール殿もベルチカも、やけにゴーレムに詳しいのだな」


「……ま、まあ、ボクはほら。ダンジョンとか好きだから!!」


「わたくしは侍女の嗜みとして少々……」


「そうか」



 へー、侍女ってすごーい。



「ところでそっちのチビ、お前強いな!! オレ様と戦え!! そしてその首を寄越せェ!!」


「……?」


「お前だァ!! 金ピカの剣を持ってるお前!!」


「もしかしてボクのことですか? ボク、チビじゃないです!! ……たしかに同年代と比べると少し背は低いですけど」


「どうでもいい!! オレ様と戦え!! 来ないならこっちから行くぞ、チビぃ!!」



 ベルチカが青筋を浮かべる。


 どうやらベルチカは身長を気にしているようで、剣聖のチビ呼ばわりは地雷だったらしい。

 通路の真ん中で大量の血飛沫が舞い、無数の血溜まりができる。



「クハハハハハ!! 見た目の割に強いなァ!! まさか負けるとは思わなかったぜェ!!」


「……貴方は見た目の割に弱っちぃですね」


「弱いということは強くなる伸び代があるということだなァ!! クハハハ!!」



 ポジティブ。


 全身の骨をバキバキにへし折られてしまった剣聖をこのまま放置しておくと死にそうだし、とりあえず治癒魔法をかけよっと。


 あれ? 思ったより軽傷だな。


 骨にヒビは入ってるけど、見た目ほど酷い怪我ではないね。

 流石に状況が状況だし、ベルチカが手加減したのかな。



「天才のオレ様は気付いてしまった!!」


「わっ、急に大きな声を出さないでください!! びっくりするじゃないですか!!」


「なァオイ、ノーフェイス!!」


「……私に何か用かね?」


「オレ様と組まないか!?」



 剣聖と組む?



「もしかして、ノーフェイスさんに治癒魔法をかけてもらえば何度でも戦えるとか言い出すつもりですか?」


「違う!! もっと天才なことだ!!」


「もうその発言自体ちっとも天才っぽくないんですけど……で、ノーフェイスさんと組んで何するんです?」


「まずオレ様が強い奴をぶった斬る!! で、そいつをお前が治す!! でまたオレ様がそいつぶった斬る!! これで無限に強い奴をぶった斬れるって寸法よォ!!」



 うわ、やっぱり怖い人だ。


 ベルチカも僕と同意見のようで、冷たい眼差しで剣聖を見つめていた。



「こんな頭のおかしい人に付き合ってられません。早くダンジョン最奥にある転移魔法陣を見つけて地上に帰りましょう」


「ん? ダンジョン最奥に行きたいのか?」


「……そうですけど。別に付いてきても構いませんよ」


「オレ様はここに迷い込んで何日も経ってるからなァ!! ダンジョンの最深部への行き方は知ってるぜェ!!」


「それ、もっと早く言ってもらえませんか?」


「聞かれなかったからなァ!! クハハハッ!!」



 とまあ、こうして剣聖の案内でダンジョンの一番奥に辿り着くことができたわけだけど……。


 辿り着いたダンジョンの最深部。


 おそらくはその先に転移魔法陣があるであろう扉の前に一体のゴーレムがいた。

 三メートルくらいの高さがある、また妙にSFチックな真っ白のゴーレムだ。


 何あれカッコイイ。


 前世で僕が好きだったロボットアニメの主人公機にそっくりだ。



「あれはダンジョン最奥を守るガーディアンですね」


「あれはオレ様が何十回も挑んで勝てなかった相手だぜェ!!」


「クリスティーナ様がいる今、危険は避けたいのですけど」


「うぅん、ノーフェイス様ぁ……そんなこところ舐めちゃらめれすぅ……むにゃむにゃ……」



 クリスティーナ、どんな夢見てんのかな。


 しかし、メイドールの言うようにクリスティーナを守りながら戦うのは難しい。


 どうにか迂回できないものか。……あっ。



「剣聖が落ちてきた穴から外に出るのは?」


「あ? んなもんぶっ壊して塞いだぞ。水がじゃばじゃば出てきて鬱陶しかったからな」


「ホント何やってんですか、貴方!!」



 うーむ、どうにかあのロボットを倒して進むしかなさそうだ。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「男は大体ロボットが好き。子供の頃は主人公とかライバルが使う機体が好きだけど、大人になると汎用機を改造した機体とか好きになる。作者はジェガンが好き」


ア「僕普通に主人公機とか好きなんだけど……」



「ベルチカとメイドールの反応怪しいの草」「剣聖が頭おかしい笑」「あとがきめっちゃ分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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